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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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理想と現実の乖離

Side Finlay


「お、おい、落ち着け、ケイ!」

「落ち着いていられますか!殿下が、殺されかけているのですよ……?」

確かに正論だ。だがケイ、今暗殺者は俺から距離を取った。もう大丈夫だ。


「今、交渉中だ!そしてお前!」

「は、はい!」

俺は、次に暗殺者に目を向ける。暗殺者は、背筋をピンとして、元気よく返事をした。


「俺は今、ミスリル硬貨二枚分の金を持っている。この国の国庫の二倍以上の金だ!いいか、俺のバックには、こんな大金をポンと出してくれる人物がいる!確実に俺についた方が得策だ!」

アインは、この国を改革するための初期費用として、金貨二百万枚を持たせてくれていた。

流石にそれを持ち歩くのは大変だったため、闇属性上級魔法、亜空間収納の効果をもたせた巾着袋を持っていた。


これは、あの九星の“世界最高の鍛冶師”の作った代物らしい。

流石のアインも、亜空間収納の効果がある魔法陣を描くことはできたものの、それをものに刻むことができなかったらしい。

単純に、あまりにも繊細過ぎて、小さな袋に描くには、魔法陣が潰れて作動できないという。



「それは……確かに」

「だろ!?それに、“鮮血の死神”とも知り合いだ!」

俺は、アインから言われていたアドバイスを思い出していた。

それは、暗殺者にあったら、“鮮血の死神”の名前を出せ、とのこと。


一体どれくらいの効果があるのか、と思っていたが、物凄く絶大だった。


「フィンレー様、わたくしめは御身に大変なことをしでかしてしまいました。誠に申し訳ございません。そしてぜひ、このわたくしを、貴方の従者にしていただくことは可能でしょうか……!」

それも、想像以上に。


暗殺者は、すぐに俺に跪いた。そして、キラキラとした目を、俺に向ける。


「あ、ああ、いいぞ」

俺は少し押され気味になりながらも、了承した。


「ああ、ありがたき幸せ……!」

「突然どうした?」

感無量、という感じの暗殺者に、俺は戸惑いを隠せなかった。それは、ケイも同じだった。

黙ってはいるが、俺と同じようにひどく動揺しているのを感じる。


「“鮮血の死神”ですよ、“鮮血の死神”!あの、ただ一回も暗殺指令に失敗したことがないという、伝説の最強暗殺者!暗殺者を名乗るなら、誰もが憧れる存在ですよ!さらに、その素性が一切明かされていない、というのがまた素晴らしい……!」

「そ、そんな人物が……」

「ん?」

ケイは、暗殺者が興奮しながら語る内容に、かなり驚いていたが、俺は首をかしげていた。


「確かに、ほとんど暗殺指令を失敗したことがないらしいが、一度だけ、失敗したことがあると言ってたぞ?」

それが、今の主である、マティアス王子との出会いだったとか。

正体が久遠の魔王子というのだから、驚きだ。一体、何をしているんだか。


「そんな筈はありません!デタラメを言わないでください!」

「いや、本人が言っていた事実だ。それがもとで、今の主に出会った、と」

「そんな筈は……!“鮮血の死神”は、不敗の伝説が……!」

なんだか、夢を壊したらしい。そんな完璧超人、そうそういないのに。


「確かに、暗殺指令を失敗する前に、オケディア革命が成功して、その瞬間に指令が取り消しになった、という見方をすれば、確かに未だに失敗はゼロなんだろうが、本人が、失敗した、と言っているんだから、不敗伝説は破られているだろ」

「そんな……」

「それと、別件でも失敗したらしいし。だが、関係ない人まで巻き込んで、何とか殺したらしい。それも、一応世間から見ると、任務達成に映るんだろうな」

アインの体には、無数の傷跡がある。確実にいくつかは虐待の傷跡だった。案外、夢は人の勝手な想像で、ほとんどが成り立っているのかもしれない。


“鮮血の死神”は、決して暗殺指令を失敗したことがない、完璧超人。

実際は、数々のトラウマを植え付けられた、ただの死にたがり。


本人が聞いたら、苦い顔をしそうだな。


「ま、いつか会わせてやる。――今は、やめておくか。俺はしばらくここに滞在するし、それにあいつは結構繊細だからな」

多分、研究者として尊敬されているのなら、ここまで悩む必要はないのかもしれない。

要は、アインは元々とても優しい性格の持ち主だった、と言っていた。暗殺なんか、したくなかったかもしれない。

俺が思った以上に。


「分かりました!絶対ですよ!」

暗殺者は、目をキラキラさせている。なんだかそれが、無邪気な子供がありを潰して遊ぶような光景を思い起こす。


俺は小さく溜息を吐いた。


「お前らはまず、色々と聞きたいことがある。俺の質問に答えてもらおうか」

「俺も、ですか?」

「当然だ。何故、今ルルディの護衛を務めている筈のお前が、ここにいるのか、とかな」

「……実は、殿下がセオドアに留学なさった後、ルルディ殿下の護衛から外されたのです」

「へえ?」

「そもそも、俺には不向きなんですよ。それと、まさか殿下がここを追い出されるとは、思ってもいなくて」

「荒れたか?」

「分かっているでしょう?」

ケイは、獰猛(どうもう)に笑った。


確かにこの男は、昔ここに左遷されたのは、上司に歯向かったから、という理由もあった。

一部では、狂犬と呼ばれていたくらい、気性が荒い。


「俺がじゃあ次にお前。名前は?」

「ヌルです」

「じゃあヌル。お前の依頼人は?」

「それは――」

暗殺者ことヌルが、俺の質問に答えようとしたその時だった。窓を閉めているのに、風がこの部屋に吹いてきた。

驚いて窓の方を見ると、そこには鮮やかな赤髪の吸血鬼がいた。


「大丈夫か?フィンレー」

「誰だ!」

「え、俺、気づかなかったんだけど」

ケイは声を張り上げ、ヌルは吸血鬼――要の気配を感じ取れなかったことに、かなりへこんでいた。


「まあ待て待て。ちょっと遅かったか」

「か……イアン、もうとっくに俺が殺されても仕方なかったぞ」

「蝙蝠を仕掛けようとしたんだが、蝙蝠が迷子になってな、辿り着くことができなかったんだ」

「蝙蝠が迷子……?」

「俺、蝙蝠を操るの苦手なんだよな。蝙蝠と視覚共有すると、酔うし」

そう言って、要は指先から蝙蝠を作る。


「ないよりかはましだろ」

そう言って、蝙蝠はこの部屋を飛んだ。


「それは、下手なんじゃないのか?」

「は?おれ、これでもかなり吸血鬼の力を使い慣れているんだが?――アインと比べてないか?あれは頭おかしいくらいに使いこなしているだけだからな?」

アインと比べるな、と言いたげな要。正直、吸血鬼に夢を見すぎてしまったようだ。


「殿下、この方はどなたですか?」

ケイの鋭い言葉に、俺はようやく、要の紹介をした。

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