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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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環境改善

Side Finlay


ああ、久しいな、ここは。


俺は、久しぶりに帰る我が家を見て、そう思った。しかし、どこも懐かしくも感じない。

ここに思い入れはない。だからこそ、五ヶ月ぶりに帰ってきても、なんとも思わないのだ。


家族を家族とは見ていない。そういうこともあるかもしれない。


「久しいな、執事長」

「……」

無視、か。


本来、王族に対し、たかが貴族子息でしかない者が、そんな態度を取ったらどうなるか。――適当な罪をでっちあげてからの死刑が、妥当なんだろうな。


「その澄ました表情が、いつ壊れるのか見ものだな」

俺はそう言い捨て、昔住んでいた離宮へと向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ついてこようとするメイドを押しのけ、俺は一人、離宮に入る。そこは埃っぽく、長い間掃除されていないようだった。


「おい、お前」

離宮の前でたむろしているメイドに、俺は声をかける。メイドたちはビクッと肩を震わせたが、頬を染めてこちらに振り返る。


昔は、寂しさを埋めるため、よくメイドたちと寝ていた。

学園では、夜の外出も規制されており、自室に女を連れ込もうとも思わなかったため、自然と火遊びは収まったが。


こいつらは、昔のように、俺のお手付きになることを望んでいるのだろう。


小さく溜息を吐き、俺はメイドたちに鋭い視線を向ける。


「さっさと離宮を掃除しろ。――今までサボっていた分、しっかり、隅々までやるんだ」

情けはかけない。甘やかした結果、今がある。

まさか、いくら冷遇されているとしても、ここまで使用人が(おご)り高ぶるとはな。


身の程を弁えられないやつは、即座に首を切った方がいいが、それは今じゃない。

アインや、マティアス王子を見て、自分が置かれた環境が、いかに劣悪だったかを感じた。


それを甘んじていた自分が、情けなくもなったが、それももう終わりだ。


俺は、アインや要から教えて貰った通りに、王族らしく振舞う。

要が言うに、アインはかなり苦労していたらしい。元々、かなり優しくて気が弱い性格らしい。気が弱い部分はなくなりつつあるが、優しさだけはなくなっていないと、要は言っていた。ラファエルと共に、どこが優しい?と思うが、きっと要にしかわからないものがあるのだろう。



そんなことをして早数時間。ようやく、クソ兄貴のご登場だ。


「おい!なにを勝手にしている!」

前に会った時よりも、さらに体積が増えたその体は、とても動きづらそうだ。体臭もきつい。


大昔は、そっくりだとか言われていたが、今や見る影もない。あるとするならば、髪の色だけだろうか。


「それはこちらのセリフですよ、第一王子。肥え太った今度は、盗人ですか?第一王子ともあろうお方が、大変ですね」

嫌味たっぷりで、クソ兄貴を迎え撃つ。元々勉強嫌いな男だ、いったいいくつ言葉の棘を見つけれるだろうか。


「生意気な!父上に嫌われている分際で!」

「無能な人物は、有能な人物を嫌うのでね。――それはともかく、常に忙しそうな第一王子が、こちらに何の御用で?」

俺は、王族は一切仕事していないことを知っている。忙しそうにしているのは、唯一真面目な外務大臣くらいなものだ。文部大臣や魔法大臣は、腐ってはいないが良くも悪くも研究者。(まつりごと)に興味関心がない。


そのことは、きちんと自覚があるようで、クソ兄貴はさっと顔を赤くした。


「お前――!」

激高して、クソ兄貴は俺に殴りかかる。しかし、俺はそれを難なく躱した。単純に、遅かったから躱せただけだ。

だが、クソ兄貴は躱されるとは思わなかったらしく、無様に転ぶ。


「――くッ」

俺は、何とか笑い声を堪える。なんか、漏れたような気がするが、気のせいだ。


「クソっ!きょ、今日はこれくらいにしておいてやる!覚えていろよ!!」

「ははっ!」

俺は、ついに決壊してしまった。

あまりに無様なクソ兄貴が、おかしくて仕方ない。

それは同じだったらしく、一部始終を見届けていたのだろうメイドたちが、肩を震わせてそっぽを向いていた。


それにしても、最後まで気づかなかったな。俺があえて、第一王子としか呼んでいないことに。

あいつ、自分が王太子だ、という事を誇りに思っていた筈なのにな。まさか、他のやつに王太子の座を奪われたのか?


それはそれで無様だな、と思った。


「あ、あの、掃除終わりました」

「そうか」

俺は、すぐに真顔に戻り、淡々とメイドたちの報告を受けた。


メイドたちは、ちらちらと俺を上目遣いで見上げる。

しかし、正直アインの方が可愛い。ぎりぎりアインの方が背が高いため、めったに見られない上目遣い。座高はアインの方が低いから、座ったら自然とそうなる。同じ男なのに、それが妙に可愛い。


昔は、一も二もなくメイドの方が可愛いと思っていたのだが、彼は顔がかなり整っている。そんなアインは、たまに恋する乙女のような表情をする。その所為で、並の顔では、可愛いとは思わなくなった。


「あ、あの、それで――」

「さて、ヴェネッサ・フォン・ミラーを呼べ。話したいことがある、と」

俺は、メイドの言葉を遮り、婚約者を呼びつけるように言う。


婚約解消についての申し出だ。どこの国でも、貴族令嬢の純潔は大事にされる。それを、婚約者がいながら別の男に捧げるというのは、立派な婚約破棄案件になる。

それを言うなら、俺も似たようなことを繰り返していたが、男は甲斐性で終わる。終わらないと、多くの貴族は、自分が言ったことすべてが自分に返ってくることとなる。


それに、それ以外にも色々とやらかしている。様々なゴシップと同じように新聞に載ったため、俺は悲劇の王子とまで言われた。



メイドは、落胆した表情をしながらも、いそいそとその場から去っていった。

まさかこれが終われば、とでも思っているのだろうか?それは、一生訪れることはないというのに。

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