ステラ防衛戦
Side Zest
ノアと共に、息を殺して転移魔法陣――があるらしいところに射線を通せるところで、ショットガンを構えて息をひそめていた。
ちなみに物陰に隠れるのは意味がない。周囲の索敵に視覚のみに頼っている訳ではない。だから隠れても無駄だ。
しばらく無言で待っていると、魔法陣に魔力が迸り始めた。美しく光り輝き、線が浮かび上がっていた。
光の粒子がどこからともなく大量に集まり、人を模っていく。すると途端に光の粒子が急激に消え失せ、5人分の姿が浮かび上がった。
「ふーん?ここがオケディアか?前と変わってんな」
赤髪の男がしきりに辺りを見回している。身長は2mはあるだろう。
「そりゃそうだろ。前っていったいいつの話だよ」
緑髪の男が茶化したように言う。
「じめじめしてんの萎えるー。なんでこんなくらいとこに転移魔法陣敷いてんの?」
金髪でギャルっぽい雰囲気の女が爪をいじっていた。
「目が厳しいのよ。目立つところに転移陣を敷いてごらんなさい。見つかったら消されるだけじゃすまないわよ」
緑髪の女が腰に手を当てて言った。
「全く、この魔方陣の欠陥ではないですか?最大5人しか転移できないじゃないですか」
やれやれ、と言わんばかりに紫髪の男が眼鏡を直しながら言った。
「転移ってどれだけ魔力を食うと思ってんだ。5人も一度に転移できる時点でかなり優秀だと思うぞ」
緑髪の男が苦笑しながら言っていた。
5人全員が余裕そうだ。明らかに舐めている。まあ、それも理解できる程の魔力をまとっているため、傲慢になるのも無理はない。
だが、九星を舐めて無防備に直通の転移魔法陣を使うのは愚策だったな。地獄の底で悔やむといい。
俺は赤髪の男の額に狙いをつけた。
―――ゼスト君、やれ。
ノアから通信を受け取った。俺は迷わず引き金を引いた。
大きな銃声が響きわたる。銃弾は俺狙い通り、奴の脳天をぶち抜いた。
「タール!!!」
緑髪の女が驚いたように言う。
突然聞こえた銃声と、倒れた赤髪の男に奴らは驚いていたが、すぐに冷静に辺りをうかがっていた。
「まさか、ここがばれていたなんて」
「こそこそしてるなんてダルいんですけどー。さっさとでてきてくんない?」
「さすがに少し舐めすぎていましたね」
そう言いつつ、見えない筈の俺の方に向いていた。
俺は銃を撃ったことで、位置をあらかた特定されてしまったため、移動する。ショットガンを背負い、腰のホルスターからピストルを二丁取り出した。
―――いくよ。
ノアの合図とともに俺はピストルを撃つ。全く油断した訳ではない。頭を撃ち抜いただけで死ぬなんて思わなかったから、何発も頭や心臓に銃弾を撃ち込んだ。
ノアもノアで奴らを挟んで俺の体面に立っていた。そして身動きが取れないように足元を氷漬けにした後、ピストルの弾を全て使いきった後すぐに、全身を氷漬けにした。
「これでやられてくれれば話が早いんだけどな……」
ついそう呟いてしまった。
「無理だね。僕たちのやることは、足止めだよ。相手を倒すことじゃない。――アイン君がいない以上、ラース君に頼るしかない」
「は?それはどういう――」
「そろそろララちゃんたちが駆けつけてくるころだから、透明化を解くよ」
ノアが不思議なことを呟いた後、そう言った。俺は浮かび上がった疑問をひとまず忘れ、目の前の敵を倒すことだけに集中した。
「ノア!あいつらは人間なのか!?」
「いや、違う。ウィキッドという種族で、弱点は――よくわからない。ただ、頭や心臓を撃ち抜いただけでは死なないのは確かだ」
「そんなに簡単に倒せないか」
小声でノアとやり取りした。
「あそこにいたわ!」
まあ当然、透明化を解いたので見つかった。
「へえ?俺の脳天ぶち抜いたのはどっちだ?」
「異能力、か……。想像以上の威力だな」
「興味深い……。ウィキッド最強のバンヴァタールに何発も食らわせるとは……」
「ならこれでもくらっとけ」
奴ら――ウィキッドの紫髪の男にピストルを撃った。
先ほどまで使っていた鉛の銃弾ではない。土魔法と火魔法で作った銃弾だ。
先ほどの弾は、普通の銃弾にリズが異能力で付与してくれたものだ。
対してこれは俺の魔法だ。威力はこちらの方が高いが、俺の魔力を使うため、必要な時以外では使いたくない。
「ついでに僕の魔法も味わってよ。僕――“絶対零度の司令官”て呼ばれているんだ」
そう言って、魔法を放つ。俺の銃弾も、ノアの魔法も避けられてしまったが、それもすべてノアの計算通りだった。
「ったく、人使い荒いなあ!」
「異能力の、話?なら、焼かれて、死ね」
突然聞き覚えのある声がしたかと思うと、肉を切る生々しい音が聞こえた。そのすぐ後に結界が張られ、中を激しく焼く炎の音がする。
エリックとオットーが駆けつけてくれたようだ。
「痛ぇな、出合頭に胴体半分に切るやつがあるかよ」
「タール!油断しすぎよ!」
「てか、まだでてくんの?ダルいんだけど」
どうやら無傷のようだった。
「やられているばかりじゃいられないんでね」
緑髪の男がそう言うと、あたりに毒霧が漂い始めた。
「そうよ。これっぽっちの攻撃で死ぬとか、本当に甘く見られたものね」
緑髪の女がそう言うと、鉄扇をとりだし、構えた。
「オケディアは不都合なんですよ、私たちの計画には。地図から消えて貰いましょう」
紫髪の男は地面に手をつき、幽霊を召喚した。
「戦いとか、爪とか欠けちゃうし、服とかせっかくメイクした顔とかにも埃とかかかっちゃうし、あんましたくないんだよね。でも、やんなきゃけない時もあるっしょ?」
金髪の女はそう言って剣を取り出した。
「かかって来いよ、人間」
赤髪の男はそう言って俺たちを煽ってきた。
「あまり僕たちを舐めてると、痛い目に合うよ?大昔にそう学ばなかったかい?」
ノアも相手の煽りを何倍にして返していた。




