秘書官と蝙蝠
Side Finlay
あれからアインと連絡が取れたと、要から聞いた。
アインからは了承の返事は出たものの、一旦一区切りついてから、という事になったらしい。
「そうですか。分かりました。では殿下に協力いたしましょう!それと――おい」
少し興奮気味に話すガルグイッツ伯爵は、自分が連れてきた従者たちの方に、声をかけた。
その中から、細身の女性が現れる。
年齢はケイより年下くらいだろうか。淡い緑の長い髪をハーフアップにしている彼女は、とても理性的に見える。
「あれはうちの娘です。セレナ、殿下に挨拶をしろ」
「お初にお目にかかります。私はセレナ・ディ・ガルグイッツと申します」
「ああ、フィンレー・ドゥ・ロースティス=イーストフールだ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
そう言って、深々と頭を下げた。
セレナ嬢は、伯爵とはあまり似ていない。母親である夫人似なのだろう。
この国では、女性の地位は低いのだが、それを踏まえても伯爵は俺にセレナ嬢を推薦した。
婚約者との不仲が、公然の事実として囁かれている俺の秘書だ。自分の娘を推すことで、王家とのつながりを企んでいてもおかしくはないのだが、あのガルグイッツ伯爵の娘だ。
伯爵とのつながりを持ちたい貴族はごまんといる。
「今やっていることと、取り扱う情報の機密度が高い場合、情報の共有はできない。当然、俺の護衛を務める者も同じではあるが、まずはそこを了承していただきたい」
「もちろんでございます。ぜひ、スケジュール管理等に、この私めをご活用ください」
「ああ」
俺のぶっきらぼうな返答に、伯爵は笑みを深くした。
「娘はとても強情で、婚約話を蹴って文官になってしまいました。できれば娘には、人並みの幸せを得て欲しいとは、常々思っておりましたが、今は文官の娘がとても誇らしいのですよ」
「お父様、今言うことではありませんわ」
「生涯独身を貫く、と言われた時には、とても心配で心配でたまりませんでしたが、今となれば精霊王の思し召しだったのかもしれませんな」
そう言って、ハンカチで目元を押さえながら、伯爵は笑う。
娘想いのいい父親だ。国庫を食いつぶすだけのクソ親父とは似ても似つかない。
いつか息子の役に立ってほしいものだが。まあ無理だろうな。
でっぷりと太り、髪が薄くなってもはや地肌が見えるクソ親父と、実年齢よりもかなり若く見られるくらい若々しい、子供想いのいい父親。
比べることの方が失礼だ。
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「という事で紹介する。こちら、セレナ・ディ・ガルグイッツ嬢だ。俺の秘書業務をしてもらう」
俺は早速、まだ明るい時間に来た要に、セレナ嬢を紹介した。
「初めまして、俺はA級冒険者をしている、イアン・ネルソンと申します」
「まあ!そんな方ともお知り合いなのですか!?」
セレナ嬢は、心なしか興奮しているように見えた。
もしかしたら、セレナ嬢は要のことが好きなのかもしれない。
「ああ。知り合いの知り合いでな、紹介して貰ったんだ」
「とてもすごい知り合いがいらっしゃるんですね、殿下には」
私、もしかして必要ありません?と聞くセレナ嬢に、要はぽつりとつぶやいた。
「あいつ、秘書向いてないだろ」
「そうなのか?」
色々と気遣いできるし、頭もいい。柔軟に対応することも可能だ。
それなのに?
「男性恐怖症で、突然気絶されたら困るだろ」
「あ」
確かに、とても困る。相手側の心証が悪くなる可能性があるのだ。
「それにあいつにはあいつなりの目的がある。あまり信用しすぎるな。――ともかく、きちんとした秘書官を雇えてよかったな」
「まだ仕事ぶりを確認した訳ではないがな。――頼んだぞ、セレナ嬢」
「はい、かしこまりました」
そう言って、セレナ嬢は丁寧に頭を下げた。要のぶっきらぼうな口調に、口を突っ込まないあたり、優秀さが透ける。
「お、蝙蝠だ」
小さく開けてあった窓から、青い蝙蝠が室内に入ってきた。
要はその蝙蝠を手に乗せ、会話をし始める。それをセレナ嬢は不思議そうに見つめていた。
「青い蝙蝠……。とても珍しいですね。それに、蝙蝠と会話しているように見えます」
「そうだな……」
果たして、要が吸血鬼だという事を話してよいものなのか。その蝙蝠は、別の吸血鬼からの便りだと、話してよいものなのか。
あまり隠している雰囲気はなかったものの、勝手にばらすのは気が進まない。
「キーキーキー」
「分かった。いつどこに行けばいい?」
「キーキーキー」
「分かった。他には何か?」
「キーキーキー」
「お前な……。そういうことは先に言えよ。いつもいつもなんで言わないんだ」
「キーキーキー」
「無視するなよ。――まあとにかく分かった。それで奴らは一体?」
「キーキーキー」
「へえ、スーを?それは礼をしておかなきゃな」
「キーキーキー」
そう言って、蝙蝠は要の手の上から飛び立ち、そのまま扉の方へと飛んで行ってしまった。
「あ、おい、お前が来たのは窓から――っていなくなったな」
「気にするな」
「あの、イアンさん、先程は何を……?」
「ああ、少し伝達事項があってな。明日以降に教える。――じゃあ俺はここで」
そう言うや否や、要はさっさと窓の外へと身を躍らせた。
要は空を飛ぶことができない。だから、四階から飛び降りた要に、度肝を抜かれたが、慌てて駆け寄って、窓の下を見てみると、そこにはここから歩き去る要の後姿があった。
「すごいですね……。流石A級冒険者」
そう言えば要は吸血鬼だった。蝙蝠化で、ダメージは無効化できる。恐らくそれをやったのだろう。
まさか、それもなしに飛び降りて、そして無事なんてこと、思いたくもない。
要と蝙蝠の会話。( )は蝙蝠の話してた内容。
「キーキーキー」(会って欲しい人がいる)
「分かった。いつ行けばいい?」
「キーキーキー」(夜十一時。場所は冒険者ギルドのイーストフール王都支店前)
「分かった。他には何か?」
「キーキーキー」(彼らは、マクレーン公爵家に潜入している調査員だから、そこは把握しておいて)
「お前な……。そういうことは先に言えよ。いつもいつもなんで言わないんだ」
「キーキーキー」(なんか気になることがあるんだって。今ここで言ってもいいけど、そのままマクレーン公爵家に蝙蝠持って潜入して貰って、実際に見た方が早いって)
「無視するなよ。――まあとにかく分かった。それで奴らは一体?」
「キーキーキー」(情報ギルドのペスケ・ビアンケ。僕たちがセオドアを離れている時、スーさんの護衛を任せたことがあるよ)
「へえ、スーを?それは礼をしておかなきゃな」
「キーキーキー」(そういうことだから)
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