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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
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遂に来た未来

――やられた。



僕は気配を探り、誰もいないことを確認すると、大きな暗い廊下の隅で蹲った。聖なる魔力が僕の中で暴れる。荒い息を吐き、体が蝕まれる感覚に、思わず呻き声を漏らしてしまう。


敵地のど真ん中、ずっと監視されていたため、情報収集がし辛かったり等で、睡眠時間を摂っていなかった。その所為でもあるのだろう。吸血鬼を含む魔族全体にとって弱点でもある聖水をジュースや料理の中に入れられても気づかなかったのは。そして気付いても、監視されている手前、変な行動はとれない。


“鮮血の死神”は魔族だ。もし僕が魔族であることがバレたなら、今よりもずっと強い疑念に渦巻かれることになる。それこそ、暗殺が失敗してしまう位には。



――一か八か、やってしまおう。



僕は異能力を使い、存在を消す。異能力とは、オケディア王国にしか生まれない稀有な存在で、オケディア王国で生まれたならば、必ずある力だ。使えるかどうかは置いておいて。異能力は魔法とは違い、魔法を使うための力――魔力を使わない。他にも異能力特有の特徴があるが、今は割愛しておく。


僕の異能力は、手に触れたもの、事象を抹消する能力だ。僕は、僕の存在感を“消す”ことによって、誰にも認識されないようになる。



「――!!」

ただし、異能力の維持は、ここまで体調が荒れれば、難しくなる。



「お初にお目にかかる、“鮮血の死神”いや、アルだったか?今は」

「……」

国王の執務室に侵入した途端、大剣が飛んできたので避けたら、細身の男と大男が僕と対峙していた。恐らく細身の方がセオドア王国の王、テオドールなのだろう。



「おい、声ぐらい出せよ」

「……」

「おい!」

「無駄だ。そもそも声が出ないという設定は設定じゃない」

「どういう意味ですか、陛下」

「今は目の前のことに集中した方がいい。弱っているとはいえ――強いぞ」


キィィィィィン――……・・・

国王が言い終わるかどうかのところで僕は大男に切りかかる。金属同士がぶつかり合い、高い音を出す。僕は器用に短剣を弄び、構える。



「こいつ本当に11か?」

「“鮮血の死神”だぞ?子供だが、あの小国、オケディアを支える戦力としては主力だ。弱い訳がない。聖水で弱らせ、後は何故か妙に弱っているが、それでも単騎で最強の君ですら互角以下だ。常識外れの強さだよ。そもそも、まともに打ち合えている時点で奇跡だと言うべきか」

「……」



僕はその間ずっとその場に留まっていた。ご丁寧に国王の解説の終了を待っていた訳ではない。強烈な眩暈に襲われ、身動きが取れなかったからだ。



「――!」

突如頭が警鐘を鳴らしたので、僕は急いでその場から離れる。


「誰が俺一人だと言った?」

僕がいた所には、ちょっとした陥没がある。それと魔力も感じられた。それは目の前の男2人の物ではない。

「死神よ、大人しくお縄につけ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




戦いはずっと平行線だった。国王を殺そうと近づくと、大男――騎士団長だろう――に防がれ、騎士団長に近づくと、魔法を放つ男――魔術師団長だろう――が僕を拘束しようとするので、後退する。魔法を使おうとしても、騎士団長に接近戦に持ち込まれ、攻撃の合間合間に攻撃魔法が飛んでくる。

()()()()もあってか、一人では全くと言っていいほど眠れない僕は、極度の寝不足に陥っていた。

チーズルが勝利を急いて余計なことをした所為で、僕の監視も強くなった。ここ数ヶ月はこっそり血を吸うことも叶わなくなった。道中で、聖水入りの料理を吐いて、体力も消耗している。体力温存のため、僕は本来の姿を取り戻していた。

それと、更に最悪なことに――。



「助けに参りました!!」

増援が来た。

「位置につけ!一気に叩くぞ!」

「はっ!」


この国最強のタッグ相手に何とか持ちこたえている僕に対し、敵は手加減などしてくれる筈もない。疲労困憊の僕の体に、段々と傷が増えていった。それでも僕は確実に相手の意識を刈り取っていく。だが、恐らくは王族を屠るまでに手は回らない。そう思ったが――。



「父上!」

王太子が現れた事で、状況が変わる。王太子の登場に動揺している騎士や魔術士たちを置いて、僕は突然降って湧いたチャンスを掴もうと、王太子に近づいた。最早誰にも僕を止められない。



が、状況は三転する。僕は王太子のその力強い碧眼と目が合った。すると突然耐え難い吸血衝動に襲われた。



――欲しい。血が欲しい!()()()()!!



僕の黒に近い深緑の瞳は、暗闇でも分かる鮮やかな紅に変わる。耳が尖り、背には蝙蝠のような翼が生え、実体化した。犬歯は鋭く尖った。今や僕の王太子に向ける目は、獲物を狙う肉食獣のそれだ。



――欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ!!!!!!



僕は獲物を仕舞うだけの理性は残っていたのだろう。しかし、人間をいきなり襲ってはいけないというところにまで頭が回らなかった。僕は王太子に肉薄し肩を強く掴む。そして、彼の白い首筋に吸血鬼特有の犬歯を――突き立てた。

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