不憫な吸血鬼、多分半分自業自得
今日から、学園が始まった。サティ姉さんやルーはフィンレーの姿がないことに不思議に思っていた。
サティ姉さんにそのことを聞かれたため、僕はフィンレーは実家のごたごたを解決するためにイーストフールに一時帰国した、と説明した。
それはそれで二人は心配したが、とりあえず大丈夫だ、と言っておいた。
いつまでかかるかわからないから、もしかしたら留年する必要が出てくるかもしれない。
そうならないためにも、僕はさっさと魔法陣を探し出す必要があるが、蝙蝠たちを飛ばして作った地図から、虱潰しに怪しい場所を潰している。
しかしきりがない。
もう少し頭痛に耐えるか……。
そう思い、昨日は追加で蝙蝠をイーストフールに飛ばした。
きっと頭痛がとんでもないことになるだろうが、見つからないんだから仕方ない。
なんとしてでも、マクレーン公爵より早く見つけなくてはいけない。
他の策も考える必要があるかもしれない。
そうなった場合、万が一のことを考えて、僕が直接行く必要があるかもしれない。
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そのまま生徒会の仕事をこなし、部屋に帰ったのはすっかり辺りが暗くなった後だった。
夕食を取り、体を洗って歯を磨く。
あとはもう寝るだけの状態で、僕は窓から入ってきた青い蝙蝠と共に、ベッドの上に座る。
前に酷い頭痛でそのまま気絶したことがあったからだ。
昼にやるのは、比較的脳に負荷がかからない報告を受けている。
突然食堂で倒れたら、騒ぎになること間違いなしだし、マティ様から容赦ない叱責を食らう。
「はあ……よし、報告を受け取るか」
僕は覚悟を決めて、目の前の蝙蝠と同化する。
「ヒッ」
そして――僕はすぐに蝙蝠の報告を見ることを中断した。体が無意識に震えている。
「はあ、はあ、はあ」
これでも、前よりはましになったと思う。そう思うだけで、自分が嫌になる。
普通は、大柄な男性を見ても、気絶なんかしないから。
どうしても、トラウマは消え去ってはくれない。あの時の光景が、フラッシュバックする。
どうしても、どうしても。
仕方なかったんだ。仕方なかった。どうしようもなかったんだ。どうしようも。
僕は悪くない。悪くない。リーリアもジェイクもそう言っていた。他の研究者たちも。
だから、悪くない筈だ。悪くない筈。
「――ふう」
僕は、何とか落ち着くことができた。
だが、まだ体は震えている。
ふと、僕はなぜかガラスペンが脳裏に浮かんだ。すぐに机に向かい、ガラスペンを握る。
すると、段々と体の震えが落ち着いてきたのが分かった。
「大丈夫、大丈夫――」
もうあの男はいない。だから、怯える必要なんかないんだ。
ずっと、呪いのように呟いてきた言葉。それで、無理やり僕は心を落ち着かせる。
ああ、早く克服しないといけないのに。
邪神もバンヴァタールも、大柄な男だ。ヌフィスト――はぎりぎり耐えれる。
うん、大丈夫。シャンメル相手にも克服したんだ。だから、すぐに克服できる。
根拠のない言葉。でも、僕はそれに縋りつくしかない。
そう思っていると、窓から音がした。
僕はカーテンを開けて、窓の外を見る。そこには、紫色の蝙蝠が、窓に頭突きしていたのだった。
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Side Finlay
「どうせなら、今連絡しよう。どうせ起きてるだろ」
「いや、今かなりの深夜だぞ……」
「月影のことだからな。きっと遅くまで研究とかしてる筈」
そう言いながら、要は先程からずっと弱弱しい反応しか返さない青い蝙蝠をつついていた。
「おい、流石に可哀想だろ」
「こいつが起きてくれない限り、俺は貴重な転移魔法陣のスクロールを使わなければならない」
「貴重……?」
俺は、大切そうに巻物を抱える要の言葉に違和感を覚えた。
転移魔法陣なんか、アインがよく使っているイメージがあるが。
「魔法陣を描くには、二通り方法がある。一つは、魔力で直接描く方法。もう一つが魔力を込めたインク、またはペンで描くこと。前者は莫大な魔力が必要で、後者は特別な技術が必要だ。そして俺はその両方がない」
「いや、前者はあるだろ」
「全く。転移魔法陣の難しさを舐めるなよ」
そう言って、青い蝙蝠をつついていたが、ついには俺の方に逃げ出して、服の中にまで入ってきてしまった。
「あ、おい!」
慌てて蝙蝠を取り出そうとするが、なかなか取り出せない。
だが、下着と服の間にいるし、何よりじっとして動かないので、俺は仕方なく放置することにした。
「はあ、これ高かったのに……」
要は、俺の服の中に逃げ込んだ蝙蝠を恨めしそうに見ながら、魔法陣の描かれた紙の上に紫の蝙蝠を置き、魔力を流す。
するとすぐに蝙蝠はその場からいなくなり、紙は燃えて灰になった。
「で、殿下、すぐにお取りしましょう!」
「キーキーキー!!」
「あ、ケイ!俺は大丈夫だから!」
蝙蝠を取ろうとしてケイが近づくと、蝙蝠が服の中で翼をばたつかせて暴れる。おい、翼が傷むぞ。
パニックでも起こしているのではないか、と思い、俺はその原因になるケイと物理的に距離を取った。
服の上から優しくなでてやると、次第に落ち着いたのか、大人しくなった。
「あとで月影にありったけ描かせてやる」
完全なとばっちりを受けたアインをかなり可哀想に思った。急に目の前に苦手な大柄の男が現れたかと思うと、友人からはさっさと本体と話させろとの催促の圧、さらに思わず逃げ出したら大柄な男が近づいてきて体に触ろうというではないか!
パニックになっても無理はない。
俺は、服の上から可哀想な蝙蝠を優しくなでた。
多分この蝙蝠が俺の方に飛んできたのは、要以外で唯一の知り合いだからではなかろうか。
酷い恐怖と不安の中で、意地悪してこない知り合いがいれば、その人の服の中に潜り込みたくなるのだろう。
ぜひ、アイン自身でやらないでほしい。特に、マティアス王子相手にやりそうな気がするから、切実に。
マティアス王子なら、蝙蝠であってもきっとだめだろうな。
そう思いつつ、優しくなでていると、服の中でもぞもぞ動く気配がする。
くすぐったいからやめてほしいが、どうやら外に出たいらしい。けれど服を脱ごうとすると動きが止まるため、もう好きにさせることにした。
「お、月影。大丈夫――には見えないな。一体どうした、そんなに青白い顔をして」
そうこうしていると、アインと連絡が取れたようだ。
「さっさと寝ろよ……。――え?用事?あ、ああ、忘れちまった。――変に夜更かしせずにさっさと寝ろよ」
そう言って、要はアインとの会話を強制終了した。
「……月影がひっどい顔をしていたから、ひとまず明日以降に連絡することにする。――昔はあんなに男に過剰反応しなかったのに、妙だな……。あとで問い詰めるか」
「ああ、そうしてやってくれ……」
「もちろんだ」
俺は、要から湧き上がる不機嫌なオーラに圧倒され、そう言うのが精いっぱいだった。俺は、アインを労わって連絡は明日以降にしてやってくれ、という意味で言ったのだが、果たして要はどういう意味で受け取ったのだろうか……。
怖いから、聞かないことにした。
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