お前と円満に別れるんじゃない、俺がお前を捨てるんだ
Side Finlay
翌々日。俺の婚約者であるヴェネッサは、傲岸不遜な態度で、俺の真正面に座っていた。
王子の呼び出しを、丸一日無視とは、かなり腹が据わっているな。それとも、ただの愚か者か。
そもそも、俺の許可なしに座ったところを見て、答えは透けて見えるが。
「一体、何の話です?これからわたくし、用がありますの」
開口一番これである。王子の呼び出しに応じなかったどころか、謝罪の一つもない。
「――よっぽど、死にたいようだな」
俺は、声に苛立ちをにじませながら、低く呟く。
それにどこか違和感を感じながらも、決してヴェネッサは態度を変えようとはしない。
「なあ、この話を知ってるか?マクレーン家の醜聞。実は、この国に侵入する不届き物は、全てマクレーン公爵が招き入れていた、らしい」
「フィンレー様はよっぽど民草の噂話がお好きなのですね」
興味なさそうだな。俺が話しているのに、ずっと髪をいじっている。
「そう言えば、ミラー家も同じ公爵だったな」
「何が言いたいんです?」
俺の、適当すぎる話題のつなげ方に、ヴェネッサはいらいらしていた。
「お前は今から、不貞を理由に俺から婚約破棄をされるが、マクレーン公爵家と同じく家が取り潰しにならなければいいな」
「あら、そんな話でしたの。でしたら、慰謝料をくださいまし。わたくしとても傷つきましたわ」
そう言って、泣きまねをする。演技が下手すぎて、全く涙が出ていない。
これを見ると、いかにサティが純粋だったかわかる。
ジェシカ嬢が、いかに淑女然とした立派な人だったかが分かる。
エヴァーゼ先輩が、いかに優しかったかわかる。
ロゼッタが、いかに凛々しかったかわかる。
セオドアには、いい女性がたくさんいるな。ロースタスにはそんなのいないのに。
「大丈夫だ。きちんとヴェネッサ・フォン・ミラーはビッチだという事を、社交界に広めておくから。――ああ、必要ないか。もう既にその噂は広まっているだろうしな」
俺は笑いながら言う。もしかしたら、いつかきっと婚約破棄される、とか思われていたんじゃなかろうか。
いくらやる気のなかった、留学前の俺だって、いずれは必ず婚約破棄をしよう、と思っていたくらいだ。慰謝料を祓うことすら考えになかった。
「脅しですの!?」
「まさか。ただの事実の羅列を、そんな治安悪く言わないでくれるか?」
激高するヴェネッサがおかしくて仕方ない。こうなることを予想できなかったのか。――いや、できなかったんだろうな。昔から馬鹿な女だった。
「貴方は、私に惚れている筈……こんなのは嘘よ。騙されているんだわ!」
「ブフォ」
俺は、吹きだしてしまった。高貴な王子らしからぬ声がしたが、まあ許してほしい。
「俺、お前のようなビッチには興味ないんだよ。一夜を共にするのにはいいかもな。人生を共にする気もないし、お前のような人間が、一国の王妃?務まる訳がないだろ?」
「なっ……!この国一番の美姫と呼ばれる私を前にして……!」
ヴェネッサは、怒りでわなわな震える。俺は、それがあまりにも憐れで笑いをこらえきれない。
確かに、この国では、ヴェネッサが一番の美人だ。だが、思わず夢中になるほどの美貌を持っている訳ではない。
サティやエヴァーゼ先輩の方が可愛い顔立ちをしているし、ジェシカやロゼッタの方が美しい顔立ちをしている。
それに、美貌の面で言うなら、アインが圧倒的だ。あれでかなり醜くしているらしいのだ。
アインとの取り決めで、絶対に素顔は見ない、と決めた。俺は、どこまでいってもロースタスの王族だから、アインに夢中になる可能性が高い。
そうなると、100年前の焼き増しにしかならない。俺は、かなりの面食いである自覚があるため、そんなリスクは冒さない。
「まあ、確かに黙ってれば美人だな」
「なら――」
「あいにく、お前よりも性格が良くて、お前よりも美人な人間はいくらでもいるんだよ。それにお前は、男に負けているんだよ、そのご自慢の美貌でな」
「――!!」
どうやら、男に負けたのがショックなのだろう。そもそも、お前が俺を一目で骨抜きにできていない時点で、久遠の美姫には圧倒的に劣るというのに。何にそんなに自信を持っていられたのか。
「お、お父様に言いつけますわよ!」
「それが?たかが公爵が、王子の俺に反抗できるとでも?だとしたら、不敬罪だな!最大は晒し首なんだが、一体お前の父はどんな処罰が好みなんだ?」
俺は、この国の王になるつもりでいる。だからこそ、邪魔者は切り捨てる。
本当は自分でしなければならないところを、かなり支援して貰っているんだ。できる限り自分でしなければ。
「とにかく、お前の態度そのものが気に入らない。その上、不貞を働いているだと……?誰の子を孕むかもわからん腹で、王妃どころか王子妃になれると本気で思っているのか?恥を知れ」
俺の言葉に、ヴェネッサは何も言い返せない。ただ、顔を真っ赤にして下を向いている。
「王族に対しての礼節も何も知らんお前が、公務と評して他国と関わっていくのが怖くて仕方ない。この国を亡ぼす前に、さっさと自分から辞退してほしいくらいだ」
マティアス王子は、そこらへんは緩そうに見えて厳しめだからな。セオドアとは、確実に対立する。
きっと平民上がりののステラ国王にだって、無礼を働くに違いない。あれはあれでかなり聡明な王だと、もっぱらの評判だ。
そして、美形が揃う久遠の王族にも、誰彼構わす粉をかける可能性すらある。
そしてクリスタルパラスは――こいつは芸術に対した関心がないから、そこを馬鹿にするだろう。技術大国であった時の名残は、クリスタルパラス国内のいたるところに存在しているという事も知らずに。
ロースタスは、いつ久遠の属国に成り下がってもおかしくない。だからこそ、俺が役に立つところを、さっさと見せつけなければならない。そのために、ミラー公爵家とマクレーン公爵家には早々に退場してもらう必要がある。
「国王陛下……そう、国王陛下の許可がなければ、わたくしたちの婚約は、解消することは出来ませんわ!」
「安心しろ。きちんと全くの憂いなく、婚約は破棄されるからな」
解消?冗談じゃない。お前と円満に別れるんじゃない。俺がお前を捨てるんだ。
そう言って、俺はいつぞやの金髪碧眼の王太子のように、不敵に笑って見せた。
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