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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
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王太子と暗殺者

Side Cyril


アルが蔵書室を出ていく。


――一体彼は何者なんだ?



アルはこの国の王太子、であり、僕の甥である、マティアス・ドゥ・セオドアに見初められて王城で働くことになった、見習いだ。

そこに居合わせた友人の話によると、マティを狙った暴漢を、彼が守ったらしい。


どことなく物腰も丁寧で、マティに媚びようともしない。

見目麗しいマティは、女どころか男にまでアプローチを仕掛けられる。それにうんざりしていた彼は、自分に媚びない少年を面白く思ったのだろう。彼を王城で働かせることに決めた。その時は、王城は上へ下への大騒ぎだった。


今強国2国と戦争状態のセオドアは、常に王族暗殺に警戒している。当然、少年暗殺者も視野に入れて。オケディアには、天才暗殺者がいるのだ。次々と対象を暗殺し、一度も失敗したことはない。それが商人の一家とか、残虐な弱小貴族だけならまだいい。戦争中、一度も警戒を怠らない軍の本拠地に潜り込み、大将の首だけを狩る。その間、不審な人物は誰も見なかったらしい。



――もしアルが噂に聞く、“鮮血の死神”なら、この国は終わるね。



“鮮血の死神”はそこら辺の暗殺者とは訳が違う。歳は11だが、腕前は世界最高。暗殺者が最も苦手とする向かい合っての1対多ですら圧勝できる程。そもそも実力差がありすぎるのか、殺し方は至ってシンプル。毒などの搦め手はほとんど使わない。

そんな人物なら、どんな人間にでも成りすますことができるし、声が出せないというのも噓臭い。別人に成りすまされたら、声を聴いても同一人物と判断出来ないからだ。



――それにしても、やはり兄上の言葉も気にかかる。



いくら王太子といえども、身元不明の少年を使用人に引き立てることはできない。そんなことができるのは、国王くらいだ。実際、揉めに揉めなかったのは、兄上(国王)の鶴の一声があってこそ。もし彼が暗殺者だったとしたら、今は絶対に尻尾は出せない。僕が同じ立場だったとしたら、不審すぎて罠を疑う。



「でも、アルが暗殺者という証拠もない」

もしかしたら運よく王城で働くことができた少年なのかもしれない。まあ、食わせ者の兄上が絡んだ時点でその可能性はなきに等しいが。成長期に差し掛かる年頃で、4歳も違うし。



――もう少し観察してみるかな。



僕は彼を常日頃から警戒しているが、とても人を殺しているようには見えない。仕事をテキパキこなせれる程優秀で、信用している。そんな僕が彼に強い疑念を抱くのは、彼に微かな血の匂いを感じたからだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side 01


――そろそろか。



僕は毎日念入りに手入れをしてきた暗器たちを隠し持つ。ここに忍び込んでそろそろ9ヶ月。今日はセオドア王国建国祭だ。今日から3日間、セオドア王国は、祭りでどんちゃん騒ぎだ。その隙を狙う。先日ついに、チーズル帝国から指令(無茶振り)の手紙が届いた。



――――朧月夜を赤く染めろ。




素直に殺せ、とか暗殺しろ、という言葉は使わない。どこで手紙の内容がバレるかわからないからだ。

死神は朧月夜に大鎌を持って死ぬべき人間の前に現れ首を狩るという噺がある。それに僕の二つ名は“鮮血の死神”だ。()()()()を赤く染めるかなんて分かりきっている。



「アル。忙しそうだな」

その言葉で深い思考に沈んでいた僕は一気に現実に引き寄せられる。


声をかけたのは、この国の王太子である、マティアス・ドゥ・セオドアその人だった。輝くような金髪に、鮮やかな青い瞳。自信満々に弧を描く口元。彼の構成する全てが彼の自信に繋がように見える。


【いえ、マティアス殿下が僕をここで働かせてくださったので、今もこうして生きていれます。感謝してもしきれません】

僕は紙にスラスラと書き付けた。アルは声が出せないからだ。


「俺はあまり力になれなかったからな。父上がああ言わなかったら、アルは今ここにいない。まあ、俺が拾わなければ、ここに来る可能性すらなかったがな」

【陛下にも感謝しております】

僕はそう書きながらニッコリと笑って見せた。



「マティ、アルはまだ仕事が山積みなので、そろそろ解放してあげなさい。かなり有能なので、色々と頼られているんだよ」

そう言いながらこちらにやってきたのは、司書のシリルだ。


「ああ、済まないな。行っていいぞ」

僕は一礼をすると、会場のセッティングを手伝いに行った。

建国祭は大いに盛り上がった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「今日の成功を祝して、乾杯!」

建国祭僕は、使用人たちの打ち上げパーティーにいた。僕は未成年だし、これから仕事なので、酒は飲まない。というか、今まで一滴も飲んだことがなかったので、酒に弱いかどうかはわからない。そんな賭けにも乗る気はなかった。



「あれ?アル君もう上がるの?」

すっかり呑兵衛になってしまったメイドにそう声を掛けられる。

【眠くなってしまったので。お先に失礼します】

僕はそう書いておいた紙をメイドに渡した後、会場を後にした。

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