精霊剣術
Side Finlay
「月影の精霊剣術を見たい?」
早速ヌルを使って、要にコンタクトを取った。暇していたようですぐに来た要は、予想外の要求に驚いていた。
「あれって精霊剣術というのか」
「一応、魔法の扱いらしい。中には、かなり難しい技があって、それの成功率は剣の出来栄えにほとんどかかっている」
「かなり独特な剣術ですね」
「なんつー博打な剣術だよ」
ケイの迂遠な言い回しをヌルはバッサリと言い切った。博打な剣術って、お前の憧れの人が好んで使う剣術だよ。
「その代わり威力がとんでもなく高い。ぼろい建物なら、ものによっては踏み込みで破壊させることができるからな」
「それは前科があるという自白と捉えて構わないか?」
つい一月前、そのぼろい建物が崩れたという記事が出回っていたが。
「あれの半分は俺が原因だな。ちょっと足を速くしたら床にひびが入った。そこに大勢が押し寄せるものだから、襲撃者を捕縛した後に床が崩れてな。それで、半壊」
「足を速くする……。それだけで建物が崩壊」
ケイが興味深そうにしているが、まさか習得する気なのか?
「俺が使う精霊剣術と、月影が使う精霊剣術は、属性が違うからまさか同じ剣術とは思わないだろうな。月影が得意なのは光属性と闇属性。俺が得意なのは風属性」
俺は風属性の魔法は使えないんだが、これは別だ、という要に、俺は精霊剣術が思った以上に複雑だと思った。
それがあれば、もはや適正なんか意味をなさないじゃないか。下手すれば、魔法を使えない人でも魔法を使うことができる。
そう言ったら要は、魔法陣だって同じだろ、と言い返す。確かに。
「氷って水属性じゃないか?」
ふと、ヌルが思い立ったように言う。
「そうなんだが、別に腕前は普通だったぞ。恐らくご所望の技は雪月花という技だろうが、たまに失敗していたしな」
「失敗……なんだかアインには縁遠い言葉だな」
どうしても、何でもそつなく表情を変えずにこなしてしまうイメージが抜けない。
礼節がしっかりしていて、料理の腕もいい。知識が豊富で何より護衛としての腕が立つ。調べものもかなり得意、と。――完璧だな?
「いや寧ろ失敗の親戚だと思うが。研究始めた頃なんかは、しょっちゅう研究資料を持ち逃げされてたし。資料を持ち逃げした犯人を追う梅様の表情は、とんでもなく怖かったのを覚えている」
そう言って要は大袈裟に体を震わせる。
しかし、あまりにもわざとらしく映った。普段から、要は飄々としているからだろう。
「今話しているのは“鮮血の死神”のことなんですよね……?おかしい。そんな筈では……」
「まずい、純粋なヌルの夢を壊してしまう」
「一体どこが純粋なんです?」
闇ギルドに所属している暗殺者に、純粋もくそもないが、あまりにも頑なに“鮮血の死神”が完璧超人であることを求める。
実際アインがそれに近いのも相まって、なかなか理想と現実の区別がつかない。
「要、何かいいのあるか?いい感じのエピソード」
「……やけに魔法の習得スピードが速かったな。あと、物凄く頭がいい」
「うっす!!」
「もっと他にないんですか」
俺とケイの否定的な態度に、要は緩く笑う。
「ない」
「そんなに言い切らなくとも」
「せめていうならば、十歳に論文を出したことがあったな。全部精霊王が言ったとおりにしただけだ、と本人は言っていたが、それで魔法陣の技術が飛躍的に進んだ」
「さすが“鮮血の死神”様です!!」
ヌルが復活した。よかったよかった。
というか、きっちりあるな。そんな昔から、アインはすごかったのか。
「――話を戻すが、どうにかして月影を引っ張り出してこなければな」
「今、アインと簡単に連絡が取れない状況だからな……」
「それは困りましたね……」
俺とケイが困り果てていると、要はニヤッと笑った。
自身に満ち溢れている笑みを浮かべる青年は、片手を俺たちの前に差し出した。
そこには、どこか騎士感漂う青色をした蝙蝠がいた。
「ここに、青い蝙蝠がいる」
「いるな」
「俺の蝙蝠は紫だ」
「こいつ誰だ」
「月影の蝙蝠だ。一匹はぐれていたのを捕まえた」
「キー」
可哀想に、要の手の上にいる蝙蝠は、こちらを見て怯えていた。
「怯えているぞ?」
「知らない男がいるからだろ。ケイという大柄な男がいる訳だしな」
「それは……悪いことをしたな」
男性恐怖症らしいな、彼。普段は全く表に出さないから忘れていた。
「俺がいることが不都合なのでしょうか?」
「いきなり月影が見たら卒倒しかねないから、俺が個人的にメッセージを送る。――何か伝えたいことはないか?」
「尊敬しています、とお伝えください」
「気が向いたらな。――他はないか?」
ヌルの言葉に対する要の対応は雑だ。
「大丈夫だ」
「俺も」
現状、アインに伝えることはない。近況なんかは、要が伝えてくれるだろうし、そうでなくとも蝙蝠から情報を入手するだろうし。
「ところで要はその――雪月花、とやらは使えないのか?」
「無理だな。一度も成功させたことがない」
「そうなのか……」
俺は、要の言葉に落胆した。
「俺のやつで代用しようとしていたな?」
「もし無理だったら、と考えると……」
「だから、連れてくるしかない。なんとしてでも」
「そうだな」
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