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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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Side Finlay


雨。どんよりと曇った空は、それを見る俺を、少し憂鬱にする。

そう言えば、ケイがいなくなったのもこんな空の日だっけ?俺は、雨が嫌いだ。


今日は、更にうんざりもする。何せ、数少ないヴェネッサと会わなければいけない日なのだから。

憂鬱だ。


「どうして、こんな空なんだろうな」

「誰だって、天気を操る力は持ち合わせてはいません」

「だからって、わざわざこんな天気にする必要もないだろ」

今日は、ただ会うだけ。本当に。

もう少し、ミラー公爵の脱税汚職について、証拠固めをしたい。だから、まだ婚約破棄はしない。


だが、なんとなく嫌な予感がするのは、俺だけなのだろうか。


汚職まみれな大臣たちを更迭する準備も整っていないのが、悪いのだろうか?

代わりはなかなかいない。

俺の城の中での人脈のなさが、裏目に出ている。



「失礼します。ミラー公爵令嬢がお越しになりました」

「客間に通せ」

ノックの音とともに、メイドが現れ、用件を告げた。俺は簡潔に言うと、自分も客間に向かう。

わざと、準備に時間をかけて。


ケイを引き連れ、優雅にヴェネッサが待っている客室へと訪れる。

そこには、はしたなく貧乏揺らしをしているヴェネッサがいた。

俺は、笑いをこらえて向かい側に座る。


「遅かったですわね。淑女を待たせるなんて、マナー違反ですわ。お父様に報告させていただきます」

そう言うヴェネッサの前と、その向かいの席の前には、紅茶の注がれたカップが置いてある。

ヴェネッサの前にあるものは、もう既に手を付けているらしく、中身が少なくなっていたが、もう一方は手を付けた様子が全くなかった。

それに、時間もそれなりに経っているのか、湯気は立っていなかった。


「好きにすればいい。ミラー公爵は、財務大臣だったか」

「……本当に、変わってしまいましたのね」

ヴェネッサは、俺の問いには答えず、突然そんなことを言い出した。


「何がだ?」

「白々しい。――先日、マルコ第一王子殿下の廃嫡を、迫ってきたのは貴方でしょう?」

「――。何の事だかわからないが」

俺は、驚きが顔に出るのを何とか抑えながら、とぼけているようにふるまう。


クソ兄貴の廃嫡?じゃああの時、クソ兄貴は俺の、第一王子という発言に、反応していたのか?それで、今は王太子ではないから、それにムカついて?


……まさか、久遠が介入してきた?


「人をやるにも、青髪の男と茶髪の女だけを寄越すなんて。――もっと丁重に兄君を扱うべきではありませんの?」

「何で俺がそれをする必要がある?」

青髪の男と茶髪の女?一体、誰のことだ?

久遠の青髪と、茶髪?一応、皇家には両方いるが、まさかな……。それよりも、ただの従者の可能性が高い。

流石のヴェネッサも、皇家の方々が放つ、独特のオーラを感じ取れない程、馬鹿ではないだろう。


「何でって……。マルコ殿下の方が、フィンレー殿下よりも立場は上ですわ!」

「それが言いたいだけ?別に、俺たちには上も下もない。ただの政敵。ただそれだけの関係だが?」

「……」

「ミラー公爵に何を吹き込まれたのかは知らないが、余計なことを口走らない方がいい。――ここでの会話は記録している」

「なんですって!?」

天井裏にいるであろうヌルが、してくれているだろう。今から。


「さて、俺は忙しいんだ。ただ雑談がしたいだけなら、もう終わりにしよう」

「ま、待ってくださいまし。まだ、お茶も飲んでいないじゃありませんか」

「好きなブレンドじゃない」

そう言って、俺はそのまま部屋を出る。あんな女が淹れさせたお茶、誰が飲むか。


「貴方は、何も知らないんですのね」

憐れむような声が、気に入らなかった。


「……無駄話は終いだ」

俺はさっさと部屋から出ようとするが、間髪入れずにヴェネッサが言葉を紡ぐ。


「あら?貴方は今、この国を改革しようとしていませんこと?でも残念。いくらこの国を改革しようが、この国の王になることはありませんわ。なぜなら、マクレーン公爵が王になるのですから!」

「――随分と自信満々だな」

聞いてはいけない。そんなことを理性は訴えかけるが、感情がそれについていかなかった。

ケイが、行きましょう、と声をかけるのも聞かず、俺はヴェネッサの次の言葉を待ってしまった。


「だって貴方、魔法陣のことについて、何も知らないでしょう?」

ヴェネッサの言葉に、俺は強がることしかできなかった。


「知っているが」

「そうかしら?それにしては、あまりにも動き方が無知すぎて……。いらぬ心配だったようね」

「たとえ、今この国の王になったとしても、意味がないだろ?――何も知らないのはお前の方だ」

そう言って、今度こそ、俺は客間から出た。



アインからは、魔法陣なんて言葉、聞いたことがない。

魔法陣?なんだそれ。王になるために、魔法陣がどう必要なんだ?

そもそも、順当にこの国の政治を浄化して、王位を主張しながらこの城を掌握し、他王族を辺境に追いやるという、正当な革命をやる、としか聞いていない。


まさか、裏切られた?


俺は、何とか自室に戻るまでは平然を装う。

それでも、内心はアインへの疑心がたまる一方だ。


落ち着く環境について、真っ先に始めたのは頭の中の整理だ。


一体、俺が今しているのは何か、俺の味方は誰で、俺の敵は誰なのか、何を信じるべきで、何を信じないべきか、これからするべき行動は何か。


少なくとも、アインは味方でヴェネッサは敵だ。信じるなら、ヴェネッサよりもアインだ。

今しているのは、この国の政治を正常に回すための下準備。明日は、財務次官のグロンツフォル卿との対談がある。

財務省をこちらに引き込むチャンスだ。決して失敗できない。


信じるべきは、もちろんアインやケイ、ヌル、要だ。

アインは、目的が一緒だ。ロースタスを統一するという目的だ。

なら、アインが言っていない情報というのは、俺が知るべきではない情報という事ではないか?

理由は分からないが、俺とアインなら、アインの方がずっと頭がいい。きっと、アインなりの理由がある筈だ。


そう考えると、裏切られた、という気持ちが落ち着いてくる。

俺が、目の前のことに集中するための、情報の制限だ。


俺は、晴れやかな気分になると同時に、窓の外から差し込む太陽の光が眩しく、さっと顔をそむけた。

俺は窓の外の景色を見た。


いつの間にか雨はやんでいたらしく、キラキラと地面の水たまりが、空を反射していた。

その水たまりは、綺麗な水色に染まっていた。

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