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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第二章 ゲーム本編――始動
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寂しい

Side Matthias


マティアスは、自己中ではあるが、無能ではない。だからこそ、自分が入学試験の首席であることは信じて疑わなかった。

この時のアインは、そんな主に気を使って点数を落として自分がマティアスの上の順位にならないようにしていた。


そんな経緯があって、サティはマティアスを抑えて首席に輝いたのだ。自分の予想とは違い、次席だったマティアスは、その原因となったサティを最初は気に入っていなかった。



だが、貴族社会にいない王太子におもねらないサティに、マティアスは興味を抱くようになった。


紆余曲折を経て二人は結ばれるのだが、マティアスは俺なため、自分より成績のいいサティを不快には思わない。アインだって、俺より成績がいい。



とりあえず、サティには一旦警戒することとしよう。アインを攻略しているのに、サティに攻略されたら話がややこしくなりそうで嫌だ。


ひとまず、サティとの接点がなくなれば、大丈夫だろう。


三角関係は、昼ドラの中でならいいが、現実には持ち込みたくない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Ain


マティアス様は、サティという平民の生徒を気にしていた。

いつものマティアス様らしからぬ、変な行動ばかりとるのだ。



まず、僕に会わせないようにしている。自分は普通に会話するのに、だ。


次に、サティが僕に話しかけようとすると、自然な流れで遮る。まるで、好きな女性を他の男と接触させたくないみたいだ。


更に、学園に入学する前は僕が休みを取らない限りずっと一緒にいたのに、今はサティと一緒にいたがる。


寂しい。ずっと一緒にいたのが、急にいなくなったから。だが、こんな気持ちをマティアス様にぶつけて困らせる訳にもいかない。

従者の一時の感情で、主を振り回す訳にはいかないのだ。



「これは……。ダメそうね」

「ダメとは何ですか?」

「まあ、かなり懐いていたからな……。当然と言えば当然だが、早かったな」

「………………………」

僕は机に突っ伏した。



「寂しいなら、言えばいいのにな。なんで言わないんだ?」

「困らせるじゃないですか。血を貰っている分際で、それ以上望むのは、欲張りすぎですよ。身分不相応です」

「意地っ張りだね」

グラッチェス様、アムステルダム様、マルティン様が次々に僕を慰めようとしている。ルーデウスも心配そうに僕を見ている。



そして、今まで半身が傍にいることが当たり前だった僕は、その反動で活力がない。何もかもが面倒に感じる。



だからか、つい爆弾を投下してしまう。


「来週にはラース兄さんが来るのに、ラース兄さんの面倒を見れる気がしないです……。かといって押し付けれる存在もいないし……」

「は?」

「「ラース?」」

「アインさんってお兄さんいたんだ……」

四者三様の反応を見せた。



「ちょ、ちょっとどういうことですの?!ラースがくるって……」

「どうやら、ステラで力加減できずに色々とその怪力で壊しまくったらしいので、その謹慎にこの国に送られるらしいです。昨日そのことを知りました。

……ノア兄さんがラース兄さんのことを僕に押し付ける気満々ですよ。つまり、しばらくこの学園は荒れます」

僕がつきっきりで監視しても、絶対何かやらかすだろう。それも、とんでもないことを。



「それって、陛下の許可は……」

「ノア兄さんが何の計画もなしに、影響力が大きい九星を送ると思いますか?それに、あの人は思い立ったら即行動する性格です。わざわざ一週間なんて待ちませんよ」

「まあそれもそうか」

「まずい、僕の知らない名前が次々と……」

「それ、言っていい内容なのか?――アインが壊れた気がするな、殿下とのかかわりが減って」

アムステルダム様が頭痛がするとでもいうように、眉間を抑える。


「それにしても殿下は不思議だね、こんなに優秀な護衛を置いていっているし。――ジェシカ嬢はなにか知ってるの?」

「さあ、どうでしょう」

「何の話をしているんだ?」

「あらあら噂をすれば殿下じゃありませんか」

「ああ、今まですまないな、あちらは大丈夫だ」

「大丈夫?」

「サティさんは、その優秀さに嫉妬され、今までいじめを受けていたそうです。それをマティアス様が解決したという事ですよ」

「何で知ってんだ、そういうこと……」

そう、今までマティアス様はサティのために色々と奔走していた。いじめの証拠を集めたり、いじめの現場を教師と共に抑えたり。

それはマティアス様だからこそ有効なことで、僕がその場にいなかった理由は、次のいじめの標的が僕にならないようにするためだ。


マティアス様なりに僕のことを案じてくださっていたのを僕は知っていた。だからこそ、僕はマティアス様と会いたくても会わなかったのだ。



「蝙蝠だろ、どうせ。忘れたのか?こいつは吸血鬼だ。昔も蝙蝠を使って危機を脱出したことがあったしな」

マティアス様は椅子に座り、両足を組んだ。



「マティアス様、ラース兄さんがここに来ます」

「成程?新しい教師が来ると聞いたが、時期的にラースのことだろうな」

「あのー殿下?ラースがどういう人物か、教えてくれませんか?」

「一言でいえば、脳筋だ。――アイン、またなのか?」

マルティン様の質問に、マティアス様はバッサリと言い切った。――まあ、確かにあの人は脳筋であるのだが……。


「あの人は普段から困るのですよ。鬼人なので馬鹿力を持っていますし……。同じく馬鹿力を持っている僕に色々とコントロールを教わりたいのでしょうね」

「学園が荒れる、と聞いたが……」

「あの人は無神経で、良くも悪くも人間を知らなすぎる。その上、賢い立ち回りができないんです。

この学園の生徒がラース兄さんを攻撃する可能性がありますが、もしそうなったとして、誰が勝てると思います?僕と対等の実力の相手ですよ?」

この学園の生徒は、自分より下と思っている相手が自分より上であることを受け入れない。そして、ラース兄さんは自分より下だ、と認識されてしまうだろう。しかしラース兄さんは彼岸だ。彼岸が人間より優れていない訳がない。



「問題事を片付けたら、新たな問題事が降ってきた感じだな」

「マティアス様が抱えていた問題事は終了したのですか?」

知らない訳ではない。ただ、直接聞かないと落ち着かないのだ。


「ああ。終わった。……寂しかったのか?」

少しからかいが滲む声でそう言われた。僕は素直に頭を縦に振る。


「悪かったな」

そう言って、マティアス様は僕の頭を撫でた。僕は驚いて、黙ってそれを受け入れた。

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