仲良くなりたいんです!
「あ、あの!」
朝食を終え、皆思い思いに過ごしている中、サティが声を上げた。
「私、もっと皆さんと仲良くなりたいです!ジェシカ様とお話したのもあるんですが、もっと皆さんと仲良くなりたいんです!」
……実際驚いた。まっすぐで純粋。まっすぐは僕の周りにもいた。でも、純粋となると、それはいないように感じる。ミリア姉さんも、ララ姉さんも、ラース兄さんも、エリック兄さんも、リズ姉さんも。どこか歪で、世の中を斜に構えている所がある。達観している所があり、彼らの苦い笑顔を何度も見てきた。
人は、魔族でさえも必ず死ぬんだよ、とはリズ姉さんが言っていた。その時のリズ姉さんは、片腕を失っていた。
一番恐ろしい化け物は、魔物じゃねぇ、人間だ、とはエリック兄さん談だ。いつもは服の中にしまっている小さな小瓶を取り出し、せつなそうに眺めていた。
人ってさ、ものすごく脆いンだよ、簡単に壊れちまうの、と笑ったのはラース兄さんだ。ただ僕は知っている。その笑顔の裏には悲劇が隠れている、と。
ミリア姉さんは……とにかく九星を戦争に駆り出す政府に呆れていた。
「へえ?いいね、可愛い子なら仲良くなるの、大歓迎だよ」
マルティン様がニヤッと笑う。アムステルダム様がそんな様子に呆れていた。
「サティ!私たち、ってもう友達よね!?呼び捨てで呼んでいいわよ!」
そんなサティに抱き着くグラッチェス様。時々しか見たことない姿に、また内心驚いた。
「ならアインも巻き込もうか。いつまでも愛称で呼んでくれないからな」
マティアス様が怪しい笑みを浮かべてこちらに近づくので、僕は少し後ろに下がってしまった。
「確かに、いつまでも他人行儀なのも嫌だしな。それに長ったらしい姓じゃなくて、名前で呼んでくれる方がいい」
「ジャスパー様の方がシモンズ様より長いのですが」
ルーデウスが至極もっともなことを言う。
「シモンズは一人じゃないぞ?ジャスパーは一人だし、愛称で呼べば短くなる」
確かに、シモンズ様の言う通りでもある。
「まあ、反対しない」
アムステルダム様が腕を組みながらそう言った。なんだか珍しい感じがする。
ジークハルト様は笑顔で頷いている。
「俺は、カーティスって呼んで~。カティでもいいけれど、サティと混ざりそうだね」
「僕はジークでいいよ。名前、長いしね。兄上とジェシカはそう呼んでいるし、他の友達もそうだから」
「ぼ、僕は……昔お母さんにルー、って呼ばれてたかな」
「ああ、そういえばお前は庶児だったな」
「え!元平民なの!?」
「うん。母さんがなくなったから、父上に引き取られたんだ」
「よくある貴族の闇の部分だよね。そういう家ってあまり信用できなんだよね」
「確かにそうだな。全てそうとは言い切れないが、そもそも使用人に手を出した上、その使用人を娶らない主人も、その使用人が生んだ子を迫害する夫人も深くは信用はできないな」
「ルー様は、そういうことはなかった!?」
「父上は僕には無関心でしたが、義母上からは虐げられました。兄上は優しくて、僕を守ってくれたのですが……。アインさんが気づかなければ、その兄上とも会わず仕舞いでした」
「本当なのね……。貴族って怖い」
「まあ、色々と気にすることが多いしね。貴方も平民だからって油断していると、虐められるかもしれないわよ」
「お、脅かさないでよ!!」
と、みんなで集まってワイワイ話している。
僕はそこに入り辛く、少し離れたところでじっと見つめていた。
「入らないのか?」
マティアス様が僕に話しかけてきた。
「はい。……僕には―――――――」
言葉尻をすぼめて話す。話しているうちに、だんだん自信がなくなり、足元に視線を落とした。
それが聞こえていたのかどうかはわからないが、マティアス様は僕の手を取る。
「別に、気に負う必要はないだろ。お前はお前だ。むしろ、お前が行かないことの方が問題だと思うが?」
「そう、ですかね……」
僕はなかなか一歩を踏み出せなかった。
「そもそも、お前に文句を言えるのは俺だけだが?つべこべ言わず、いいから来い」
そう言って、マティアス様は僕の手を無理やり引っ張った。
「わ」
別に、そこまで踏ん張っていたわけではないものの、思った以上に力強かったために、驚く。
その時初めてマティアス様の顔を見た。自信満々の表情。僕の中に全くないそれに、どうしようもなく羨ましく感じる。自分なんか、という卑屈な考えが癖のように浮かび上がる。
「おい、言ったよな?お前に文句を言えるのは俺だけだって。お前はただ俺に従っていればいいんだよ」
少し拗ねたようにそう言い、マティアス様はずかずかとあの輪の中に足を踏み入れた。
「聞き分けのない俺の護衛は、いつ俺を愛称で呼んでくれるんだ?」
意地悪い声で、マティアス様は僕の耳元で囁いた。




