霧の中に埋もれる光
Side Miria
ノア兄の招集により、ララ姉とリズ姉と共にゼス兄とノア兄の元へ急いでいた。
「ノア君とゼス君は大丈夫かしら……」
「そんな簡単にやられるほど、柔な奴じゃないよ」
「それはそうなんだけどね……」
ララ姉は不安なようだ。一刻も早く駆け付けたいのに、雑兵が次々と出てきて、足を嫌でも止めさせられる。
「ああもう!どれだけ多いのよ!」
めんどくさいったらありゃしない。本当に鬱陶しい。
次々に敵を倒しつつ、目的地に急いでいると、銃声が何発も聞こえてきた。
「ゼストだ!あともう少しだよ、行くよ!」
私たちは足を速めた。
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Side Noah
――うーん、まあ、効いているんだろうけれど、とても効いている訳じゃなさそうだな……。
ただの攻撃では、全く効かない。特殊な攻撃や、彼岸の魔族による攻撃でないと、奴ら――ウィキッドとまともに対峙することができない。
『ノア、完全に消耗戦だ。まあ、ラースが来るまでの間なら持ちこたえることはできるが、どうする?』
ライフルを構えつつ、僕に方針を聞きに来るゼスト君。――やっぱりきついよね。
『うーん。とりあえず、持久戦になるね。僕たちのやるべきことは、足止めだよ。ラース君が来ることを悟らせてはならない』
『分かった。――エリック、オットー!あまり消耗しすぎるなよ!まだミリアもララもリズも来ていないんだ!』
ゼスト君がエリック君とオットー君に呼び掛ける。二人は対峙していたウィキッドから素早く距離を取り、
『だが、全く攻撃が効かないんだが?』
『結界は、効果ある、みたい』
成程、エリック君は基本的に攻撃に異能力は使わないけれど、オットー君は異能力で結界を強化しているから、ウィキッドに効果的だったのだろう。
『異能力なら効果がある。けれど期待できるほどある訳じゃないから、そこは気を付けて』
『分かった』
『ん』
『了解』
三人は頷いた。
――せめて、オットー君だけでも覚醒してくれればな……。あの人も、それを理解していたからこそ、あの薬をオットー君に飲ませたのだろうし。
あの忌々しい薬は、異能力の覚醒を手伝う。ただし、容量を間違えれば、直ちに死に至る。取らなさすぎるのはまだいい。異能力の覚醒が遅れるだけだからだ。だが、取りすぎれば、どんな毒でも怪我でも病気でさえも治してしまえるララちゃんの異能力が通じない毒に体を蝕まれることになる。
実は、その毒を解毒する方法があるのだ。ただ、それは異能力を覚醒させる必要がある。
一度に量を取れば覚醒できる、というものでもないため、本当に飲みすぎないように計算が必要だ。
ウィキッドの弱点の一つに、覚醒した異能力者による異能力による攻撃だ。覚醒していなくとも効果はあるものの、たかが知れている。だが、九星の中でも異能力を覚醒させている者は僕とアイン君のみ。
僕はどうやっても異能力を攻撃に使えない力だ。前にリズちゃんと共に武器に付与しようと思ったら、リズちゃんの異能力が覚醒していないせいで付与できなかった。
アイン君の異能力は抹消。あまりにも強力で危険で、そして代償もそこそこ大きい異能力だ。その分威力は申し分ない上、汎用性も抜群。ただ、今あのウィキッドに合わせると、完全に詰む未来しか見えない。だから呼ぶこともできない。
ウィキッドの他の弱点は、彼岸の魔族による攻撃だ。これは、彼岸の魔族の血の濃さによって威力が変わるらしいが、混血のラース君でも十分らしい。アイン君は少なくとも純血以上らしいが、詳しいことは分からない。
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「お待たせ!」
援軍がやってきた。ミリアちゃんの魔法が炸裂した。
「おせーよ、ミリア、ララ、リズ」
「ああ?文句言う暇があるのかい?全く情けないねェ、女に頼るなんて」
「はあ?そもそも奴らに攻撃がほとんど通じないんだよ、そもそも九星に男も女もあるか。お前よりもどう考えたってノアやゼストの方がひ弱だぞ」
「おい、お前らの喧嘩に俺まで巻き込むな、筋肉ゴリラ」
「喧嘩は、だめ」
「何でそんなすぐに喧嘩しだすの……」
「いつものことでしょ」
目が合ったとたんに喧嘩しだすエリック君とリズちゃんに、状況を忘れてあきれる。若干の巻き込み事故にあったが、それに文句を言うゼスト君と、毎度のごとく仲裁をするオットー君の光景は、どういう状況でも変わらない。
「舐めてんのかしら!?」
緑髪の女がキレだした。
「これだから人間は……」
「そもそも君たちだってあんまり変わんないでしょ、アルテオ」
紫髪の男が嫌味を言うが、緑髪の男がやんわりたしなめる。
「俺の方が筋肉ゴリラだが?おら、どっちが力持ってんのか、力比べしようぜ?」
赤髪の大男は、どうやら阿保のようだ。
「むさくるしいのまじ無理ぴー。てゆうか、さっきの魔法何?あれで服汚れてマジぴえん」
……呪文かな?
「あの女なんか無理。よしもっと魔法ぶち込もう」
勝気なミリアちゃんの苦手なタイプだったらしい。一応、異能力の話は九星間で共有できているため、普段たわまれに放つ魔法よりかなり濃厚な殺気を感じる、
……ラース君の無遠慮な物言いにミリアちゃんがキレている構図だ。あれもなかなか殺気が込められていたんだが、異能力が混ざるとああなるのか。
もはやラース君もいらないんじゃないかとすら思い始めた。ゼスト君はいくつかの銃をうまく使い分けて、敵の頭を撃ち抜いているし、エリック君はあの赤髪の大男に対してかなり善戦している。
オットー君も結界を張ったり解除したりで九星を守ってくれたり、反対に敵の動きを阻害したりしている。
ミリアちゃんは言うまでもないが……。向こうに一人分のかなりの殺気を感じるというだけで、何をしているかは容易に理解できるだろう。
ただ――。
「あまり大したことないね。厄介すぎるほどに厄介ではあるけれど」
あまり効いていないようだ。