専属護衛
Side Finlay
ヴェネッサに、マクレーン家のことを話してよかったのか。
普通は、よくないだろう。
ヴェネッサは、マクレーンの長男と繋がっている。だから、そこ経由で色々と伝わるだろう。
そうして、俺は暗殺者の手にかかって死に、無事自分たちの平穏は保たれる……。
それが、ヴェネッサの考えだ。
そもそも、今までだって暗殺者が来ていたし、それなのにかすり傷一つせずに生き延びている。
何らかの対策があるとは、一切思わないのだろうか?
おめおめと逃げ帰ったヴェネッサを思い出しながら、ソファに座りながら、傍らに視線を送る。
「卿は――ってそうか、ルルディにとられたんだよな……」
そもそも、留学する数年前の出来事だ。なのに、ここにいると、つい卿を呼んでしまう。
俺は、この国から離れる時に言われたことを思い出していた。
卿とは、俺をずっと守ってくれていた、騎士のことだ。
彼は、実力者ではあるものの、平民である、という理由でここに飛ばされた。
俺は左遷先だ。はは、笑える。
だから、最初はとんでもなく俺に失礼だったし、子供だったこともあり、俺は卿が怖くて嫌いだった。
だが、俺が暗殺者につけ狙われるようになってから、卿の態度が変わった。
まず俺を主として認めてくれた。
そして、俺が何かをできる度、褒めてくれた。
俺は段々卿に懐いていった。
元々、卿は自分の不遇な境遇に嘆いて無表情でいることが多かった。
だが、俺と一緒にいるうちに笑顔を浮かべるようになった卿に、ルルディ――俺の妹であり、この国の唯一の王女が見初めてしまった。
俺は、そこまで権力がある訳でもなかったから、とても簡単にルルディに卿を取られてしまった。
俺は、卿がルルディに膝を折っているのを見て、全てがどうでもよくなった。
たまにすれ違っても、もう卿とは目も合わない。
だから、俺の護衛はいない。
あれから、専属護衛というものを、作ることをやめていた。
どうせ、誰もなりたがらないし、ちょうどよかった。
だから、マティアス王子が専属護衛と仲良くしているのを見て、胸に苦しいものがこみあげていた。
「まあ、要がいるしもう護衛なんかいらないか」
強がりの言葉だ。だが、何よりも正しい。
どうせ、誰が来ても要がいれば、簡単に追い出してくれる。
要は吸血鬼だ。アインができることは、要にだって大体できる。
そう思っていた。
俺は、吸血鬼がなぜ戦いに向かないのか。
アインが、どれほど血のにじむ努力をしていたのか。
それを、何も知らなかった。俺は、武術に関して、何も知らなかった。
だから、寝室にまで暗殺者が忍び込んでいた。
寝ていた時に侵入されたため、ベッドに縫い付けられていた。
「おい、それを置け。今貴様が何をしようとしているのか、分かっているのか!?」
「――どうやら、お前が生きていると都合が悪い人間がいるらしくてな。だから、死んでくれよ」
そう言って、暗殺者は俺に刃を向けた。俺はそれに身を凍らせた。
「俺を殺しても、何の意味もないぞ……。この国は、久遠によって攻め滅ぼされる。きっと、お前も、そしてその依頼主も、きっと久遠によって殺される」
俺は暗殺者を説得しようとする。
しかし、暗殺者はそんなことは関係ない、とばかりに笑う。
「そうなる前に逃げればいいだろ」
「逃げ切れればいいがな」
俺は、精一杯強がった。魔法も使えない、戦闘能力もない俺は、この状況を打破することはできない。
もっとまじめに剣術でも習えばよかった、と思うが、そもそも戦闘に関しての才能の欠片もない俺が、この暗殺者を前にしても、何とかなっただろうか……。
それでも、俺は生きなければならない。どんなに絶望的な状況でも、俺は生き延びなければならない。イーストフールのため、ロースタスのため。
必ず、生きなければならない。
「俺は死ぬ訳にはいかないんだよ!」
「だが、俺は死んでくれた方が嬉しいな。お前を殺せば、法外な報酬を貰える。だから――」
「待て」
俺は暗殺者の一言に、気にかかる。
「なんだ?命乞いしたくなった――」
「法外の報酬ってなんだ」
「は?」
ニヤついたままの暗殺者の言葉を遮り、俺は気になったことを口にする。
暗殺者がそんなこと、知っている訳がないのに。
案の定、暗殺者は呆気に取られていた。
「この国には、法外の報酬を払えるくらいの金なんか、ない筈だ。だって、収入と支出が全く釣り合ってない。それに、大臣たちが横領して、そもそも帳簿すらあっていないというのに……」
「ま、待て。まさか俺は――」
「お前、法外の報酬と言われたが、どれくらい払うと言われたんだ?」
「は?そんなん金貨百枚に決まってるだろ」
「……はあ」
「お、おい!なんだよ!」
暗殺者は、俺の溜息に動揺する。
「お前、何も思わなかったのか?王族の暗殺に、たかが金貨百枚?ミスリル硬貨一枚ですら、足りないのに。今、自分が何をしているのか、本当に理解しているのか?そして、そんなことをしておいて、簡単に逃げれるとでも?」
「ぐ……」
「そして、国庫にはミスリル硬貨一枚分すらない。それでも金貨九十万枚はあるが」
暗殺者の表情が、くるくると変わる。先ほどまで、ずっと挑発的に笑っていただけなのに。
「……」
「この国、今はこんなだが、かなり重要な国だからな。そして、俺は他国から王に望まれている。あの馬鹿が、そんなことを考えれるとは思えないが」
「じゃ、じゃあ俺は……」
「無能と無知が合わさると、とんでもなく非常識な状況が生まれるな」
俺は、すっかり呆れかえってしまっていた。
暗殺者も、すっかり俺への殺意が萎えてしまっているようだ。
その時だった。
「殿下、大丈夫ですか!?――貴様!!」
激しい足音の後、扉からしてはいけない音を立てながら、俺の寝室に入ってきた男がいる。
「――卿」
そこには、過去に俺の専属護衛を務め、今はルルディの護衛を務めている、卿――ケイがいた。
ルルディの護衛になった後、一番最初に言われたのが、ケイを名前で呼ぶな、ということだった。
だから、俺はせめてもの抵抗として、同じ音の敬称で呼んでいた。
「叩っ斬ってやる!」
ケイが、鬼気迫る様子で、剣を構えていた。俺たちは顔を見合わせ、今の状況を思い出した。
ナイフを持った暗殺者と、その暗殺者に拘束されている俺。
ケイから見れば、確実に俺は殺されかけていると思うだろう。
暗殺者は慌てて俺から離れ、そして俺は怒りで興奮しているケイを何とかなだめた。
そう言えば、忘れてました!一応、この世界の硬貨についてです!
銅貨一枚=百円
銀貨一枚=一万円
金貨一枚=百万円
ミスリル硬貨一枚=一兆円
銅貨一枚=小銅貨十枚
小銀貨一枚=銅貨十枚
銀貨一枚=小銀貨十枚
小金貨一枚=銀貨十枚
金貨一枚=小金貨十枚
ミスリル硬貨一枚=金貨百万枚
ミスリル硬貨は、ほとんど使われることはない。
だから、ミスリル硬貨ではなく、金貨百万枚の方がよく使われる。
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