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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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事前準備は大切でした

Side Finlay


「――ふむ。確かにこれなら、殿下についた方が、この国の未来のためになりそうですな」

初老という歳に差し掛かっている男は、豊かな自分のひげをなでながら、そう言葉を返した。


「ありがとう、カインズ卿」

「いえいえ。私は、見たくなったのですよ。殿下が創る未来というものを。その上、私が今まで喉から手が出るほど欲しかった、法務大臣の座をくださるというのです。協力は惜しみませんですぞ」

そう言って、男――カインズ卿は俺に手を差し出す。俺はその手を迷わず握った。


正義感が強いカインズ卿からしてみれば、目の上のたんこぶがいなくなり、その上自分の理想と合った為政者だ。孫娘にもこちらサイドの婚約者をあてがった。

そのお陰かどうかはわからないが、無事交渉成立までこぎつけることができた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



この国の司法は腐っている。しかし、無茶苦茶な法律が作られることはなかった。

それは、カインズ卿がいたからだ。

そんな彼を取り込めたなら、他にも芋ずる式に引き込める貴族がいる筈だ。


勢力を増やし、社交界での影響を強める。

少なくとも、建国から存在する公爵家に対し、対抗するためには力が必要だ。


カインズ卿は末席といえども侯爵。そういう意味でも、かなり大歓迎な人物だ。


更にカインズ卿の娘であるセレスバーグ夫人は、この国に蔓延る過激な男尊女卑を撤廃しようと動いていることで有名だ。

カインズ卿はそんな娘を溺愛しているため、まずはそちらを攻めてみたところ、成功した。


交渉というのは、こういうことなのだろう。


無策で行くのは愚か者がすることだ。



「ケイ、次の予定は何?」

「これからガルグイッツ伯爵との対談の予定があります」

そしてこの状況。早く信頼できる側近を作り、ケイが護衛に集中できるようにしなければ。


ヌルは情報収集に勤しんでいる上、同行させるには素性が怪しすぎる。

元々、平民出身のケイもあまりいい目で見られている訳ではないのに、だ。


「いい人いないかな……」

「俺はこのままでもいいですよ。ただ、手帳とペンを買ってください」

「まただめにしたのか……」

これでもう何度目かになる、ケイからの手帳とペンの催促に、俺は溜息を吐いた。


ケイは、握力がかなり強い。

それは騎士をしているから当然のことだが、それが故にペンを壊してしまうのだ。

手帳に関しては、単純に書き損じが多い。

今までケイは、字というものを書く生活ではなかったからだ。

それは考えてみれば当然のことなのだが、まずは字を覚えることから始めた。


それから一ヶ月。もう何本目なんだろうな、ペンは。


「ガルグイッツ伯爵は、交流がかなり広い人だし、もしかしたらいい人を紹介してくれるかもしれないな」

「そうですね」

先程、このままでもいい、と言った口で嬉しそうにするケイ。頭を使うのは苦手だと、前に言っていたからな。


「きちんとスケジュール管理をしてくれる文官。できれば年が近い方がいい。あとは、セオドアについていくかどうかは本人次第になるのか……?」

「そうですね。それと、ある程度腕が立つ方が……」

「なくてもケイがまとめて守ればいいし、向こうは向こうで強者が揃っているから問題はない」

「……そうですか」

ケイは、一緒に模擬戦でもできるような人が欲しそうだったが、それは要を呼び出せば解決する。


今は秘書だ、秘書。


そう考えながら、俺はガルグイッツ伯爵との対談へと向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ガルグイッツ伯爵家は、昔からある、というほど長い歴史を持つ訳でもなく、また新興というには古すぎる、そんな家だ。

代々文官を輩出している一家で、現当主夫妻はパーティー好き。

ことあるごとにお茶会や夜会を開くことで有名だ。


更に当主夫妻は人が良く、よく人を紹介してほしいという事も頼まれる。

彼らに紹介された人はみな外れがなく、とても評判がいい。


そのため、ガルグイッツ伯爵家のパーティーに招待されるという事は、一種のステータスなのだ。


今回は、流石にパーティーではないが、次からはパーティーになるかもしれない。できれば忍びたいものだが……。



「いいですよ」

「いいのか!?」

まだ、提案しかしていないのだが。


俺は、ガルグイッツ伯爵に対し、少し世間話を挟んだ上で、秘書が欲しいがいい人材はいるか、と聞いた。

すると、二つ返事で応じてくれた。別に彼らは善人ではあるものの、慈善事業をしている訳ではないため、見合った対価は必要だ。

むしろそっちの話し合いの方が緊張しているくらいなのだが……。


「ただ一つ――殿下はセオドアにご留学なさっておいでですよね?」

「そうだ」

俺は、伯爵が何を言いたいのかわからないが、とりあえず頷く。


「会ったことはありますよね、セオドア王太子殿下の護衛と」

会ったことがあるどころか、今ここにいるのはその彼の差し金ですがね。


「そうだが……彼がどうしたんだ?」

「殿下は見たことはありませんか?美しい氷の華を」

「氷の華、か?それなら見たことはあるが」

俺は、記憶をさかのぼりながら、伯爵の言葉に肯定を返した。


アインが、剣術でなんか生み出してたな、あれ。

かなり綺麗だったが、それをなんで伯爵が知っているんだ?


「実は、私のはとこに当たる人が、セオドアに住んでいるんですよ。息子を学園に通わせていて、その学園の魔法祭に足を運んだそうなんです。その時に、とても美しい氷の華が咲くのを見た、と興奮気味に語っておりまして」

「そういうことだったのか――その方は、怪我はなかったのか?」

魔法祭の後、ウィキッドによる襲撃があった。

怪我といえば、逃げる時に転んでひざを擦りむいた、という事以外は聞かなかったが、一応。


「風紀委員会の生徒たちの対応が迅速で、怪我もせずに楽しい記憶が残りました、と言っておりました。――案外気が強いんですよ、彼女は」

「それは――なかなかだな。戦闘音が響いていたと思うが、気にも留めていなそうだな」

「実際、そうでしたよ。お転婆な方が知り合いにいると、大変ですよね」

「はは、そうだな。かなり大変だな」

俺は、その言葉に乾いた笑いしか浮かべることができなかった。


きっと、ヴェネッサのことを言っているのだろう。

あれをお転婆で片付けれるとも思えないが、大変なのは確かだ。あちこちで不倫しまくって、ヴェネッサに本気になった男から襲われたことがあるくらいだしな。

皆ケイが返り討ちにしてくれたが。


「話は戻りますが、はとこが絶賛する氷の華を、ぜひうちの庭で咲かせてほしいのです!どうでしょうか?」

「分かった。聞いてみないとわからないので、彼に聞いてみるとする。ただ、あともう少しで長期休暇が開けてしまうから、今すぐには無理かもしれないという事を、承知しておいてほしい」

「それはもちろんです!」

伯爵はそう言って、両手で俺の手を握る。俺も握り返した。伯爵の握る手の強さから、今回のことはよほど嬉しかったのだろう。


今回の対談は、予想外の収穫を俺にもたらしてくれた。

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