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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第二章 ゲーム本編――始動

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それぞれの思惑

Side Unidentified


「今のところは、視たまんまの景色か」

大きな執務机で柔和な笑みを浮かべている男がいた。


「確かにそうだが、どうするんだ?」

「ひとまず呼び戻さなきゃ。流石にあの子の力なしじゃあ、きついものがあるよ」

「それはそうだ」

「できれば、あの子も呼びたいけれど……今は相当忙しいみたいだしね。別に今は悪い方向に行っている訳じゃないし、しばらくはこのままがいいな」

目の前の男は、未来が見える。そういう風に周りは思っている。だが、それは違う――。



「いいとこどりだね。結局これが一番いい。相手がせっせと準備している間に、僕たちはその結果を横取りする準備をすればいい。まさか、相手も横取られるとは夢にも思っていないようだし、一番の成果をあげられる」

事情を知っている俺からしてみれば、本当に悪い顔をしている。――少しは罪悪感というものがないのか。


「はあ、本当にうんざりだ。どいつもこいつも勝手で困る」

「それは誰に対して言っているんだい?あの子かい?それとも、僕?」

「両方に決まってるだろ」

「まあ、我儘で自分勝手なのは認めるよ。あの子の平穏を壊す行為だ。でも、あの子の平穏は、あれ以外にもあると思うんだ」

「あれについては、俺も認められないから、俺も随分勝手だと思うよ」

死が救済だ――。それが世界を救う英雄にかけられる言葉なら、違うと否定したい。



「まあ、働こう。どうせ変に動いたら、あの子に勘づかれる。あの子は鋭いからね」

ふ、と微笑むと通常通りの雰囲気になった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Ain


夏季休暇の前日だ。そしてこの日に、ラース兄さんは臨時講師の職から外れる。


「よーし、ようやくだ!!」

「解放されているな」

「ラース兄さん……」

「アイン、またな!実は、今日セオドアを立たなきゃならねェンだ」

「どうしてそんな急に……」

数日はこっちでゆっくりしてほしかったのに、残念だ。


「ノア兄が、早く帰って欲しい、って言うからなァ。突然だが、仕方ねェ」

「ノア兄というのは、ステラ国王のことか?」

「ああ、そうだぜ?」

アムステルダム様が、それを聞いて考えこんだ。


「どうしたンだ?」

「確か、貴方がこちらに来たのも、彼の命令で……」

「ああ、ノア兄はなんというか、その―……ええっと、なんて言えばいいンだ?」

ラース兄さんが僕に助けを求めてきた。まあ、口を滑らせなかったのでいい。ラース兄さんはよく口を滑らせがちだしね。


「……先見の明がすごいのです。ラース兄さんを急いでステラに帰させるのは、ステラで何かが起こるのでしょう」

「それは……」

アムステルダム様が、僕は行かなくていいのか、と聞いているかのようだった。


「まあ、戦闘ならラース兄さんがいれば大抵のことは何とかなるでしょう。それに、僕はノア兄さんから何も言われていないですし……。僕がいてもいなくても、事態が解決すると考えているからこそなのでしょう」

「まあ、そういう事だ。じゃあな!!」

そう言って、ラース兄さんはここから去っていった。



「ステラで何かが起こる、か」

マティアス様が、そう言っていたのが妙に耳についた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Matthias


夏季休暇に無事突入した。


『白愛』では、一学生は攻略対象との恋愛イベントしかない。例えば攻略対象といい雰囲気になったり、悪役令嬢がヒロインを虐めたりなどがあるが、面白いくらいに何もなかった。


一番大きな役割をしていたジェシカがいないからだろうか、それともさりげなく攻略対象たちからサティを遠ざけているからだろうか。

本来起こる筈だった恋愛イベントが全く起きない。



ゲームの通りに進めば、ハイスぺな男と結婚できたはずのヒロインには申し訳ないことをしたと思っているが、誰しも自分の利益が最優先だ。



「本当に、これでいいのかしら……」

不安そうなジェシカに、俺も少し不安になるが、そんな気持ちを振りはらように言う。


「大丈夫だ。ゲームが進まなければ、恐らくアインは死なないだろう」

「それも……そうだけど」

「確か、ゲームは一学生までは恋愛イベントしかなかったが、二学生から、徐々に戦闘要素も入ってくるのだろう?」

「ええ、そうね。学園を卒業するまでキャラを鍛えて、世界を滅ぼす、っていう魔王を倒す。そういうRPGの要素もあったわね」

「ああ。確か、学園に魔王が訪れることで、世界の破滅が明らかとなり、ヒロインたちはその日から鍛え始める。――全く、なんでただの恋愛ゲームにしなかったんだ」

俺は、アインを死なせないという難題を用意した『白愛』の運営に文句を言った。


「せっかくの異世界なんだから、戦いが実際に起きて、自分も恋人ももしかしたら死ぬかもしれない世界にしたかった、とはシナリオライター談よ」

「それで?なんでアインをあんなに殺すんだ?そいつ、絶対にアインのことが嫌いだろう」

「それが分からない。何故か死ぬキャラクター、それがアインなのだそうよ。ほら、それぞれの攻略対象にバッド、ノーマル、ハッピー、トゥルーの四つのエンドがあったでしょ?」

「あったな」

バッドは婚約者のいる攻略対象なら、断罪されて国外追放されてしまう。それか悲劇的な死を遂げる。

ノーマルは友達以上恋人未満の関係で終わる。

ハッピーは攻略対象との恋が無事実るエンド。

そして、トゥルーはそのキャラの真実を知ることができるエンドだ。

ハッピーより幸せになる場合の方が多いが、2,3人くらいはそうではない。特にアインは、その筆頭ともいえる。



「それのうち、アインはハッピーエンドでも、トゥルーでも死んでいるのよ。ハッピーだけしかアインは生きていない、ってよく言われてたけれどね」

「は?それ初耳だぞ?」

ハッピーエンドは、末永くアインはヒロインと過ごしました、意外に考えられなかったのだ。



「そもそもあなたが近くにいるのにアインが幸せに?普通はなれないでしょ。でも、ヒロインを愛したままこの世から去ったら?ヒロインと結ばれたのを後悔するより先に儚くなったら?アインはそうとは言わないものの、きっとそういう日が来る。それが一番のバッドエンドだよ」

「ああ、半身か……」

アインが浮気や不倫に走らなくとも、ヒロインとの生活はぎくしゃくするだろう。そうなる前に命を落としたら、そのエンドはハッピーエンドに間違いない。



「本当に、ままならないな」

「だから、アインを救う手立てはゲームの中にない。正直、あの時に伝えてもよかったけれど、なんかちょっと申し訳なくなって……」

「俺はゲームの情報を使ってアインを生き永らえさせることに躍起になっていたからな」

「本当にごめんなさい」

「もしかすると、ゲームを進めなくとも、アインを救えるかどうかはわからない……という事か?」

「そうなるわね。何がアインを殺しているのか……。それを知らない限りアインを救えない、か」

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