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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
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推し様に愛を

Side Matthias


俺はセオドア王国の第一王子、マティアス・ドゥ・セオドアだ。実は俺は前世の記憶がある。それは、この世界にも関係している。この世界は、日本で大流行した乙女ゲーム『白桃(しらもも)の君に愛を捧ぐ』の世界だ。



ヒロインは、桃色の髪に白い髪が混ざっている可愛らしい少女だった。名前はサティ。名前の変更ができないタイプだ。ストーリーは、サティと恋に落ちたハイスぺイケメンと共に、世界を滅ぼさんとする魔王を倒す。その後、攻略対象から一人を選び、結ばれる。



俺はその攻略対象の内一人。ジャンルは俺様王子だ。マティアスは、気に入っていた使用人に手酷く裏切られ、人を信じることができなくなる。それをサティに恋することで、人を信じることの喜びを思い出すのだ。



別に俺は前世が女だっていう訳じゃない。だが俺はゲイだった。なので、巷で流行っていた乙女ゲームに手を出してみたところ、ハマってしまって、全ルート、全スチルをフルコンプした。



そんな俺にも当然推しキャラが存在する。その推しキャラは、ヒロインでも俺の婚約者(後の悪役令嬢)でもなく、マティアスを裏切った使用人だ。

え?モブもいいところだって?いやそれが違うんだな。彼は敵国が送ってきた、天涯孤独の凄腕暗殺者だ。



だが、使い潰され、ついに限界を迎え、吸血鬼としての本能が溢れ出てしまう。どうやらマティアスと彼は半身らしく、色々な相性がいいらしい。



だが、マティアスは自分を裏切った暗殺者――アインを許さない。アインは、自分を受けれられないマティアスを嫌悪していた。それにより、世界で一番仲が悪い半身が誕生した。



それに、マティアスは別にゲイでもバイでもない。それはアインにも言えることだ。何故なら、アインはマティアスと出会う前、手酷い虐待を受けていたため、人間不信で人間恐怖症だ。なので彼は、声と、表情と、恐怖以外の感情を失っていた。それにより、自己主張もない。紆余曲折あって、アインはマティアスの専属護衛騎士になったが、マティアスはそんなアインを蔑ろにしていた。


だが、彼は美しすぎた。そのためアインを手に入れようと、男女問わず襲い掛かってくる。主に見捨てられた平民の騎士が、平民ましてや貴族に舐められない訳がない。



アインは、死にキャラだ。2割のルートで魔王を倒す前に死に、3割のルートで、魔王との交戦中に死ぬ。大体半分のルートでその後闇堕ちして死に、残りの半分で自殺。後は行方不明か、ヒロインと結ばれるかだ。



アインは、行く末を左右する大きなイベントがある。それは、見ず知らずのおっさんに凌辱されかけるという内容だ。助けが間に合えば自殺はしないが、間に合わなかったら即自殺。初めてが奪われた瞬間にナイフで心臓を突き刺して死ぬ。それでも彼は美しいため、死体となっても貪られ、それを駆け付けたヒロイン達に発見される。



――これを思い出していたら、俄然やる気出てきた。よし、アインを絶対に幸せにするぞ!絶対に闇堕ちも自殺もモブレもさせない。


そう誓った俺の元に数年後、俺を裏切る予定の少年が顕れた。俺は王子の顔を完璧に保つ内心で歓喜に満ち溢れる。


――ようやく来た生推し!ああ、早くアインの姿みたい……。使用人アルとしての姿じゃなくて。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は、なんだか胸騒ぎがして目を覚ました。昼の喧騒からの落差に、俺はこの静けさを不気味に思う。



――行かなければならない。

何処へ?

――父上の執務室へ。

何故?

――そうすべきだから。



俺は誘われるがまま、父上の執務室へ向かい、戦闘音を聞いた。

「父上!」



父上の執務室の扉を勢いよく開けた。すると、そこには黒髪の少年――ゲームの時よりかなり子供にした感じの姿の推しが、大人たちに囲まれていた。その中には騎士団長――アルフレッドや、魔術師団長――ルーファスの姿もあった。彼らから少し離れたところに、父上は優雅に座っていた。



一瞬の動揺の中、いち早く動いたのはアインだった。こちらを向いたかと思うと、長い前髪の後ろにチラチラ見える黒眼――設定では限りなく黒に近い緑――は、鮮血のような紅に変わった。病的なまでに白い肌も相まって、一つの芸術品のような美しさであった。


俺が思わず見惚れていると、彼は小さく笑ったような気がした。その笑みも美しかった。



「!?」

体の前面に熱を感じた。そして首筋に痛みを感じた。肩が痛い程に掴まれる。あまりの事態に思考が停止した。



――え、ちょっと待って。俺今推しに抱きつかれてる?!それに血を吸われてる?!はーい、一回深呼吸。……って落ち着けるかッ!!



取り敢えず、俺に抱きついている推しを観察する。先程は気付かなかったが、蝙蝠の翼がちゃんと生えている。そしてすんなり首筋に牙を突き立てられたことからして、犬歯も鋭くなっているのだろう。


――一心不乱に俺の血を飲むアイン。ヤバい、物凄く可愛い。



俺はどさくさに紛れてアインを抱きしめる。


――ん?アインって今10歳だよな?今更ながら、細くないか?ほぼ骨じゃん。



俺がそう考えていると、不意にアインの体が傾いだ。


「え、ちょっ!?」

慌てて俺はアインを抱きしめている腕に力を加えた。彼の安らかな寝息を聞き、俺は安堵した。

眼が閉じられているため、瞳の色を確認することは叶わなかったが、蝙蝠の翼や、鋭い犬歯はもう跡形もなかった。

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