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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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救いの手

僕はルーデウスとすれ違い様に部屋から出た。僕は九星だ。子供に見つかるヘマは侵さない。


ルーデウスをチラ見した程度ではあるが、怪我をしていたのが分かった。包帯もあったから、日常的に怪我をしているのだろう。それを使用人にも手当てして貰えない……。

庶子ではあるが、貴族の令息だ。夫人に疎まれている影響が強いのだろう。



「僕には関係のない話ではある。それに僕は他にやることがある。けど、……」

僕はそこまで正義感が強い訳ではない。でも、彼を見捨てるのはあまりいい気分ではない。



「そこのお前、待ちなさい」

神経質そうな顔つきをした女性が僕を呼び止めた。


「はい、なんでしょうか」

「あの庶子の大切なものを盗んで私に持ってきなさい」

この感じ、使用人も日常的に虐めに加担していたらしい。


「承知しました」

「任せたわ。きっちりと、やって頂戴ね」

僕の肩に手を置いて念を押すように言う。その行動に事前情報が間違っていなかったことを確認した。



突然だが、この国は子供を宝としてみている。子供への虐待に厳しめの国だ。

だからこそ、虐待をしていた者はそれなりの罰がある。ただ、貴族には軽めに感じるが。


その法律は、他の効力の方がメインなため、罰の内容はあまり重視されないというのもある。

これは僕の独断で動いているからあまり公にしたくない。さて、どうしたものか……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Rudeus


義母上に呼び出しを受けた。すごく嫌な予感がする。


「どうしましたか、義母上」

「あら、来たわね」

義母上に声をかけると、義母上はにいっと口角を上げる。それがひどく不気味だ。


「これは何だかわかるかしら?」

「それは……!」

義母上の持っているものは、僕がとても大切にしていた本だった。



僕は、昔から本が好きだった。だが、母さんと暮らしていたころは、本なんか気軽に買えなかった。

でも、母さんは僕に本を買ってくれた。そのうちの一つなのだ。義母上が持っているあの本は。



「これ、燃やしたらどん反応をするのかしら?楽しみね」

「やめてください!」

「私に指図しないで!」

義母上は手を大きく振りかぶり、僕を叩いた。腕で頭を守り、体を丸める。


「本当に腹が立つわ。あの女に似ている顔を何度も拝まされる私の身にもなって欲しいものだわ」

義母上は眉間を抑えながら、大きく溜息を吐いた。義母上の近くにいる使用人が、そんな義母上に駆け寄る。



「なんですって……!」

突然義母上は大声を上げた。顔をひどく強張らせている。義母上の目は、先程駆け寄っていた使用人に注目している。



「よかったですね、これが僕の独断で」

これがもし僕の主の命令なら、貴女は終わっていました、という彼の顔がだんだんと変わっていく。見慣れた使用人の顔から、シリルさんの図書館で出会ったあの少年の顔へ。



「貴方は!」

「お前か、お前が言い触らしたのね!」

「勝手に勘違いしないでもらえるかな。傍から見たらかなりバレバレだったけれど」

「そ、そんなことはないわ!」

「気づいている人間はいたよ。でも言わないのは関わり合いになりたくないからか、自分が同じ立場になったとき、同じことをするという自信があるからじゃあないかな」

「うっ……」

どんどんアインさんが義母上を追い詰めていく。


「で、でも独断でしょう!平民が勝手にこんなことをやってもいいのかしら?!」

「よくはないけれど、勝算があるからそう言ったんだよ。貴方は僕と取引をしなければならない。僕の気が変わる前にね」

「平民が何をほざいても無駄よ!」

義母上が顔を思い切り歪ませて怒鳴る。その様子にアインさんは溜息を吐いた。


「まず貴女は僕にファミリーネームがないことの意味を知るべきだよ。他国から来た平民が優秀じゃない訳ないでしょう?」

「どうせ平民よ」

「自慢ではないけれど、僕はマティアス様に気に入られている平民だよ?目には目を歯には歯を、権力には権力を。貴方が権力を出すならば、僕はそれ以上の権力を持って相手をする。そうならないことを願うばかりだよ」

誰がどう見ても優勢なのはアインさんだ。どうして僕なんかを助けてくれるのかがわからないが、アインさんは本当に優秀なのだろう。

何せ、あの使用人は義母上のお気に入りだったからだ。


「要求は何かしら」

義母上も馬鹿ではないらしい。アインさんの提案を受け入れた。


「まずはルーデウス・ディ・ソルセルリーに身柄を保護させてもらう。流石にソルセルリー伯爵の計画は目に余る。まだ報告をしていないから、今のうちに闇に葬るといい。

――次に、この屋敷にいる魔物の殺処分をしてもらおうか」

「わかったわ」

「この取引を無視すれば……どうなるかわかるよね?」

「やれば!やればいいんでしょう!」

やけくそのように言い捨てる義母上を、僕は初めて怖く感じなかった。

アインさんは地面に座り込んだ義母上を冷たい目で見た後、僕に手を差し伸べた。


「あ、ありがとう……」

「構いませんよ。元々ここは怪しいと思っていたんです。貴方は、ついでです」

「それでも、助けてくれてありがとう」

この地獄から助け出してくれたアインさんにはとても感謝している。たとえ、アインさんがなんとも思ってなくとも。

すると、アインさんは僕を担ぎ上げた。

戸惑う僕にアインさんが声をかける。


「貴方の兄上の元へ向かいます。いいですか?」

「兄上、ですか」

「何か嫌な思い出でも?」

気遣ってくれるのが妙にくすぐったい。でも悪い気分ではなかった。


「いや、兄上についてあまり知らないから……。どんな人なんだろう、と」

「ソルセルリー伯爵夫人の子とは思えない人間ですよ。いい意味で」

アインさんの太鼓判で少し安心した。兄上が義母上と同じような人だったらどうしよう、と考えていたのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「着きました」

とても大きい城。何度見ても慣れない。アインさんは慣れているようだ。他国出身の平民なのにすごい、と思った。僕はいまだに城に圧倒されてしまうからである。


ただ、夜という事もあって、いつもの活気が見られない。まだ人が寝静まる時間帯ではないが、少なくとも外に出る時間帯でもないからだろうか。


「魔導士団長は、こちらにいますね」

アインさんの先導の下、兄上の部屋の前まで来た。

数回しか会ったことのない兄上。会った回数が少なすぎて緊張する。


「夜分遅くに失礼します。ソルセルリー卿にご用がございます」

「アインか。どうぞ」

「失礼します」

「で、用というのは……」

「あ、兄上」

兄上は、僕の顔を見て驚いていた。


「これはどういうことか、説明できるか?」

「僕は無断でソルセルリー家に潜入し、詳しいことは明かせませんが、ソルセルリー伯爵夫人と取引をし、虐待を受けていたルーデウス様を保護しました」

「虐待……」

この反応を見るに、兄上は虐待については知らなかったようだ。



「すまないな、ルーデウス。知らなかったですまされる話ではない。家が嫌いで距離を取っていた。息をしづらいからな、あそこは……」

「兄上……」

「感動の再会のところ悪いですが、できれば早めにソルセルリーを調査した方がよろしいかと。ソルセルリーがやっていたことは、第二の九星を作ることです」

「いいのか?取引の内容を察するに、今のことは契約違反になりかねないが」

「そもそも彼らは九星を知らない筈です。なので、彼らの目には契約違反には映らないですよ」

「君は腹黒いな……」

兄上が苦い顔をした。かくいう僕も、九星を知らないが、アインさんの言っている意味が分かって遠い目になる。


「飼い殺しが一番です。そもそも彼らが実験を成功させることは不可能ですから。でも殺すのはもったいないです」

「わかった。上の者にそう進言しよう」

「ありがとうございます。では、僕はこれで失礼します」

そう言い、アインさんはここから去っていった。



「ルーデウス。守ってやれなくて済まなかった。これからは、兄として守っていくと約束する」

「ありがとう、ございます」

「そう固くなる必要はない。何せ、血の繋がった家族だからな」


その夜僕の目は乾くことはなかった――。

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