そうしない理由
Side Kaname
夜十一時前。まばらに明るい街並みの中、俺は一人冒険者ギルドの前に立っていた。
約束の時間まで少しある。俺は蝙蝠を手慰みに弄りながら、待ち人が来るのを待つ。
「あれ、待った?」
その声と共に、二人の若い男女が現れる。
「時間ピッタリだな。――さて、話をしようか」
「待って、こういう返しは初めてすぎる」
「お前はそもそもそういう関係の人間いたことないだろ」
さっさと本題を促したら、この反応である。なかなかずれてるな、と思いつつ、俺は蝙蝠を二人に飛ばした。
「わ!――これって?」
「俺の蝙蝠だ。丁重に扱えよ。それで、お前たちはどこまでアインから俺のことを教えて貰っている?」
蝙蝠に驚いているのを尻目に、俺はさっさと知りたいことを聞く。
俺の質問に答えたのは、男の方だった。
「えっと、名前はイアン・ネルソンということ。アインがこの前、奥さんであるスーさんの護衛依頼をしたよ。それと、A級冒険者で今はフィンレー王子に協力をしている、位かな」
「それくらい知っているなら、追加情報は必要ないな」
どうやら月影は、俺の本名を教えていなかったらしい。
「ちょっと、あと吸血鬼だという事も忘れてるわよ」
男の説明の補足をする女。まあ、そこも想定内だ。
「あいつは、会って欲しい人、と言っていたがまさか複数とはな」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「俺たちは、アインを全て信用している訳ではない。もしかしたら、お前が危険人物かもしれないだろ」
「それもそうか」
納得できる答えだ。だが、その理由なら月影は事前に俺に、会ってほしい人たち、と告げるだろう。
特に意味などないかもしれないが、もしかしたらマクレーン公爵の監視は今は外しているのかもしれない。
それを見越しての、一人想定だったかもしれない。
「今、マクレーン公爵について、監視をしているのか?」
「してる」
短く答えた男の言葉を、俺は信じる他ない。
「未だに手掛かり一つ、見つからないらしい。だから今遂行している計画が終わっても、次の段階に進めない」
まだ、味方を増やす段階だ。それが終わる前に、月影は探し物を探さなければならないが、もう既に城の中を調べ尽くした後の筈だ。
一体、何がそんなに見つからないんだか。
「なにを探しているんだ?」
「さあ。ただかなり重要なことだけは分かる。ここはロースタス。普通の国では絶対に起こらないことが起こる」
オケディアでは、神輿に担ぎ上げられそうな王族は、皆殺しにする筈が、当時五歳だった幼王子を残した。
ノア王には、何かしらの考えがあるのだろう。
俺は佐倉家次期当主。知ってはいけない情報がある。
超古代国家の初代国王が、精霊王と契約を交わした。何を得て、何を背負ったのか。
それは、彼岸なら、特に知られている内容だ。
そしてその契約を存続させるには、一度も血を絶やしてはいけない、というのが掟だ。
それは知っている。
だが、その契約の詳しい状況や、どの精霊王と契約を交わしたのか。それはまるで分らない。
その血を持つ者がになればいいのか、特別な何かをしない限り、契約は更新されないのか。
少なくとも、ロースタスの契約は更新されていないらしい。
なぜなら、英雄が現れないから。
昔、月影がゼスに英雄がいる、と言って以来、英雄については何も聞かなかった。
その英雄らしき人物がいない今、恐らく殺されてしまっただろう。
「魔法陣を、探しているらしい」
「魔法陣……」
その言葉に、俺は思わず考え込む。
恐らくその魔法陣は、精霊王との契約更新の魔法陣だ。……それにしても厄介だな。魔法陣か。
「何か知っているのか!?」
「……残念ながら何も。ただ、魔法陣というなら、発動条件というものがある筈だ」
「発動条件?」
「普通、魔法陣を発動させるには、魔力を注ぐ必要がある。だが、式をいじって発動条件を変えることができる、と聞いたことがある」
うろ覚えの知識だ。そこは、月影が誰よりも詳しく知っている筈だ。
「発動条件を、変える……」
「いくら魔法陣を探し出したとて、その発動条件が分からないなら、意味がない」
「じゃあ俺たちは今何を!」
「それに、魔法陣なら、精霊王がいる。なんで探す必要がある?」
「「え?」」
俺の言葉に、二人が氷漬けにされたように、固まった。
俺は、何かおかしなことでも言っただろうか。
月影は、全ての精霊と話すことができる。
それが案内人の力なのか、始祖の力なのかはわからないが、とにかくそうだ。
精霊がかかわっていることだ、精霊に聞くのも一つの手だ。
それをしないという事は、何かしらできないという理由があるという事なのだろうか?
「魔法陣も、発動条件も。精霊王がいるなら、直接聞けばいい。てっきり俺は、王家の今までの不正を探し回っていると思っていた」
「じゃ、じゃあ、アインは嘘を……」
「いや、こんな非常事態で、嘘を吐くほど愚かではない。――それに、精霊王が一切教えてくれないという可能性もある。人の事情なんか、精霊王にとっては知ったことではないからな」
「そ、そういう理由か……」
「ともかく、マクレーン公爵については、蝙蝠から通してみる。だから魔法陣に関して、俺が直接アインに聞いておく」
「分かった」
そうして、俺たちは別れた。一抹の疑問と共に。
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