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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第二章 ゲーム本編――始動

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13とサティ

「こ、こんにちは!」

「こんにちは」

マティアス様とそのご学友が話していらっしゃるのを隣で聞いていると、突然サティが話しかけてきた。

今まで関わりがなかった分、驚いた。


「初めまして、私はサティといいます。アインさん……ですよね」

「ええ、そうですが……」

「あの、一度会って話したかったんです」

そう言う彼女は瞳をキラキラさせていた。


「二人は会ったことなかったのか」

マティアス様が突然そんなことを言い出した。僕は少し動揺したが幸運にも悟られなかったようだ。


「会ったのは、初めてですよ」

「私も、アインさんとは初めましてです」

「そうか――少し気になっただけだ」

僕たちの答えに、マティアス様は考え込むような素振りを見せた。しかし、そんなに僕たちが初対面ではないかどうかという事に重きを置くのはなぜだろう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「こんなモンかァ?!優秀優秀と言われておきながら全く大したことねェな?なァ、アイン?」

「あんたはもうちょっと手加減を覚えろ!!!」

なぜか女子生徒も参加しているラース兄さんの授業。ラース兄さんが課す課題は、温室育ちな彼らには到底過酷、いや、それすらも生ぬるい。

そもそも九星用の練習メニューを少し手加減したものだが、騎士団でさえつらいと感じるのだ。一介の生徒が熟すものじゃない。


なぜ、こんなことになったのか……。話はラース兄さんが学園に来た当時まで巻き戻す。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――数時間前



「久しぶりだな、アイン!それと……」

「久しいな、ラース」

「ああ、王太子サマもお久しぶりで。――アイツは、13(サーティーン)か?」

とても懐かしい名前を、ラース兄さんが口にした。()()()()以来その名を口にすることは禁忌(タブー)扱いされてきたため、下手したら十年近く聞いていないのだ。


「サーティーン?九星は9人じゃなかったのか?」

「九星が九星となる前――まだ実験体だったころは13人いました。

しかし、そのうち4名が人体改造に失敗し、この世を去っています。13もそのうちの一人です。

僕は彼らの死体を確認しましたので、彼らが生きていることはないと思っています。彼女も……全くの別人でしょう」

「そうか――」

少し考え込んでしまった。僕の話を完全に信じた訳ではなさそうで、少し胸がざわざわする。


サティはというと、あまり見覚えのない人物に知り合い扱いされているので、戸惑っているようだ。

だが、彼女は記憶を失っている。13は誰か、とラース兄さんに問いただすだろう。


「13は誰でしょうか?私と名前が似ている気がします」

「サーティーンは生きてたら、ちょうどアンタくらいだな。そンで髪の色も一緒。とは言っても、髪の色が変わる前だがな……。ピンクで、瞳は金だった。完全に一致してるな」

「ただ、もし13がサティさんだとして、記憶喪失を死亡と僕たちに伝えた理由は何?」

「お前は13が生きてたことが嬉しくないのか?」

ラース兄さんが鋭い質問をしてきた。口は笑っているが、目は完全に笑っていない。


「嬉しいけれど……。13はもう死んだんだ。今更、悲しい希望に縋っている暇はない。ラース兄さんは何の関係もない人間を巻き込む気?――九星の役目に」

「そう言うアンタはどうなンだ?」

「なるようになる」

「ハッ、ふざけンなよ?」

僕は目をつぶって答える。口では笑っているように見せているが、その目つきは過去一で鋭い。


「そう言うラース兄さんこそ、どうなの?」

「こちとら半身の命がかかってンだよ。わかるか?」

「それでも、僕は彼女が13であるとは思えない」

「ハッ、そうかよ」

険しい空気が流れる。僕たちの会話の内容が聞こえておらずとも、マティアス様たちは不穏な空気を感じ取ったらしい。

だが、簡単に割って入っていい様子にも見えないため、じっとそこで見ているしかない。

そう言う感じなのだろう。



「どうせ、アンタにはアンタなりの考えってヤツがあるンだろ。俺は下手に変なことをして引っ搔き回したくねェからな」

ラース兄さんがそう言う事で、空気が緩んだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの時はどうかと思ったが、まあよかった。内心納得はしていないだろうが、僕だってミリア姉さんを死なせたい訳ではないことを、ラース兄さんは理解しているから折れてくれた。


そのラース兄さんの信頼に報いるためにも、より確実な計画をきちんとこなすことが大切だ。

そのためには、何一つ計算違いは許されない。


計画から外れた行動は死のみ。ラース兄さんは、本能からそれを感じ取っているのだろう。




ここまではよかったが、ラース兄さんに用意された椅子は学生とか、事務員ではなかった。


ラース兄さんは事務などできないし、学生にしてみたら、言動がちょっと年を取りすぎているように見える。

魔族の年齢は、まやかしみたいなものだが、それにしてもである。



「教師……教師……教師?」

ラース兄さんが教師という事に、一ミリもしっくりこない。


「疑問を覚えるな」

ずっと首を傾げたままの僕に、マティアス様が言い聞かせるように言う。


少ししか会ったことがない筈のマティアス様でさえ。ラース兄さんが教師をやるという事に、疑問を抱いているのだろう。


「教師?」

「俺が、子供に何も教えられねェと思ってんのか!!」

まだ首を傾げたままの僕に拗ねたように言うラース兄さん。ラース兄さんは頭が弱いからなぁ……、と思っている僕の内心はとっくに透かされているようだ。



「とにかく、何の教師かで決まるな」

「座学は絶対無理ですね」

「俺は理論で考えるより体で覚える方が早いからな」

「感覚派なのね」

「実戦で言うと、魔法も無理です。ラース兄さんよりも魔法が上手い学生なんかそこら中にいます」

「九星なのにか?」

「ラース兄さんがもし普通の人間だったなら、魔法を使うのは諦めた方がいい、と周りから言われますね。僕もそう思います」

「魔力でごり押しできるンだ。問題はあるか?」

「脳筋だな……」

「さらに、剣術も無理です」

「拳で剣を叩き割れるしな。前に握りつぶしたことあるし、特に剣術を意識しなくても、剣は振れる」

「問題はそれが剣術でない筈なのに、剣術を使った僕を圧倒できるという点ですね」

「化け物だろ」

「となると、対魔物の実習くらいか」

「そうですね」

マティアス様の引き気味な声に、僕は同意した。

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