世界に蔓延る闇
Side Matthias
「何でここにルーデウスがいるんだ?」
「知らないわよ」
ジェシカは俺の問いに鋭く返した。
「どうせ、アインが非番中に何かしたようだしな。俺が動く前に攻略対象の闇を潰すとは、さすがだな」
「こうなるという予想は付かなかったなー。マティアスすか最悪私が潰すと思ってたし」
「俺もそろそろ動こうかと思っていたが、アインに先手を取られたな」
予想外すぎて笑えてくる。これが、未来を変えて起こるバタフライエフェクトか。
「マティアスは、このことについてアインから報告は来たの?」
「来てない。というか、この件は完全に独断だ。でも裏で動いていたことを気づかせないための手を打っている」
「あー魔導士団が動いたこと?確かルーデウスって魔導士団長の弟よね?で、今回魔導士団が動いたから、周りからは魔導士団長が弟を救ったように見られている」
状況的にアインが動いたことなんてわからないだろうな。証拠も残していないらしいし。
「で、ソルセルリーは人体実験をしているんでしょう?ゲームの中では」
「ああ、というか、俺よりも貴様の方がよく知っているだろう」
俺はあくまでプレイヤー、ジェシカは『白愛』製作チーム。『白愛』を俺よりも詳しくない『白愛』製作チームがいてたまるか。
「ただ、何もないのよね……」
「まあ、魔導士団があの実験については監視してくれるだろう。そこまで何かを思う必要もないな」
「そうね。とりあえずルーデウスの一件は終わりかな」
一つルートが潰れたか。隠しを除いて最も危険なルートであったがために、少し安心だ。
ルーデウスはヒロインと恋愛する未来がなくなったが、我慢してほしい。
「さて、会議をするか」
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Side Unidentified
「あーもう!イラつくわ!」
黒フードで顔を隠した女がイライラしたように叫んだ。
「うるさい。元はと言えば、あんな子供一人対処できないお前が悪いんだろ」
同じく黒フードで顔を隠した男が、呆れたように言った。
「一人一人が皇の戦闘員並みの部隊なのよ!?仮に子供だったとして、そんなの私に対処できると思う?!」
できる訳ないでしょ!!そう吐き捨てる女に、男は全く取り合わなかった。
「うるさいわ。下の階まで聞こえていたわよ。皇やステラの密偵に聞かれたらどうするつもりかしら?」
階段の踊り場で別の女が腕を組みながらそう言った。
「は?あんた如きが私に指図するつもり?」
「気に入らないでしょけど、ここ、ずいぶんと蝙蝠が多いのよ。皇もステラも、密偵の趣味は一緒でしょう?」
そう言われた女は、ムッとしながらも、黙りこくった。
「ステラとセオドアが同盟を結んだわ。その中に、皇月影に関するものもあったわ」
「ステラはともかく、何故セオドアが?」
「そんなの、私が知りたいわよ」
男が驚いたことに不機嫌で女は返した。
「でも、最も意外だったのが、久遠がこの動きを静観したことね。行方不明の魔王子の情報なら、真っ先に飛びつくと思ったのに」
確かに、といった感じで二人とも考え込んだ。ステラもセオドアも何を考えているのかわからないが、最もよくわからないのが久遠だからだ。
「もしかして、月影がステラかセオドアにいるのかもな」
「それはありえないわ。もしそうなら、あの過保護なブラコンがずっと久遠にいるなんておかしいもの」
「ああ、皇雪影と皇御影のことか。確かにおかしいな」
月影には、同腹の兄と姉がいる。彼らは、年の離れた弟に目がないのだ。
「どうせ、皇時雨の策略なんじゃないの?目立つ二人をあえて動かさないことで、月影の居場所を探らせないようにしている、とか」
「あの皇時雨が?そんなお粗末な作戦を考えるか?そもそも久遠だっていまだに月影の居場所を探れていないのに?」
「優秀で有名な魔王太子のから姿を眩ませ続けている月影が自分の居場所をそう簡単に流す訳ないわ。これも、今までと同じデマよ」
今までも、月影にデマ情報を掴まされてきた。今確実だと言える情報は、14年前にイーストフールに訪れたこと。それから約5年くらいオケディアに滞在していたことぐらいだ。
「情報が少なすぎるわね。一刻も早く月影を捕獲しなきゃいけないのに……!」
焦る女を落ち着かせるように男が言った。
「どうせ、まだ皇が月影を発見した訳じゃない。
それに、あの時先手を打っておいたお陰で、向こうは決め手に欠ける上、月影を更に追い詰めることができた」
月影の絶望する顔を思い浮かべるだけで、心が躍るようだ。
「月影は、久遠にも皇にも見つかってはいけない存在だ。見つかれば、仲間割れは必須だからな。
どうせ、今情報がなくとも、ゆっくり追い詰めればいい。月影が見つかった瞬間、こちらの勝ちは確定するからな」
「そうね、その通りよ!」
女の顔がわかりやすく明るくなる。
「さて、どれだけ逃げ回れるかしら、皇月影?」
視界の端に移った蝙蝠は、女の魔法に翼を撃ち抜かれ、抵抗する間もなく地に落ちた。




