終戦後の馬鹿
Side Liz
うふふふふ。あはははは。なにかやってるねー。そだねー。
うふふふふ。あはははは。あっちのひとはキラキラしてる!こっちのひとはやさしいひかりだね。
ただ、アレたちは、きもちわるい。ほんとだね、ほんとだね。
――一体何なんだい?
どこからともなく聞こえる声。幼い子供のような声。
バーンって!かっこよかった!うん、すっきりした!くさいものは、きれいにしなきゃね!
これ、かっこういいよね!なかにはいりたい!
「リズちゃん、何か方法を考えないと」
ララの表情は少し硬い。
「ララ、これから言う事は、あまりにも馬鹿げてる。でも、こうじゃないか、と思うンだよ」
「リズちゃん?」
ララが不思議そうな顔をする。
「アタシはね、昔から変なものが見えた。光の球体。何かわからないモノ。生き物なのか、そうじゃないのか。わからない。けれど、アタシが作った武器のいくつかは、完成したときに、それがスッと入っていったンだ」
あの時は本当に驚いた。生まれたときから見えてるナニカが、アタシの作った最高傑作の武器に入り込んでいったから。
「え?どういうこと?」
「それが入った武器は、とても性能が良くなるンだよ」
「リズちゃんの大槌も、そうなの?」
「ああ、そうだよ」
まず、魔力の通りが格段にいい。異能力との相性も最高。威力もかなり申し分ない上に、理屈は分からないが、色々な力がかみ合って更に倍増している。
「待って、分からない。理解できない。もうちょっと具体的に教えて?」
「アタシもよくわからない。でも、たぶん、それがやつらに効くらしいことは分かる」
「何で、そう思ったの?」
「さあ?さっきまで忘れてたンだ。アタシはね、それらが――精霊なんじゃないか、と思うね」
「せ、精霊……」
一気に胡散臭そうな表情をした。まあ、アタシも突然そんなこと言われたら、同じ顔をしそうだが。
「アインがよくそれを見ていたンだ。みんなといる時は、見ないように、意識しないようにしていたみたいだけど、つい目で追っているときあった」
「ああ、確かに……。時々話していて目が合わなかった時があるのよね。私たちじゃ見えない何かがいたのね……」
「信じてくれるかい?」
「今はそれしか頼れないでしょ。それに……精霊学ってかなりマイナーじゃない?なのになんで数ある学問から精霊学を選んだのか、気になってたのよ」
不敵に笑うララは、九星のメンバーに相応しい雰囲気を纏っていた。
「私の杖も、リズちゃんに作ってもらったけど、その……精霊は宿ってないのかしら?」
「宿ったと言っても、五つくらいなもんさ。ゼストの銃は一つも宿ってないね」
「一番リズちゃんに作ってもらってる筈なのに……」
「数撃っても当たらないモンさ。それに……そのうち一つはラースの刀だったンだ」
「うわあ……絶対使わないやつでしょ」
ララが口に手を置いて呆気に取られていた。
「それに、アタシは刀を作るのが得意なンだ。まあ、仕方ない」
「……とりあえず、精霊が宿った武器が役立つってことね」
「役に立つのは間違いないね。けど、五つのうち一つはエリックも持ってる」
「じゃあ」
「けどララは見たかい?エリックの大剣が途中で止まっていたンだよ」
あの時は、エリックが異能力で強引に引き抜いてたが。
「なら意味ないでしょ」
「ノアやラースが何とかしてくれるさ」
「そんな適当な……」
「でも、牽制くらいにはなるさ。奴らの攻撃を斬るくらいはできる筈さ」
「そう……。次はどう……」
立ち回ればいいのかしら?という言葉がララから出ることはなかった。
「時間切れだ、残念なことにね」
「は?時間切れ?そんなの聞いたこと……」
「タール!戻ろう」
「ああ、ヌフィスト!」
交戦中だった大男がヌフィストとグレースの元に走り寄っていった。
「は?ちょっと待ってよ!戻ろうって、時間かければ落とせそうじゃない!」
「時間切れだよ。あのお方からのご通達だ」
「何で今更……!」
「命拾いしたね。よかったね、あのお方の目的がお嬢ちゃんたちじゃなくて」
「はあ?突然現れた挙句国中を知っちゃかめっちゃかにしてくれたにも拘らずよかったね?ふざけるな!」
「でも、実際そうなんじゃないかな?――まあ、次会える日を楽しみにしておくよ」
そう言って、ヌフィストは煙幕を張った。急いでミリアが魔法で吹き飛ばしてくれたが、視界を覆われた一瞬のうちに、三人はいなくなってしまった。
「これで、終わったか……」
いつの間にか姿を現していたノアが言う。
「ノア、一体どういう未来を見た?話してくれ」
ゼストがじれったい、と言うかのごとくにノアの腕を掴む。
「分かってるよ。だからそう慌てないでよ」
ノアは柔和な表情でそう言った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「奴らの目的は、ステラを攻め入ることで、とある人物を怒らせるためだったんだよ」
「とある人物……?」
「そう。彼が出てくれば、その彼を誘拐しつつ目撃者である僕たちを消す。そういう算段だったんだ」
「ソレとアインに何の関係があるンだ?」
ラースがちっともわからない、と言った風に聞いた。
「あんまり関係はないかな。アイン君が来ても、同じ未来になるけど、どうやらアイン君の前世が関係しているようでね……」
「前世なんかある訳ないだろう」
ゼストが真っ向から否定する。
「いや、あるね」
ノアもゼストの言葉を否定する。
「……お前まさか覚醒してないか?」
「何でそう思うの?」
「6年前から疑っていた。あの革命の時。どう考えても三日先の未来を見れる範疇を超えてただろ。それ以外にもちょくちょく覚醒してなければおかしいことを言いまくるし……」
「そうだね、でも頭を使えばなにもおかしなことじゃない」
「たかが三日だ。その程度の能力でステラの運営などできる訳もない」
「いや、国の運営なんかそれくらい未来が見えていれば……」
「そんじょそこらの国とは違う。わかってるだろ」
「え」
「異能力者が生まれる唯一の国なんだ。それだけで外交問題が発生する。その上、気になることがあってオケディアを調べていたら、この国が超古代国家だという事が分かった」
「超古代国家?」
「なんかめっちゃ古そうだな」
「実際古いのよ」
エリック、ラース、ミリアの順だ。ゼストは彼らを無視して続ける。
「他にも、ヴァイドとゼス、イーストフールの三国をまとめたロースタス、クリスタルパラスの前身、エネリシア、そして――久遠。この四ヶ国が超古代国家、そして九星はその四ヶ国から集められている」
「俺はギブで」
「理解するのを諦めるな!」
「じゃあ俺も」
「アンタは元貴族だろう?」
「元貴族と馬鹿は関係ない」
ラースとエリックが理解を諦めると、ミリアとアタシがたしなめる。
「……ヴァイド、ゼス、イーストフール、クリスタルパラス、久遠はかなり昔からある国だ。俺達は、全員そのいずれかの国出身だ」
「おお、分かりやすい!」
「もうちょい知能指数上げて」
ゼストが呆れたように溜息を吐き、眼鏡をかけなおしながら説明してくれる。アタシも学がないとはわかっていたが、あの二人よりかはましだね、そう思わずにはいられなかった……。