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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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交渉

Side Finlay


しかし、現実はそう簡単には割り切れないもので。


実際、その後ももやもやしながら過ごしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――しかし第二王子殿下、あまりにも無謀というものです」

そう言ったのは、財務次官である、グロンツフォル卿だ。元々険しい顔を、さらに険しくして言う彼に、俺は続きの言葉を何とか繰り出した。


「しかし、今の国の状況は、あまりにもよくない。いずれ久遠の属国に成り下がる。――我が祖国が、そんな憂き目にあっていいのか?」

「むしろそれは僥倖(ぎょうこう)でしょう」

「だが――」

「第二王子殿下。お言葉ですが、今この国には何がありますか?広大な土地、それだけでしょう。広大な土地は、それだけに管理が大変です。管理するには金がかかる。その金を捻出しようとも、もうどこにもない。何故だかわかります?――全て、持っていかれたからですよ、王族や汚職貴族たちに」

「……」

俺の言葉を遮ったグロンツフォル卿は、どこか怒りをにじませながら話す。それは、何もしなかった俺にも向けられている気がした。


「私が生まれた時でさえ、この国の豊かさは過去のものでした。――もう、独立国にこだわる必要はないのではありませんか?」

「そんなことは――」

「では、この国を久遠に頼らずに立て直すメリットとは?――では私はこれで」

そう言って、グロンツフォル卿は席を立った。俺は、小さくなっていくその背中に、何の言葉も発することはできなかった。


俺はしばらく呆然とした後、落ち込んだ。



――まさか、断られるとは……。



だが、彼が言った言葉には一理ある。この国は、もう終わっているも同然だ。それに縋りついている俺は、さぞ憐れだろう。

確かに、久遠に泣きつけば一発で終わる。

俺を王にしてくれるだろう。反対派を一掃できるだろう。


だが、それで民はついて来てくれるのだろうか?


そもそも、魔族はあまり人族と関わらない方がいい。アインや要に助けてもらっている身ではあるが、だからこそわかる。

二人とも、かなり優秀だ。俺がすることと言えば、まともな文官たちを交渉して味方に引き入れることくらいだ。

他にも、普通はするべきことがある筈だ。例えば噂を操ったり、この国のことについて調べたり。


けれど俺はそれを全くしていない。

していないことに負い目を感じている訳ではない。ただ、あまりにもうまく行きすぎているのだ。


だからこそ、こうして交渉が失敗に終わった時、俺は何もできなかったという虚無感で落ち込むのだ。



「どうでしたか、殿下」

落ち着いたケイの声が、暖かく聞こえる。


「だめだった。今は多分、味方にはなってくれそうにないな……。敵にはならないけれど」

「そうでしたか……」

俺の沈んだ声に釣られ、ケイの声も沈む。

そしてケイの頭に乗っている紫の蝙蝠も沈む――って、蝙蝠がなんでここにいるんだ?


「キーキーキー」

「うん、何言ってるかわからない」

手に乗せてみたものの、蝙蝠が何を言っているのかわからない。

もしかしたら、ただ鳴いているだけかもしれない。


ただ心なしか、俺の顔面に飛び込んだ蝙蝠より大きいような……いや、気のせいか。流石に一月も経てば詳しい所は忘れる。


蝙蝠は俺の手から飛び立ち、ドアの前で旋回を始める。気になってそちらへ向かうと、今度はドアにへばりつき始めた。

俺は、落ちそうになっている蝙蝠を手ですくいつつ、ドアを開ける。すると顔にペソ、という衝撃が走る。


「お前……」

俺は、この蝙蝠が俺の顔に飛び込んできた蝙蝠だという事に気づき、呆れた声を上げてしまう。


「キーキーキー」

「キーキーキー」

俺の手の中にいる蝙蝠が、怒ったような鳴き声を上げた。俺の顔にいる蝙蝠はそれに対し、泣きそうな鳴き声だ。


俺は顔についた蝙蝠を引っぺがし、そのまま手の平に乗せる。両手に花ならぬ、両手に蝙蝠。どことなく複雑に思いながらも、俺は手の平で繰り広げられている蝙蝠同士の言い合いを、ケイと一緒に眺めていた。



最終的には、なんだか仲直りしたらしい蝙蝠たちは、どうやら用事を思い出したらしい。


怒られていた方の蝙蝠が、自分と同じくらいの大きさの封筒を差し出す。うん、封筒を背中に背負っている時点で、気づいてはいたけれど。


俺は封を切って中を見る。それは、要からの短い手紙だった。


内容は、ヌルを有効活用しろ、とのこと。

もしかして要は、俺が交渉を失敗することを事前に察知していたのだろうか?


ともかく、要に言わせれば、俺は今情報が足りない状態、らしい。交渉に関しては、全て俺に任せるから、事前に相手を調べるのは当然のことだ、とも書いてあった。


確かに今思えば、ほとんどノープランだった。それなら、グロンツフォル卿に呆れられても仕方ない。

俺はヌルを呼び出し、グロンツフォル卿を始めとする、これから交渉を行う相手の素性調査を頼んだ。


突然の大量の仕事に、ヌルは最初げんなりとしていたが、すぐに仕事に取り掛かっていた。



そして、気づいたことなのだが……ほとんどが、ヴェネッサをあまりよく思っていない者たちばかりだった。

もしかしたら、そのせいで俺を敵視しているんではなかろうか。


……すぐに婚約破棄をせねば。


俺は、余計なことしかしない婚約者に対し、内心で恨み言を言い連ねたのであった。

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