新聞社への襲撃
Side Kaname
少し前。
俺は、新聞社にいた。次々に会社に戻ってくる記者たち。
皆まず、全く知らない人物がいることに驚き、そしてダニエルが俺のことについて説明する。
「この方、どなただと思います?ほらほら、ミーニャ君!」
「えっと、新しい社員ですか?」
「不正解だ!じゃあリスタン君、君は?」
「うーん、なんかどこかで見たことがあるような……」
「タイムオーバーだ!答えは、イアン・ネルソンさん。あのA級冒険者だ!」
「「「「「うおおおおお!!」」」」」
俺の名前を知るや否や、野太い歓声が響き渡る。
「イアン・ネルソンだ。一時的に、ここの護衛を務めさせてもらう。よろしく」
俺はそう言って、頭を下げた。
そんな俺に向けられる、社員たちのキラキラとした目。
次の瞬間には、俺は記者たちに囲まれていた。
「じゃあまず、奥さんについて、お話してください!」
「あまり話したくないんですよ。美人なんで」
スーのことは、あまり話したくない。昔、俺に変な虫が湧いたことがある。
その女冒険者は、俺に命を救ってもらったことがあるらしい。
それで俺のことが好きになったが、当然俺の妻であるスーが邪魔になる。
だから、スーが一人でいるときにその女冒険者はスーを殺そうとしたことがあった。
ちゃんと返り討ちにした上、警邏にも引き渡して真っ当な処罰をしてもらったが、俺はその時から、スーのことを人に話すことが嫌になっていた。
「お熱いですね~!」
「なら、少しだけでもいいですか!?出会いだけでも!」
「――偶々、街に出かけた時に妻を見ました。その時、俺は一目惚れしたんです。それは、妻も同じだったようで、何度も会っているうちに恋人になり、そのまま結婚をしました」
俺は、少し照れ臭かった。
ほぼ本当のことだ。ただ、俺たちは恋人関係になったことはない。
家に俺たちの関係――と言っても、ただ隠れて会っていただけだが、それがばれ、駆け落ちをした。その時、すぐに結婚もした。
だから、一応恋人期間はなかった。
「とてもロマンチックですね!ネルソンさんは、私生活が謎に包まれていますので!」
「はは、別に特別でもないですよ。普通の夫婦生活です」
確かに、俺とスーがいつまで経っても若々しいままなのを誤魔化すためや、特に俺の素性、スーを隠すために謎にしている所はあるが。
「何故、冒険者になろうと思ったんですか?」
「正直に言いますと、結婚と同時に引っ越したので、何かと物入りだったんですよ。だから、手っ取り早く稼ぐために冒険者になったんです。――元々、腕っぷしには自信があるので」
俺がそう言うと、記者たちは感心したような声を上げる。
いくつか、こういう質問の応酬を繰り返していると、あたりはすっかり暗くなってきた。
「今日は、泊まり込みだ!」
「またですか……」
「家に帰らせてください……」
「いやああぁぁ」
「恋人に前振られたのおぉぉ」
「阿鼻叫喚だな」
正直、作戦のうちなのだが、とても可哀想に思ってしまった。
だが、この数を無事に家に帰すのは不可能なため、そして耳目は多い方がいい、という考えの下、今日は残ってもらったのだ。
彼らによる襲撃が起こるまで。
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最初は、少しの違和感だった。
「ん?地震か?」
ダニエルが、顔を上げる。
俺は使い慣れた剣を、鞘から抜く。この時、俺が亜空間収納魔法を使えればよかったが、あんな難しい魔法、使えない。
俺は闇属性に適性があるし、練習すれば、もしかしたら使えるかもしれないが。
建物が、揺れている。その理由は、下に大量の気配がしているのが全ての答えだった。
「襲撃だ。今この建物にいる社員は、これで全員か?」
「いや、キリノがいない」
「キリノなら、さっき資料室に行くって……!」
女性社員が、泣きそうになりながらそう言った。
資料室は、階段から最も近い。早く行かないと、キリノが襲撃者と出会ってしまう……!
「――奔雷」
俺は小さく呟き、魔力を剣に込める。
風属性魔法を使えない俺が、唯一風属性魔法を使える方法だ。
俺の体からは、雷が迸る。力を勢いよく踏み込むと、ミシリ、という嫌な音がしたが、無視した。
社員たちがつばを飲み込む音が聞こえた気がした。
俺は、キリノがいると言われた資料室へと急いだ。
「キャー!!」
女性の悲鳴がする。それと同時に、男の怒号がする。
資料室に付き、中を覗くと顔を隠した男たちに腕を掴まれている、女性がいた。
「おい、その女性を放せ」
「あ"あ"?」
男は、俺を威圧する。しかし、そんなのはドラゴンの殺気よりも生ぬるい。
「こいつらに使うのももったいないか……」
そう言って、俺は奔雷の効果を残したまま、中に踏み込む。
そして、目にもとまらぬ速さで斬りつける。
「ああ、殺しちゃいけないな。――拘束しないと」
途中で力を抜いてよかった。これ以上力を入れていたら、傷が深くなって、死なせてしまう。
彼らは、痛みに呻いて倒れている。俺は、血操術で男たちを拘束し、座り込んで動かないキリノに目を向けた。
「大丈夫か?」
「は、はい」
「なら、すぐにこっちへ。みんな待ってる」
俺は、そう言ってキリノを他の社員が集まるオフィスへと連れて行った。
「キリノ!」
「編集長!」
「大丈夫だったのね!」
「よかったです、先輩!」
「他にもいる。全員殲滅するから、俺がいいというまで、ここから動かないでくれ」
そう言って、俺は彼らの返事も聞かず、ここの建物を走って回った。
社員たちは、そんな俺をポカーンとみていることしかできなかった。
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「これで、全部か」
あれから数十分。襲撃者たちを拘束し、一か所に集めていた。
「ダニエル、外から鍵がかかる部屋はないのか?」
「一応、ある。でもそこで何をするんだ?」
「こいつらを押し込んどく。――おい、痛いことされたくないならすべて吐け」
俺は、この中で隊長らしき男を足蹴する。
「い、言うものか!」
「馬鹿か?――こうやってバチっとしたら、皆素直にしゃべってくれる。――一回試してみるか?」
そう言って、俺は剣を振るう。それで、すっかり心が折れてしまったらしく、すぐにペラペラしゃべってくれた。
いくら何でも軟弱すぎるだろ。
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