精霊からの贈り物
Side Finlay
「……は?」
俺は、つい呆けてしまった。
この、あまり見ないくらい豪華な本。しかも見たことがない本だ。
中に何が書かれているのか、当然のごとく期待した。
まさか白紙だなんてな……。
「ま、まあこういうことは、自分で考えるべきだ。答えを知りたかった訳ではないし……」
そう、自分を落ち着けるために出た声は、明らかに震えていた。
口角が震える。本を持つ手に自然と力がこもる。
だがすぐに思いなおして、この本が収まっていたであろう本棚を探すが、見つからない。
きっと、これは俺が間違えて持ってきたやつだ。きっとそうだ。
精霊がこんな幼稚ないたずらをする筈がない。
精霊はとても神聖な存在だからだ。
そう思いながら書庫を探していると、俺は何かにつまずいて、転んだ。
それも、本棚も机も何もない所で。
「は……?」
俺は、突然地面とキスしかけた事実に収まった怒りが再燃する。
つい書庫の掃除担当の使用人に怒りが湧いたが、床は決して凸凹している訳ではない。
それにそんなものがあれば、誰か確実に気づくだろうし、現に俺は立ち上がって足元を見るが、それっぽいものは何もない。
れ、冷静、冷静……。
心の中で10を数え、怒りを何とか収める。
「ふう……。あ、本」
息を深くはいた後、手の中にあの本がないことに気づく。どうやら、転んだ表紙に本を離してしまったらしい。
そんなに遠くには飛ばない筈だから、近くを探すが、見つからない。
ただ、扱いに困っていたため、ラッキーだと思ってそのまま別の本を探すことにした。
その後、特に大きな収穫もないまま、書庫を後にした。
夕食を取り、入浴し、そして就寝前の時間。
「……これは、嫌がらせか?」
俺は、怒りを抑えながらベッドの前でつぶやいた。
なぜなら、ベッドは敷布団を含め、水でぐっしょり濡れていたからだ。
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あの後、メイドを呼び、布団を全て入れ替えってもらった。
そうして寝ることができたのだが……。
翌朝、なぜか部屋中が花で一杯になっていた。
「……これは、一体どんな反応をすればいいのか」
嫌がらせなのか、今までしてきたことへの謝罪なのか。
ただ、俺の好きな色は緑と赤で、嫌いな色は黄色とオレンジなのだが、俺の部屋を満たしていた花の色は緑と赤ではなく、黄色とオレンジだった。
俺が呆然としていると、窓が軽くたたかれる。
カーテンを開け、窓を開けてみるとそこには要がいた。
俺は、要を部屋に招き入れる。要は俺の部屋の惨状に驚いていた。
「月影に言われてみてみれば……。これは、酷いな」
「アインに?」
なぜこんなところに要がいるのかと不思議がっていると、要が訳を話してくれた。
ただ、それでもなんで遠く離れたセオドアにいるアインが、俺の状況を知ることができたのか。
新たな疑問を抱えることになった。
「なんか、下級精霊と中級精霊がやけに笑っているからって。上級精霊に聞いてみたら、ロースタスにいい反応をしてくれる人間がいるって噂になってることを教えて貰ったらしくて」
「その人間はまさか俺のことか?」
噂が広まるスピード、速すぎやしないだろうか。だって、昨日の今日だぞ?
「精霊と話せる存在はそもそも数が少ない上に、いたずらに反応しないから、こういう噂は広まるのが速いらしい。しかも精霊にはそれぞれ固有の能力を持っているらしくて、恐らくそいつらが噂を主に広げているかもしれないって」
「俺は精霊と話すことができないが」
「フィンレーは、精霊と話すことができる素質があるんじゃないか?」
「成程?」
要の言葉に、納得する。
つまり、これも嫌がらせの一種と?
「月影、これは?」
要は、懐から青い蝙蝠を取り出し、手に乗せた。すぐに蝙蝠は鳴いた。
「キーキーキー」
「そうなのか?足の踏み場もない程なんだが」
要は、蝙蝠と話し始めた。相変わらず、言葉が分からない。
「キーキーキー」
「へえ?フィンレー、黄色の花は光属性の精霊、オレンジの花は火属性の精霊が謝罪の意で贈ってくれたらしい。それで、一体精霊に何をされたの、と聞かれてる」
「どんなこと、か……。豪華な、中身が白紙の本を俺が読んでいた本の中に紛れ込ませたり、何もない所で転ばされたり?それと、布団がぐっしょり濡れてたな」
俺は、要からの問いに昨日のことを思い出しながら答える。
その前も、クッキーがなくなっていたり、やけに紅茶の減りが速いような気がしたが、まあ気のせいだろう。
「キーキーキー」
「緑の花もくるかもって」
「緑は……風属性か?来るとしたら青じゃないのか?」
一番迷惑をかけられたのは水属性だ。次に土。たぶん俺を転ばせたのは土属性の精霊だ。
「キーキーキー」
「風属性と水属性の精霊は仲がいいんだと。風属性の精霊は、穏やからしい」
「そうなのか」
なら、代わりに、という所か。そこまで仲がいいんだな。初めて知った。
「キーキーキー」
「これから精霊たちにいたずらされるだろうが、怒るなって。面白がられて更にいたずらをを仕掛けられるから、らしい」
「あ、ああ、気を付けておく」
難しそうだが、とにかく頷いておく。アインは、毎日こんなことを精霊にされているんだろうな、と思いながら、顔色一つ変えないアインに尊敬した。
「キーキーキー」
「花は香りがいいから、香水とかポプリに使えるらしい。……確かに、それは謝罪用かもな。男相手にあまり喜ばれないだろうが」
「……なら、売ればいい。精霊がくれた花から作った、というだけでかなり価値があるだろう」
俺は思い付きを口にする。精霊に関わる言葉があることからも、精霊は神聖な存在。
更に、精霊に味方されている俺の株も上がるだろう。
一番は、この花の処理なのだが。精霊のくれた花を、無駄にはしたくない。
「キーキーキー」
「いいと思うってさ。学園が始まるらしい。月影がいなくなった」
「ああ、もうそんな時間か。――ありがとうな、助かった」
「いいぞ。これが俺の仕事だし、月影も最大限サポートする気だしな」
「これからも頼りにしている」
要はそんな俺に笑いかけ、そして窓から外に出ていった。
さて、何人かメイドを呼ぶか。
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