王になる資格
計画は、順調だ。
決して、ロースタス統一を、失敗してはいけない。
それを失敗するという事は、フィンレーの死を意味していることも、何より今までギリギリで回ってきた、邪神への対抗策を失い、永遠の敗北を決定させることになる。
そんなことをフィンレーに言おうものなら、変なプレッシャーを与えてしまうだろう。
英雄に関しての知識は、フィンレーにもある筈だ。なら、教える訳にはいかない。
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「はあ」
つい、溜息が出てしまう。
あともう少しで、味方を増やす段階が終わる。すると次は、王位を主張して、イーストフール王に即位させなければならない。
そうなる前に、魔法陣を見つけたかった。
「ねえ、なんで教えてくれないの?」
「お前には、資格がないからだ」
火の精霊王、サラマンダーが冷たく突き放す。
強面の顔が、さらに険しくなる。
僕はそれを見ていられなくて、視線を外す。
「フィンレーにも、教えてくれないの?」
「教えたら、資格を失い、お前の悲願は果たされない」
先程よりは柔らかい声で、土の精霊王、ノームが話す。
「……このままだったら、資格どうこうの話じゃなくなるよ」
「それでも、だ。契約が履行される以上、なに一つの例外も認められん」
腕組みをしながら、魔の精霊王、ラタトスクが答える。厳格な性格らしい彼女を説得することはできなそうだ。
「一応、それを決めるのは僕たちなんだけど……」
「そーよそーよ!事実でも、それを言うのはアタシたちよ!」
シルフィードが控えめに、ウィンディーネが噛みつくように言う。
「やたら未練たらしく聞くのが悪い。だめだ」
「……」
サラマンダーの言葉に、思わず黙り込んでしまう。
このままでは、ロースタス統一など、夢のまた夢だ。
要もフィンレーも、ペスケ・ビアンケも、僕のことを信じてくれている。
僕の、能力を。
だからこそ、必ず見つけ出さなければならない。
「でももう、行けるところは行った。怪しい空間すらなかった。本も調べた。いくつか怪しい本はあったが、内容は全く関係ないものばかりだった」
手書きのイーストフール城の地図は、黒い。バツがいくつも書き込まれている。
「何の役にも立っていないんだ。だから、せめてロースタスくらいは統一しないと、話にならない。ただでさえ、僕は英雄にとってみたらお荷物でしかないのに」
「……」
「蝙蝠、徹底的に探せ」
僕はそのまま地図とにらめっこをする。隅々まで、部屋を探し尽くす。
「おい、さっさと寝ろ。子供は寝るのが仕事だ」
「僕に睡眠は必要ない。僕のせいで、全てが終わるのを避けたいんだ」
そう言って、僕は大量の本を蝙蝠を通して読む。
頭が痛くなってきた。
しかし、止める訳にはいかない。
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「痛……」
ここ最近、寝ていない。それに、蝙蝠から性急に情報を貰っているため、慢性的な頭痛に悩まされる。
それでも、周囲から全く心配されなかったため、顔色が悪いという訳でもない。
だからこそ、油断をしていたというのもある。
僕は、生徒会室につくや否や、すぐさま隣の部屋に引き込まれ、壁に押し付けられた。
少し反応が遅れてしまった。このせいで、何か勘づかれたのだろうか?
そう思いながら、目の前の人物――マティ様に目を向けた。
彼は、完全な無表情だ。それがとても怖い。
一体何を言われるのかわからなくて怖い。
「お前、顔色が酷いな」
「そ、そうですか?」
僕は、咄嗟に誤魔化した。
「俺は、王太子の座を返上しようと思っている」
「!?」
僕は驚きのあまり、顔が強張った。
今、目の前の人はなんて言った?
「な、なんて……」
僕は思わず声に出してしまってから、すぐに異能力で防音結界を張る。
「聞こえなかったのか?」
「い、いえ……。しかし、ジェシカ様はどうするのですか!?」
僕は、思わずそう叫ぶ。マティ様とジェシカ様の婚約は、マティ様が王になることが決まっている前提だ。
ジェシカ様は王妃になる。それがセオドア王家とグラッチェス公爵家の約束だそうだ。
だから、マティ様が王太子の座を返上するという事は、ジェシカ嬢との婚約解消を意味する。
「前々からジェシカには話していた。――俺は、王には向かん」
堂々と言い切るマティ様に、いくつか思い浮かんでいた言葉が消える。
「王は、この国を自分のことのように、それ以上に愛する必要がある。しかし俺は、それができない」
「そうでない王もいらっしゃいます。マティ様が思いつめることはないですよ」
「能力的には不足はないだろうな。しかし、俺は王になる気概がそもそもない。王は、なりたい人間がなればいい」
「……」
僕は、思わず黙ってしまう。
僕は魔王になることを拒否しているのだ。そして、魔王になるために血がにじむような努力を重ねている時雨兄上に、魔王になって欲しいと願っている。
だから、マティ様の言葉を否定できない。
マティ様には、僕にとっての時雨兄上のような存在ががいるのだろうか?
「王になりたいなら、資格を示せ」
「え……?」
マティ様の言葉に、僕は驚く。
先程の話と繋がっているようで、脈絡がない。
まさか、僕たちが今やっていることを、マティ様は知っているのだろうか?
いや、そんな訳はない。ただ稀に、マティ様は未来が見えているようなことを言う。
「いや、前にそんな言葉を聞いてな」
「そうですか」
相槌を打つことしかできない僕に、マティ様は意味深な目を向ける。
それがまるで、今悩んでいることへのヒントに感じた。
王になりたいなら、資格を示せ。
王になるための資格。
ロースタス王家の血を引いている、だけではだめなのだろうか?
もしかしたら、フィンレーは何かわかるのかもしれない。
僕はその日の夜、ペスケ・ビアンケの隠れ家の一つに向かった。
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