王になる方法
ところ変わってセオドア。
あともう少しで長期休暇が終わる時期。僕は、ペスケ・ビアンケに足を運んでいた。
「ギルドマスター、進捗は?」
「いい感じに苛立っているそうだ――って、自分でもわかるだろ。それに、いい加減俺をギルドマスター呼びはやめろ。勘違いするだろ」
僕の問いに、紙にペンを走らせながら、ぶっきらぼうに答えるペスケ・ビアンケのギルドマスターことロレンツォ。ぶっきらぼうなのは、きっとギルド員がここにいないからだろう。
彼は、前まではいないことも多かったのだが、今は副業である学園が休暇中なため、仕事が少ないのだとか。
「それはすみません。僕は、今別のところに集中しているから、マクレーン公爵にも、新聞社にも蝙蝠は放っていない。だから、フィンレーたちの動向も噂程度しかわからない」
軽く謝罪を入れ、僕は現状今していることを話す。するとロレンツォは得心がいったらしい。
「――だから、俺たちに依頼したのか」
「それに、現地にいた方が、連絡を取りやすいからね。フィンレーたちには軽く伝えてあるけれど、多分外部組織との協力は想定していないと思う。――だから、接触する時は、気を付けて」
「そういう重要な情報は、先言えよ……」
ロレンツォは、情報を伝え忘れていた僕に非難の目を向ける。
「これでも焦っているんだよ。時間との勝負だからね」
それに、現地の調査員と連絡する手段、あるんでしょ?と僕は付け加える。ロレンツォは、苦い表情をした。
最初のような、柔らかい笑みはどこへ行ったのやら。
「――馬鹿じゃない限り、これはチェスをやっている場合じゃないことくらい、気づく」
「チェスをやっている場合じゃない?」
「そう。――勝利条件が、明確にあるんだよ。つまり、たとえ城を占拠したとしても、勝ちではない、という事」
「――なんでそれを、今まで知らされていないんだろうな、俺ら」
独り言のように、ロレンツォは遠い目をしながらボヤく。
「ごめんね。ロースタス王家の血を引いていれば、恐らく誰でも勝利することが可能だから、知る人が少ない方が都合がよかったんだ」
「そうか。――それで、わざわざ人払いさせたんだな?」
「そう」
ロレンツォは、周囲を見回しながら、そう言う。
ここは、ギルドマスターの書斎。ギルド員から彼はとても慕われているのか。ここに来るギルド員が途切れることはないのだが、今は僕と二人きりで、珍しく静寂の中にいた。
「フィンレーがイーストフールの王子で本当によかった」
「イーストフールに何かあるのか?」
「もちろん。元々、イーストフールの初代国王が、ロースタスを継ぐ筈だったしね」
僕は、ロレンツォの疑問に答える。ロレンツォは、僕の話に興味が出たのか、ペンを置いた。
「――それで、一体何が勝利条件なんだ?イーストフールは、ロースタスは、そこまで特殊な国なのか?」
「特殊だよ。――ねえ、ロースタスには英雄が生まれる。しかし彼らを見つけることができるのは、案内人だけ。――でも、記録では今まで一度も、ロースタス王家に案内人が生まれたことはない」
「はあ、それで?」
間の抜けた声は、彼はあまり英雄に対しての知識がないことを示していた。
だが、気にせず僕は話を続ける。
「ロースタスは、英雄を保護する義務がある。――果たして、ロースタスはどうやって、英雄を今まで見つけてきたのだろうか?」
「英雄の自己申告と、案内人を他から連れてくるとかか?少なくとも、俺は英雄については何もわからない」
僕が前に話したことは、覚えているようだ。ラファエルからの共有もあっただろうが。
「英雄は、自覚がない場合が多いし、案内人は邪神という、厄介なものを招くから、近くに置くのは得策じゃないね」
「今初めて知ったんだが。――そうだな。専用の魔法陣を用意しておく、以外の方法が見当たらない」
「正解。更にその魔法陣は、精霊王との契約にも用いられた魔法陣で、これでロースタスは契約更新をしている。そして契約者は、ロースタス王以外にはなりえない」
「そうなのか。――それって!?」
僕の補足に、ロレンツォは何かに勘づいたようだ。伊達に情報ギルドのギルドマスターをしていない。
「そう。その魔法陣を使えば、ロースタスの王になれる。とは言っても、最後のロースタス王の血を引いている者だけだけどね」
「それ、貴族にも何人かは当てはまるんじゃないか?」
もう、四代くらい前の話だ。王女の降嫁とかで、あてはまる貴族家はいくつもある。
そして恐ろしいことに、セオドア王家も、ロースタス王になる資格があるのだ。
久遠からロースタス王へと望まれていないのは、セオドア王家は、ただの貴族家だったからだ。
「しかも、場所以外は別に秘密にされていなかったから、知っている人物もいる。――今の王家は、知らなそうだけど」
「まさか、ロースタス王になれるかつ、魔法陣の存在を知っている人物が、マクレーン公爵だ、とか言うなよ?」
ロレンツォの勘は鋭い。僕は、溜息を吐きつつロレンツォの予想を肯定する。
「実際その通りだから焦っているんだよ。いつ、探り当てられるか……。とは言っても、長年探し続けているものの、ずっと空振り状態が続いているらしいから、僕はそれを逆手にとって、蝙蝠たちに探させているけれど、なにぶん地理がない」
たまに迷っている蝙蝠がいる。城という建物である以上、複雑なつくりになっているのは仕方ないし、不自然な空間はいくらでもある。
まるで、城に何かを隠したいかのように。
「城の外にありました、というオチはなしであってくれ」
「あるかもね?でも、どちらかというと、王座の間にありました、という方がまだしっくりするかな。――なかったけれど」
「――一つ聞きたい。今やっていることは、茶番か?」
ロレンツォは、真剣な眼差しで僕に問う。
「いや。求心力を失った王家に、力はない。王家から離れてしまった民衆を取り戻すためには、フィンレーの人気が必要不可欠だし、ロースタスの王になったところで、ヴァイドとゼスはそれを認めない。だから、対人専用の策だね」
「英雄を集めるためにも、王家には力を持ってもらう必要があるのか……」
ロレンツォは考え込む。今の王家に、安心できる要素があるかと言えば、皆無だからだ。
実際、ロースタスは一度、失態を犯している。
「他にも、ロースタスを豊かにしたい。今のままだと、もしかしたら食糧不足での飢饉が起こる可能性がある」
「飢饉が?」
「もし、邪神をしとめることができなかったら。そうなる可能性が高い。――僕が心配する必要はないけれどね。その時にはきっと、死んでいるだろうし」
「……」
僕の明るい声とは対照的に、ロレンツォは深刻な表情をして、黙り込む。
僕という戦力がなくなるのは、対邪神戦にとって、かなり不都合だからだろうか?
「冗談だよ。――こういう冗談、ロレンツォは笑わないんだ」
僕は、気まずい空気を何とか誤魔化そうとする。ペスケ・ビアンケの中には、僕の死を希っている者がいる。
てっきり、ロレンツォも内心はその口だと思っていた。
「俺たちは、一度死んでいるからな。――死は、苦しいぞ」
「そう。――関係ないよ」
いくら自分が苦しかろうが、それが僕の背負うべき罰だとするなら、僕は喜んでそれを背負うべきだろう。
ロレンツォはこれ以上、口を開くことはなかった。
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