慌ただしい朝
Side Miria
「まったく、朝から騒がしいわね」
どたばたと落ち着きを見せない文官たちを遠目に眺める。
「まあ、仕方ないじゃないか。ノアが大きな事件が起こる、と言ったんだ。その来る時まで、命より大切な書類を移動させなきゃならないからねェ」
リズ姉さんは少し困った風に笑っていた。
「オト兄さんに頼めばいいじゃない。絶対に割れない結界を張ってくれるわよ」
「ふふ、今日ラース君帰ってくるらしいから、そんなにカリカリしなくてもいいのに」
「カリカリなんてしてない!!」
揶揄うように笑うララ姉さんに私はすかさず言い返す。
「ラースなんか、帰ってこなくてもいいわよ!別に!」
「あらあら」
唇を尖らす私の気持ちは、すでに二人には筒抜けなのだろう。
私が少しイライラしているのは、別にラースが私に何も告げずにこの国から出たからとかじゃない。それに、仕事で行っているため、期限付きの出国であることも知っていたし、別にラースが出国した後にラースがセオドアに行くことを知らされた訳でもない。
私だって、仕事であればどこのでも行くので、余計にもやもやするのだ。
「それにリズちゃん、エリ君が怪我したことを心配したのを隠して口論止めてくれる?」
「……」
「リズちゃんだって、自分の気持ち、伝えなきゃだめよ?あの人、とんでもないくらい鈍感なんだもの」
「知ってるさ!」
まさか自分に飛び火するとは思っていなかったらしいリズ姉さんは慌ててそう返す。
そうかしら?と首をかしげるララ姉さんはもう既に既婚者な訳で、その点において私たちが敵う事はない。
優雅に紅茶を啜るララ姉さんにむくれつつ、ノア兄さんが言うその時まで待っていた。
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その時は意外にも早くやってきた。不穏な気配を感じ取り、私たちはいっせいに席を立つ。
禍々しい、今すぐにでも排除したい感じだ。
「これが……?」
「たぶん、そうね」
「これは……。確かにアタシたちが作られたのも、納得ができるねェ」
おぞましい。それが一番私たちが感じたものにぴったりの言葉だ。
今までも、そいつらに会ったことがない訳ではなかった。寧ろ、会っていたからこそ、私たちが作られた理由が分からなかったのだ。
正直、今もわからない。だが、分からなくてもあれがステラを危機に陥れる原因だという事さえわかれば、今は十分だ。
「外の中央広場からする!」
「確かにするね。全く、人が多い所を選んでんじゃないよ」
「早くいきましょう。国民に被害が出る前に」
私たちは、急遽女子会を終わらせ、中央広場に向かうことにした。
「ラース、早く帰ってきなさいよ!」
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Side Eric
「あれか?ノアが言ってたやつは?」
「……そうだ」
全く表情を変えずにオットーが呟く。
目の前にいるのは、人型の何か。まだ一人しかいないが、これから増えていくかもしれない。
「あんなものがこの世に存在するとはな……。ま、さっさと終わらそうぜ」
「油断は、禁物」
俺を見るオットーの瞳には、非難の色が垣間見えた。
「する訳ねえだろ。一国を危機に陥れる存在だぞ?もしかしたら単騎で俺を圧倒するかもしれないのに、油断なんかするかよ」
「そう言って、左腕、切り落とされたの、誰?」
痛いところを突かれ、俺は苦い顔をする。ララに治してもらい、その様子をリズに見られた。治してもらったばかりの腕を思いっきり叩かれ、口論になったことは記憶に新しい。
「とりあえず、集まるまで様子見をするか」
「そうだね。敵が、どれだけ、強いのか、分からないし」
「それか、俺とお前がいるから特攻もあり」
「危なかったら、ノアも言う、だろうし、いいかな」
正直、周囲の九星が集まるまで待てなかったので、オットーの返事に内心ガッツポーズした。
「じゃあ作戦DAな」
「ここは、BFか、M、じゃない?」
「は?なんでだよ」
「DAはラースが、ギリ。エリックじゃあ、遅い」
「あいつも遅そうだからいいだろ」
「左腕……」
「あーわーたよ!Mな!M!」
「了解」
いつもオットーと組んでいるときは、作戦Mが多かったため、気晴らしにアインやラースと組んだ時にやってた作戦DAをやりたかったが、オットーに却下された。
まあ、素早さが命な作戦なため、動きが遅い俺達には合わない作戦ではある。主にラースとアインが組んだ時にその作戦を使っており、スマートに敵を屠っていたのだ。
俺は、大体が力のごり押しになるため、戦い方はスマートではない。だから、うらやましくもあった。
「いいか、321だ」
「了」
「3,2――」
互いに呼吸を合わせた。
「1!」
俺の掛け声と同時に隠れていた場所から勢いよく飛び出す。敵が振り返る前に身長ほどある大剣で切りつける。その間にオットーは俺とて気を挟んで反対側に回る。
「8!最初から飛ばすぜ!!」
「7あまり無闇に突っ込まないでね」
戦いに意識を集中させる。その時ばかりは、いつもどもりがちなオットーの口調もはっきりと流ちょうになる。
「いきなり切りつけるなんて、痛いじゃないか!!」
「あ?体を縦半分に切るつもりでやったのにな」
「腕落ちた?」
「んな訳あるか。こちとら毎日お前の狩ったい結界壊してんだぞ」
「それもそうか」
「この俺様を前にして、無駄話とは、随分と余裕じゃないか」
「余裕だぜ?なんせ、俺の最初の一撃を避けられなかったんだからな!」
「弱い」
「あ"あ"?!」
男がキレだす。
「もう怒った、もう怒った。お前ら二人ともぶっ殺してやる!!」
「やれるもんなら」
「やってみろ」
そう言うや否や、8は身長を超える大きな盾を構え、体当たりする。
巨大な盾からの体当たりに踏ん張り切れず、男は吹っ飛ばされるその先に、俺がいる。
「8のシールドバッシュを受け取ったんだろ?――これも受け取れよ!」
そう言い、大きい剣を器用に振り回し、相手を切りつける。
そうすれば、簡単に体が真っ二つになり、男は息絶えた。
「――これだけか?」
「そんな訳ないだろう。周りを見ろ」
息絶えた敵をしゃがんで見ながら一人拍子抜けしていると、8が俺の背後を見ながら険しい表情をしていた。
「おおーと。どこから湧いて出たんだか」
8に言われ、周囲を見てみると、今までどこにいたのか、目の前の男と同じような奴らがうじゃうじゃいた。
「頭数さえあればステラは落ちるってか?――そんな簡単にクーデターを許すほど、九星は甘くねえんだよ!!」
「かかってこい」
もし九人揃ってなくとも、ステラは俺達で守り切れる。
俺は8と敵を蹴散らしに行った。




