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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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監視

Side Raphael


「――という訳なんだ」

俺は、すぐにアインに性転換薬の件を話した。基本、部屋に引き籠ってネットの中で生きてた奴らばかりだ。すぐに美女とこういう話題に食いつく。


「いいけれど……。何に使うの?あれ、かなり使えない割には、結構できてしまって困ってたんだけど」

まさか、自分の体を見て興奮するためです、とは言えない。一応、前世の世界について教えてあるものの、かなりアインの価値観からずれている。

それに、そういう方面にはてんで知識がなさそうなアインの耳に、入れたくない話なのだ。


「悪いな。うちはこういう奴が多いから。――まあとにかく、そういうことだ」

「不用品を受け取ってくれるなら、嬉しいよ。あと、他の薬もいるなら渡す」

「他の薬?」

俺は、アインの言葉をオウム返しした。気になる。


「うん。他の薬。流石にここで話す訳にもいかないから、僕の寮室に来てほしい。ラファエルは確か、闇属性魔法は使えなかったよね?」

「ああ。そうだな」

俺はアインの言葉に頷いた。


亜空間収納という、ゲームのインベントリ的な魔法は、闇属性魔法に分類される。

それもかなりの高度な魔法のため、正直アイン以外が使っている場面を見たことがない。


闇属性への適正持ち自体、少ないというのもあるんだろうが。


「一応、試してもらいたい。そのうえで、持っていくかどうかは決めて」

「分かった」

緊張する。一度、アインは試したことがあるらしいし、得体のしれないもの、という訳ではないのだが。


一瞬、背筋がぞくっとした感覚を覚えた。驚いて振り返るが、そこには誰もいない。


「どうしたの?」

アインが、不思議そうにしている。


「ああ、いや、気のせいだ」

「そう?」

俺の言葉に、アインは納得したようだった。そんなアインに俺は、なんとなく嫌な予感を覚え、聞いてみることにした。


「ちなみにアイン、部屋に招いたのは、俺が初めて、か?」

「そうだね。ラファエルにはいいかな、と思って。流石に人間を部屋に招き入れることはしないよ」

恐らく、他意はない。本気でない。

言葉の意味だって、きっと俺が彼岸だからだろう。つまりは、多少の毒薬でも、大したことにはならない、という事だ。


人間を入れると、毒薬をひっかけた時に大変なことになるから。そしてアインは、口振りからして、劇薬は、そこらへんにほっぽってると見た。


劇薬と毒薬の違いは、毒性の違いだ。

人間ならどちらも毒となるが、彼岸はそうでもない。何なら、毒薬でも毒にならないことだってある。



「それ、外では絶対に言うなよ」

「何で?」

「俺が殺される」

「そんな訳ないでしょ。ほら、さっさと行くよ。日が暮れる」

アインは俺の言葉をフルシカトして、廊下をさっさと歩く。俺はそれに続いた。


「一体どれぐらい試させる気なんだ、お前は」

「できる限り。僕には異能力があるから、大丈夫だよ」

「一切安心できないな、それ」

「そう?――着いた」

アインのその言葉が、まるで死刑宣告のように感じた。



――ああ、来てしまった。



目の前が、まるでラスボスの間への扉にしか感じない。いや、部分的にそうだけれども。

ならなんでこっちにラスボス(アイン)がいるんだよ。ああ、思考が混乱している。


「じゃ、入って。机の上のものは、触らない方がいいよ」

俺は、そんなことを言うアインの後ろに続いた。


そして、扉は閉じられた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Unidentified


「あ、ラファエル、それはかなり粘性が強いから、触らない方がいいよ」

「そうか。――毒性は?」

「ないよ。――結構ごちゃごちゃしているけど、気にしないで。それで、薬のことなんだけど」

そこまで言って、アインは言葉を切った。

亜空間収納から、プラスチック容器のようなものを取り出した。その中には、無色透明の、サラサラとした液体があった。


この世界には、プラスチックはない。ただ、スライムの粘液と樹脂を混ぜ合わせたものを成型した、プラスチックっぽいものがある。

錬金術師が、スライムと樹脂の混合液の性質を変換し、透明で軽くて丈夫なものにしたものだ。

前に、アインが教えてくれた。


「これが……?もっと、毒々しい色をしているのかと思った」

「無色透明で、無味無臭。更に、少しだけで効果が表れる。よく紅茶に入れられて、その度に服をだめにしたんだ。――軽くトラウマだよ」

「それは――ご愁傷様」

アインは、疲れたように溜息を吐く。よっぽどいたずらされたらしい。

アインが女になった姿はきっととても可愛い。だから、仕方ないのだろう。


「だから、僕には絶対に飲ませないで」

「分かった。よく言い聞かせる」

アインはその言葉に、ほっとしていた。


「じゃあこれ飲んで」

「いいだろ、俺は」

「まあほとんど効果ないから」

そう言って、アインはガラスのコップに水を注ぐ。そして容器の中から透明な薬を掬い取り、その中に入れた。


「――確かに、効果はないな」

「でしょう?じゃあ次はこれ」

今度は、クリーム色の薬だ。結構サラサラしている。


「人の頭がじゃがいもに見える薬。飲んでみて」

「――確かに、じゃがいもだわ。鏡、どこにある?」

「こっち」

そう言って、アインは視界から消えた。



「――忌々しいな」

俺は、そう呟いた。まさか、あんな男に初めてを取られるとは。まあでも、実質の初めては俺だ。それだけで、勘弁してやる。


そう言いながら、楽しそうな声しか聞こえないガラス球を、じっと眺めている。そこには、かなり豪華なつくりの部屋が映し出されている。

しばらくすると、黒髪黒目の美青年と、白髪赤眼の青年が姿を現す。どうやら、もう既にアインの異能力によって、薬の効果を抹消したらしい。


「これは楽しいな。きっと、あいつらも欲しがる」

「じゃあ持っていって。それとこれ」

アインはそう言って、今度は緑色の液体を、地面に零す。


すると、ガラス玉が真緑に染まった。焦りが先行するが、俺はアインを信じて待つ。

しばらくして、真緑が消えると、ラファエルが蹲っていた。そう言えば、ラファエルっぽいせき込む声が聞こえたな。


「これは……一体何なんだ!?」

「これだけ」

「は?」

「煙を出すだけ。全くのこけおどしだけど、かなり使えるよ。いる?」

「いる。ギルマスが喜ぶ」

俺はその声にイラつくが、アインは面白かったようで、くすくすと笑っている。

それだけで、俺の心は浄化される。


「あとは――」

それからも、失敗作の薬の体験をしていた。 それが、おうちデートのようで腹立たしい。


さっさと終われ、と念じていると、二人は部屋の外に出た。

そうして、アインの部屋は静寂に包まれた。


「はあ、ラファエルは要注意人物だな」

俺の声は、寒くこの部屋に響いた。

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