表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第二章 ゲーム本編――始動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/282

ゲームのプロローグ

「今日から学園ですね」

僕はマティアス様にそう言った。

「そうだな」

マティアス様がそう返した。



ここ、セオドア王国には他国にはない珍しい仕組みがある。

それが学園というものだ。


世界でもこういう制度を取り入れているのは、芸術の国として名高いクリスタルパラスだ。他にも何国かこういう制度を取り入れているが、世界的にみてかなり少ない。


貴族は家庭教師を雇えば勉強はできてしまうが、平民はそうもいかない。



平民に教養は必要ない、という考えが主流だからだろう。


大体そういう国の国民が優秀であるが、国民がそこまで優秀でなくとも国は回るため、わざわざ資金をかける価値を見出せないのだろう。




セオドアに来た経緯からするとかなり平和に数年が過ぎた。マティアス様が今年入学なさるので、それに合わせて僕も飛び級入学した。コネ入学ではなく、普通に学力で。勉強には自信があったため、難なく合格を勝ち取ることができた。


だが、それに関しての懸念点もある。

マティアス様を信頼していない訳ではないが、心配なのは変わらない。



だが、合格の知らせを聞いたマティアス様から頭を撫でられ、少し照れ臭かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Matthias


今日が運命の日だ。ゲームのヒロインであるサティとは、入学式で出会う。桜の木の下で、二人は互いを見つけるのだ。それがゲームの始まりだった。


『白桃の君に愛を捧ぐ』は、ヒロインが数いる攻略対象と恋愛をしながら、魔王を倒す物語だ。

ゲームは平民のヒロイン視点で進行するため、他の視点から得ることができる情報は得られない。

例えば、ゲーム終盤で倒そうとしている魔王は、別に悪い存在ではないという事とか。

わざわざセオドアの学園生が魔王を倒す理由はないとか。

ゲームでは一切聞いたことのなかった組織が存在していることとか。



更に、ゲームが始まる前に大きく変わったこともあった。

まずアインは心を壊していないこと。

ルーデウスが危険なヤンデレキャラになっていないこと。

オケディアが革命によって倒れ、ステラという新しい国になったこと。

チーズル帝国が滅んだこと。



この変化や、ゲームの不自然な所が今後どう影響してくるかはわからない。

そもそも未来を変えると誓った以上、ゲーム通りの結果になるとは思っていないのでいいが、こうして行動が果たして正解なのかもわからない。



「今日から学園ですね」

アインは、ゲーム通りに飛び級入学した。


「そうだな」

魔王はとてつもなく強い。だからこそ、鍛錬を怠らなかった。ゲームのマティアスよりは、強くなっているだろう。


だが、まだまだ足りない。アインを守るため、自分が死なないようにするための力が全く足りない。



――もっと、強くならないとな。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



美しく舞い散る桜の花びら。芸術的なデザインの校舎。そこが、ゲーム『白桃の君に愛を捧ぐ』の舞台だ。


広い敷地内に、庭園や中庭、テラス、ガゼボなど、貴族の邸宅にあるものや、学園らしく研究所や訓練場、講義室などがある。



セオドアには大きく分けて二つの学園があり、一つが貴族専用もう一つが平民専用だ。

この二つで分かれている理由は、貴族と平民では住む世界が違いすぎて、大きな派閥争いになってしまう可能性があるからだ。


それに、貴族と平民では求められている能力が違うという事もあるだろう。

だからそれぞれの専用の学園に分けたのだ。



俺たちが通うのは、貴族専用の学園だが特待生枠として、平民が年に何人か入学してくる。俺たちの代で入学した平民の数は3。ゲームの主人公であるサティとアイン、それともう一人だけだ。



サティは、類稀な魔法の才能を持っており、そして誰も見たことのないような魔法を使う。

オケディア出身で、異能力も持っているらしい。他国からの移民ではあるが、セオドアにいるとても優秀な平民であることは間違いない。

学園は一も二もなく合格判定を出したのだろう。




学園は全寮制だ。これから学園で生活するにあたって必要なものを荷馬車に詰め入れ、その揺れに揺られながら俺は15年も前の記憶を掘り返していた。



「着きました」

業者の声に一気に現実に戻る。


寮の部屋は事前に学園側から指定される。対立派閥の者と隣人になったり、平民をかなり見下している貴族の近くに平民の部屋を入れたりしないように細心の注意を払っている。

俺とアインの部屋は隣だ。護衛であるアインが護衛対象である俺から離れないように学園側が指定したのだろう。



「すぐに入学式があります。ご案内します」

アインがどこか慣れたような足取りで始めてきたであろう学園を歩き始めた。俺は入学式の会場に案内してくれるアインを追いながら、かなり入念に調べたんだな、と思った。



寮を出て少しした道で、桜並木が出迎えてくれた。



「桜か。綺麗だな」

「そうですね」

どこか満足そうなアインに忍び笑いしながら俺はアインについていった。



俺は美しい桜の木々を眺めていると、一つの桜の木の下に人影が見えた。髪の色は桃。白のメッシュが入っている珍しい色だ。髪型はボブだ。貴族の女性は、長い髪が多いため、少し目立つ。


「!!」

じっと見つめる俺の視線に気づいたのか、その少女は俺の方を振り返った。



――彼女だ。



『白桃の君に愛を捧ぐ』のヒロイン、サティ。奇しくもゲームと同じで会い方をしてしまった。


「マティアス様?」

一点を見つめる俺を不思議に思ったのか、アインは俺に声をかけた。


「あ、ああ。何でもない。会場に向かおうか」

俺は適当に誤魔化し、先に歩を進めるように言った。





サティの観察に夢中だった俺は気が付かなかった。アインもまた、サティをじっと見つめていたみたいに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ