閑話:誕生日
長期休暇の途中で、年が変わる。
この時期は非常に忙しく、誰もが道を行ったり来たりをしている。
この時期に生まれた人々は、碌に誕生日を祝ってもらえずに一年歳を取る。
一応、僕は誕生日から正体がばれるのを防ぐために、卯月――四月生まれにしている。
そうしたら、もうちょっと祝ってもらえるのかな、とか思ったりしたが、結局同じく忙しい月なので、いつの間にか歳を取っている、という状況になっている。
ただ、不思議なことに、毎年この日になると、いつの間にか部屋の前にささやかなプレゼントが置かれている。
時間帯はまちまちで、朝起きたらすでに置かれていたり、翌日にプレゼントの存在を気づいたり、規則性がなかった。
ステラから帰国したすぐ後から、マティ様とジェシカ様はパーティーへの出席で忙しくしていた。
僕は当然護衛に駆り出され、忙しくなる。
そんな誕生日な今日も、護衛をしている。
この国は雪があまり降らない。その点だけは、護衛の観点から、とても喜ばしいことだった。
ずっと、マティ様について回る。貴族たちがマティ様に対し、挨拶をしたり腹芸を交えた会話を楽しんだりしているのを、僕は警戒しながら見つめる。
「どうです?彼の婚約者に私の娘は。とても気立てがいい、自慢な娘です」
貴族の男は、そう言って自分の娘を僕に会わせようとする。
「アインに婚約者は、まだ早いだろう。――どう思う?」
「私は、職務に専念したいので……。婚約はまだ早いかと存じます」
「だ、そうだ」
「そ、そうですか……」
そう言って、すごすごと貴族の男は去っていった。令嬢は、ちらちらとこちらを振り返っている。
その瞳の奥には、獲物を狙う獣のような執念が透けて見えた。
「マティ様へ取り入る者が増えてきましたね」
「ああ。王太子だからな。ハロルドもまだ、婚約者が決まっていないから、さっさと決めて欲しいんだが」
「僕も、決めた方が……」
「やめとけ」
愚痴に反応した僕を止めるマティ様。僕も、婚約者が欲しい訳でもなかったため、素直に聞き入れた。
「こんにちは、王太子殿下」
「――ああ、ジャクソン公爵か」
「……」
僕は、警戒レベルを一気に引き上げる。
ジャクソン公爵とは、マティ様とジーク様、ジェシカ様がお出かけをした日に襲撃を恐らく仕掛けた人物だ。
証拠を集めている段階で、それ以外の余罪も同時進行でまとめている。
これは、蝙蝠を公爵本人につける絶好のチャンスだね。
僕はこっそり小型の蝙蝠を張りつかせる。
「はは、今日も相変わらずお元気そうで」
「俺が元気でなければ、心配する者が多いからな。民を心配させぬことも、王族の務めだ」
「……そうですか。殿下の優秀さは、学園の外でも拝聴しますよ」
僕は、大袈裟に手を広げて、マティ様を称賛するような口調でそう言った男が、気に食わなかった。
マティ様は入学時に僕とサティ姉さんという、平民二人に負け、その後も何度か一位に輝くものの、僕に勝ったことは一度もない。
それも、学園の外に伝わっている。
冷静に話を聞いてみれば、例年よりも優秀な王太子と、そんな王太子よりもずっと優秀な平民がいる。
この国の未来は明るい、と判断できるだろうが、この男は平民にすら勝てない無能王子だ、と言いたいのだ。
「俺は優秀だからな。当然、俺の優秀さは学園の外に漏れ出ないことはない。更に、俺の護衛もかなり優秀だ。――俺が見つけた人材が、予想以上に優秀で、鼻が高い。俺は、人を見る目がある。そうは思わんか?」
そう言って、マティ様は僕の肩に手を置く。
僕は内心驚きと嬉しさが混ざり合ったが、それを表に出さないようにする。
「そ、そうですな……」
「人を見る目は、頭がいいだけでは養えないからな。――そうだろう?」
マティ様は不敵に笑う。ジャクソン公爵は、マティ様の問いに頷く他なく、悔しそうに挨拶をして去っていった。
確か、ジャクソン公爵が脱税し始めた理由は、資金繰りが苦しくなったから。信じていた使用人に裏切られ、お金を持ち逃げされたのが原因らしい。
まさか、マティ様はそれを知っているのか?少し突っ込んで調べないと、欠片しか出てこなかった情報だけど。
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その後、深夜までパーティーは終わらず、主役の一人であるマティ様は、中座することもなく最後まで参加していた。
僕もそれに付き合い、しれっとシャンパンを飲まそうとさせる貴族たちを躱しつつ、ずっとマティ様の後ろで気配を消していた。
先程マティ様と別れ、部屋の前についた。少しぼうっとしていた僕は、ドアノブに手をかけるまで、ドアノブに引っ掛けてあったプレゼントの存在に気が付かなかった。
「あ……」
僕はそれを手に持ち、部屋の中に入る。ドキドキしながら、綺麗にラッピングされた包装紙を剥がす。
そこには、見たこともないくらい綺麗なペンと、美しい宝石をあしらったネクタイピンがあった。
今までとは、段違いで高価なプレゼントだ。流石に気後れする。
透明なガラスはただでさえ高価なのに、複雑な構造をしているガラスペンは、当然かなり高価になる。ネクタイピンは、小さいながらも本物の宝石が使われている。
目利きがあまりできないため、どれくらい高価かはわからない。鮮やかな青色のこの宝石。同じ色のガラスペンもとても綺麗だ。
僕は、贈り主の意図はわからない。なんで、今日なのか。僕の誕生日は四月なのに。
でも、嬉しい。だから僕は、便箋とインク瓶を手に取り、貰ったばかりのガラスペンを使う。
僕が今まで使っていた羽ペンリードペンも、書きやすいと思っていたが、それ以上に書きやすい。文官たちに人気が出る訳だ。
時雨兄上の趣味が、ガラスペン集めなのもようやく理解できた。
「――よし。あ、でもどうしよう」
今まで、僕はお礼状を渡したことはない。メッセージカードは今まで書かれていなかった。だからこそ、筆跡で誰なのか、という事を推理することはできない。
「……ドアに引っ掛けておくか」
それしかないだろう。僕は、音を立てないようにドアを開け、便箋を入れた封筒の入った紙袋をひっかけておいた。
きっと、翌朝もあるだろうけれど。
でも、なんだか嬉しいという感情が溢れ、今日は素直に寝付くことができなかった。
でももっと嬉しかったのは、手紙がなくなっていたことだ。
もしかしたら、読んでくれたのかもしれない。そう思うと、少し気恥しくなっていた。
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