規格外同士の戦い
Side Noah
決定打が足りないな……。僕の魔法は、リズちゃんが『付与魔法』をかけてくれるから、何とか敵に通じているみたいだが、リズちゃんは異能力を覚醒させていないから、目に見えた効果はない。
ただ、そこは九星。力のごり押しも可能だ。まあ、それでも完全に無傷なのが三人いるが。
『これ、もしかして効いてる!?』
『んー何で効いてるんだろうね……?あれで効くの、ちょっと強いウィキッドくらいなんだけど』
『異能力を使ったら、とりあえず攻撃が通るし、その攻撃が強力過ぎるからじゃないか?タールと呼ばれた男は、何度も同じところに鉛玉ぶち込んでるが、傷一つない。だが、あの紫男は血が流れてるぞ』
『なんでもいいんだよ、攻撃がとおりゃあねェ!ほら、さっさと倒すよ!』
『そうだな。何でもいいだろ』
『でもエリックは、全く傷を与えれていないようだけどねェ?』
『あ"あ"!?』
『喧嘩しない、喧嘩しない』
……本当に、元気だなあ……。
未知の敵に相変わらずな九星に、僕は思わず笑みがこぼれる。敵には、僕たちの会話は聞こえていないため、突然笑った僕に警戒していた。
「お、お前!何を笑っている!?」
「人間ごときが、私たちに勝てる道理がないのですよ。さっさと降伏しなさい。苦しみなく殺してあげますよ」
「「「「「「「断る」」」」」」」
ふざけたことを言う紫髪の男に、全員で断る。
「はあ?力の差、分かってないの?どー考えてもうちらが強いに決まってんでしょ?馬鹿なの?」
「そう言うあんたが馬鹿なのよ!いい?私たちはね、目標があるの。それはね、あんたのような雑魚に殺されるようじゃ達成できないのよ!!」
「ざ、雑魚!?」
「そうよ!あんたなんか、必ず倒すことができる強敵くらいじゃない!雑魚よ、雑魚!」
「ミリアちゃん、やめなさい」
敵を煽っちゃいけません。
ミリアちゃんがヒートアップする度に、魔法の威力が強力になり、範囲が広がる。それでも九星に当たっていないところを見ると、十分冷静ではある。
「ブッ殺す!!!!!」
だが、相手が冷静であるとは限らない。
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Side Miria
金髪の女は、顔を真っ赤にして怒鳴る。私の魔法を時々斬ってはいるが、そもそも私の異能力は魔法全般に関するものだ。ノア兄の言いつけで、温存しているので全力は出していない。
「魔術師対剣士ってさ、基本的に魔術師の方が強いんだよね。リーチが長いから」
「突然何言ってんのよ、あんた!」
「でもさ、私は九星。魔法はできるけど、接近戦はできないので負けました、じゃあお話にもならない訳。だって、魔術師の弱点ってさ、接近戦だもの」
「は?当たり前のこと言って何がしたい訳?私強いんです、っていうアピール?」
金髪の女は、私を馬鹿にしたような表情で嘲る。
「馬鹿じゃないの?つまりさ――あんたごときの剣術じゃあ、私の相手にもならない」
私は、常にローブを着ている。魔術師っぽい服装。それで、私に接近戦を仕掛けた敵を騙すのだ。
ローブを脱ぎ、その下に来ていた私の服に、女は驚いた表情をした。
「そ、それって……!」
「私はね、接近戦もできるしオト兄がいるから、私が自分の魔法に突っ込んでいっても、怪我をしない。でもあなたはどうでしょうね?ただでさえ、しのぐことも困難な魔法の雨に、接近戦もこなす魔術師が突っ込んでくるの。どう?」
私は、オト兄にアイコンタクトをして、結界を張ってもらった。ぴったりと、私を覆う結界を。
それでも敵は強力。ちょっと意表を突いただけで、倒すことはできない。けれど、この環境じゃあ、いつまでもつのかしら?
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Side Lara
「聖職者相手に死者を出すなんて、なんて強気なのかしら」
私は、紫髪の男性を見てそう言った。
「馬鹿なだけじゃないかい?」
リズちゃんはそう言うけれど、そもそも死霊魔術師は、聖なる気配は本能的に嫌がるもの。
だからこそ、とても豪胆に違いないの。――私が治せなかったものは、アイン君の傷跡ぐらい。回復魔法の強さは、魔術師本人の神聖さに大きく左右される。回復魔法とは言うものの、魔法とはまた違う位置づけであることは間違いない。
そんな私の目の前で、死者を操っている。そんなのは死者に対する冒涜。私が最も忌み嫌うものだわ。
「初めまして、私はこの国の王妃です。名前は――言わなくてもいいでしょうね。どうせ、貴方は私に殺されるんですもの」
私はにっこりと紫髪の男性に言った。ノア君が煽らないの、って言いそうだけれど相手の冷静さをなくすのは、戦いにおいて重要なことなのよ?
「これはこれはご丁寧に。では私も自己紹介を――と言いたいところですが、所詮死ぬ人間に教えても無駄なだけなので。さあ、我々を甘く見た報いを受けなさい」
男は馬鹿にしたように笑い、死者に私たちを殺すように命令する。私はにっこりと笑ったまま、その場に立っていた。
死者が私たちに襲い掛かりそして――私の半径5mに入ろうとしてすぐさま浄化され消える。誰も彼もが私たちに触れることはなかった。
「な!」
「あら、貴方方を甘く見た報い――でしたかしら?私に全く近寄れないようですけれど」
私は上品に笑い、懐から杖を取り出す。そして、杖を大きく掲げ、周囲を浄化した。
「死者!死者がいない!貴様、一体何をした!!」
「なにを、って……。ただ周囲を浄化しただけですが?」
「はあ!?何を言っている!?国の外に置いておいた死者すら消えたのだぞ!」
「ええ、周囲を浄化しましたの。どんな遠い所からも死者を呼べないように。周囲の国ごと浄化させていただきましたわ」
私は、絶望の表情をしている紫髪の男性に、とびっきりの笑みを浮かべて見せた。その隣で、得意げに、どこか私を呆れてリズちゃんは笑っていた。




