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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩

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天然さん

美しい庭園にお洒落なテーブルと椅子。綺麗なデコレーションで飾り付けられたお菓子たち。そこに漂うかなり重い空気。

何でこんなことになっているんだろう……。


僕はかなり気まずい空間からさっさと退散したかった。


事の発端は、少し前。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



招待状を持つ貴族の子息子女がお茶会の会場に訪れる。

雰囲気はとてもよく、皆マティアス様の準備したお茶やお菓子に舌鼓を打ちつつ、交流に勤しんでいた。



そもそも王子王女の主催するお茶会は、同年代の学園が始まる前の交流を目的とする。側近を見定めたり、その側近候補と交流を築いたり。同じ派閥の貴族の子供同士で交流を深めたり、学友を探したりなど、割と大切な役割を持つ。


各家それぞれで交流を持てば、マティアス様のようにあまりお茶会を開かない王子と同世代でもあまり不利益はないが、別の派閥の貴族や、新興貴族の子供だったりあまり王都に出ない貴族の子供は貴族との交流は少ない。そういう時に助かるのが王子主催のお茶会なのだ。


他の国にはあるにはあるが、あくまでも招待されるのは上流貴族のみ。王都にずっと住める財力のない貧乏貴族や、貴族社会の常識を知らないような新興貴族はお呼びではないのだ。


しかし、そういう所にも優秀な人材はいる。優秀かどうかは決して生まれでは決まらない。だからこそのこういう少し変わった風習があるのだろう。



約100年前、何もない土地を開拓し、自力で成り上がった国であるセオドアに相応しい文化である。古い国ほど野蛮と罵り、優秀な国ほどより注目してみる。正直、セオドアには優秀な人材が多く城に登用されている。


その仕組みのおかげで僕は城の中に潜り込めたので、一長一短だろう。



貴族には、様々な思想がある。選民思想や大衆主義、開戦派と反戦派。一々上げていたらキリがない。その様々な身分や思想を持つ貴族が入り乱れているため、多かれ少なかれ問題が起きない筈がない。



「久しいな、ハロルド、カースティス」

「お久しぶりでございます、王太子殿下」

「久しぶりです、殿下」

モスグリーンの短髪で青緑の瞳を持つ少年と、明るい紫の髪を後ろで括っているピンクの瞳を持つ少年にマティアス様は話しかけた。


「楽にしていい。ここはそういうかしこまった場ではないからな」

「では、お言葉に甘えて」

「マティアス様、後ろにいるのは誰ですか?」

「カーティス!!」

モスグリーンの少年――ハロルド・フォン・アムステルダム様が、紫髪の少年――カースティス・フォン・マルティン様を叱った。アムステルダム様が礼儀正しい堅物、マルティン様があまり礼儀を気にしない軟派な方だという印象を受けた。



アムステルダムは、有力な公爵家でセオドアの宰相の家だ。そこの長男である、ハロルド様は、とても優秀であるが、融通が利かない方だ。特に何もなければ、今はマティアス様の側近候補ではあるが、そのまま側近になるだろう。

セオドアの宰相は世襲制ではないが、全員アムステルダム出身だ。



マルティンは、有力な公爵家の一つだ。当主夫妻は人好きのする性格で、人望をかなり集めている。よくパーティーをする。

しかし、当主は外務大臣なため、よく家を空けている。最近は、国家間で色々とごたついたため、更に忙しかっただろう。

そこの世継ぎである長男のカースティス様は、軟派な見た目に反して、マティアス様の側近候補に選ばれる程優秀なのだろう。



「俺は一向に構わない。それに、カーティスのそういう性格は今に始まったことではないだろう?」

「そうですね。最近は、諦めてきました」

「諦めた方がいい

――こいつは最近俺の護衛に任命されたアインだ」

「アインです。姓はありません。よろしくお願いいたします」

マティアス様の紹介の後、アムステルダム様とマルティン様に頭を下げた。


「護衛ですか?ずいぶんと幼いように見えますが……。歳を、聞いてもいいですか?」

「へぇ、護衛なら、シモンズ公爵家の誰かかと思ったんだけどね」

あまりいい反応ではない。まあ、予想の範囲内だ。


「歳は俺たちの二つ下だ。だが、かなり優秀だ。“鮮血の死神”を知っているか?」

「もしかして、マティアス様……不治の病にかかりましたか?」

「お前、これ以上無礼なことを言うなら、まず俺がお前を不敬罪で処してやろうか!!」

「自身の無知を厨二病呼ばわりしないでくださいませ。実際に“鮮血の死神”は存在するのですよ」

アムステルダム様とグラッチェス様がマルティン様を詰めていた。

マルティン様はヘラヘラしており、あまり効いた様子はない。


それを尻目に、僕は大切なことをマティアス様に確認した。


「マティアス様、不治の病にかかってしまったのですか……?」

それを聞いたマティアス様は、少し目を丸くすると、さっと口を手で覆い隠した。少し肩を震わせているように見える。

一体、どうしたのだろうか?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Matthias


「マティアス様、不治の病にかかってしまったのですか……?」

アインのこの言葉を聞いた途端、笑いがこみあげて仕方なかった。

心配そうに上目遣いで俺に聞くアインには少し失礼かもしれないが、どうしても笑いを堪えきれず、咄嗟に口を手で隠した。

心配そうに俺を見るアインが可愛くて仕方ない。



――あんなに頼れる知識豊富なキャラなのに、厨二病を知らないのかよ!!



一生厨二病について知らないままでいいように思えてしまうし、ちゃんと説明してあげてその心配を取り除いてあげたくもなる。

好きな子にはいたずらをしたい男の子の心理がよくわかる。俺もそれに陥っている。別にそれでアインは俺を嫌いにはならないだろうし、このまま黙っていたい。


「マティアス様?」

アインの問いに答えない俺に、更に心配になったようだ。より可愛さが増している。これに嘘がつけるか?!俺は嫌われたくないからつけない。



「アイン」

ガシっと肩をつかむ。少し緊張しているのか、アインの顔が少し強張る。


「カーティスが言ったのは、厨二病というものだ。俺たちの歳は、一般的には格好つけたくなる。その状態を厨二病という。それは一生治らない者もいれば、いずれかに治る者もいる。全くかからない者もいる。ちなみに俺はかかっていない」

「マティアス様は、不治の病にかかっていないんですね!」

「というか、大したことのない心の病だ。正直無視していいぞ」

「は、はい」



――これ、多分あんまりわかってないやつだな……。



そもそも本人があまり格好つけたがらない性格だからなのだろうか。厨二病という概念そのものがなかった。

これが多分厨二病なんだな、とかそういうのもないっぽい。



「お前は一生そのままでいてくれ」

「?それが命令ならば……?」

その妙に純粋な所はそのままでいてくれ。



そういう茶番をしていると、いきなり怒号が聞こえてきた。何か揉め事が起きたようだ。

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