君について知りたい
自衛が必要かもです!!
男性妊娠の匂わせがあります
苦手な人はバックしてください!!!
Side Cyril
「話って何だい?」
あのマティから、改まった感じで話したいこと……。甥の可愛くない性格に変化が訪れたかと思うと、つい嬉しくなる。
「ラースに彼岸の魔族について聞いたんだが、俺は魔族について、あまりに無知だと知った。だから、魔族について、教えて欲しい」
「!!」
傲慢なマティから、頼られるとは……!叔父として、これは答えていかなければならない!
「まず、何から教えようか……。取り敢えず、魔族には二種族しかおらず、この二種族は、大きな違いがあまりないことは知っているね?」
「ああ」
「じゃあ、適正属性が2以下な者は、俗にいう落ちこぼれなんだという事は?」
「知っている」
アインが落ちこぼれの部類に入るとは到底思えないけどな、と言う彼はどこからどう見てもアイン君のことが好きだ。
「彼岸には階位と言うものが存在して、混血、純血、始祖の順で力も衝動も強くなる。あとは――寿命が長く、時間間隔が狂っている場合が多い」
マティはやや身を乗り出している。
――そうだよね、好きな子の事を知りたいのは万人に共通な心理だよね。
際限なく緩くなりそうな口角を必死に引き締めながら、僕はマティに、魔族について知っていることを教える。
「最後に、傷跡が残っている魔族がいたら、注意して。元々彼岸の者は、肉体という概念がない。精霊と同じ思念体なんだ。だから、古代以前に精霊が此岸に彼岸の者を連れてきた際、無理やり受肉させた。それが今の魔族の祖先だ」
「無理やり受肉させたのか。だから、ラースはあんな表情をしていたのか」
「急いでいたし、仕方がない部分はあったと思う。彼岸の者には全く関係ないけれどね。
精霊は肉体を持たないから、肉体がどういう構造なのかも知らない。だから、ちょっと無理があったんだよ。……その無理が、魔族の特徴の内で人族ではありえない部分だよ」
「寿命が無限に近いとか、殺しても死なないとかか?」
ラースというのは、ステラの王、ノア・アセンダント・アストロロジー陛下がセオドアに来国なさった際に来た鬼人のことだろう。
「そうそう。そこら辺は彼岸の不文律を持って来たんだろうね。首や心臓を貫かれても死なないのは、此岸に住むものとしておかしいし、銀よりも鉄の方が殺傷能力は上だし、柊巻いても何の効果もないのが普通だしね」
「確かに、おかしいな」
興味深そうに考えている。人族と魔族の違いで一番面白いのが、こういう所だろう。
少し不謹慎ではあるが、絶対あり得ないことを起こすのが彼岸だ。
少し前まで、オケディアで、定期的に国民が襲われていたらしい。聞いたところによると、肩口に小さな傷が2つ並んであったらしい。
魔族は基本、魔族の国である久遠から外に出ない。その時オケディアにいた吸血鬼は、思い当たる人物が一人しかいない。
こういう珍事件を起こすのも彼岸だ。
「その影響もあってか、普通は傷を受ければ直ぐに回復してしまう。逆に、どんなに小さな怪我でも、絶望していれば治らない。未だ怪我が残っているというのは、心の傷がまだ残っている証拠だよ。その時の絶望を乗り越えれれば、傷は治る」
「……」
魔族の力は、感情に左右されることもある。その代表的なのが、治癒能力だ。
「怪我したままの魔族を怒らせてはいけない。とても危険だからね」
「野放図に走るからか?」
「そう。魔族はそもそも温厚な種族じゃあない。幾ら温厚に見えても、油断はしないで。僕はマティが魔族に殺されるのは見たくないよ」
傷の残った魔族を怒らせた人間が、苛烈な報復を受けた事件をいくつも知っている。そのどれもが、普通に死ぬよりもはるかに苦痛を感じる方法だった。
マティは聡い。だがそれ以上に、彼の傲慢にも見える態度が、魔族を怒らせてしまうかもしれない。
何よりそれが一番怖い。
「アイン君も本気で怒らせてはいけないよ。男性魔族にしては、随分穏やかではあるけど、それでも魔族だ。――正直な所、僕は今でもアイン君を護衛にすることは反対している。……危険、だからね」
アイン君は、国王である兄上を暗殺しようとしてことがある。その後、本人から王族を全員暗殺しろ、と言う命令を受けていたらしい。
恐怖で縛られていたのは哀れだと言えなくもないが、自分で抜け出せたはずだ、と八つ当たりをしてしまう。実際、あの誘拐騒ぎでは自力で脱出したらしい。
そもそも魔族だ。本当に10歳なのか、疑わしい。
マティは危険じゃないのか。マティは大丈夫だと言っているが、信用できない。そんな僕の心情を知ってか知らずか、アイン君は僕を目にすると、申し訳なさそうな顔をする。それに罪悪感を抱いている僕は、少し苦い思いをするのだ。
「叔父上、またその話?アインは絶対に、何があろうと俺を傷つけない。あれだけ反省している――と言うか、自責しているんだ。俺を傷つければ、自殺も辞さない勢いで。――吸血の時は別だが」
そうでないと困る。そう言い捨てたマティの意見に賛成だった。流石に、顔見知りが自死を選ぶと聞いて、いい気分をする者はいないだろう。僕だって、複雑なだけで、恨んでいる訳ではない。
「叔父上も、アインにはきちんと言っておかないと、悪い方向に勘違いするからな。アルフレッドが父上から、発言を禁じられた状態で部屋に待機していた時、アインはいつ殺されてしまうのか、びくびくされてたからな」
「――それは一体どういう状況なんだい……?」
「どうやら、暗殺未遂で恨まれている、と勘違いしたらしい。特に罰らしき罰もないため、これから何をされるか分からなくて怖い、と」
溜息を吐きながら、眉間を揉むマティ。うん、多分相当パニックになってたんだろうね?それを抑えるのでさえ一苦労なのに、勘違いも正さなきゃいけなかったから余計に疲れたのかな?
「二人きりになった途端、寝やがった……」
「……」
好きなんだね、アイン君の事。
「しかも俺のベッドの上で……」
「……」
振り回されてるね、マティ。しかも、アイン君、君の前では無防備なんだね。
「惚気は置いといて、僕が知っている魔族の情報はこれくらいかな。――それとマティ、男性魔族は気性が荒い者が多いよ。女性魔族はそうでもないけれど。アイン君の穏やかさは、女性魔族並みだからね?そこは絶対に覚えておきなさい」
「分かった。それと惚気てない」
「僕は、アイン君との恋は反対するつもりもないよ?アイン君は鈍感そうだから、頑張って」
「惚気てないって言ってるだろ!!」
顔を赤くするマティ。マティに対して、こういう風に揶揄うのは新鮮だ。もっと揶揄ってしまいたくなる。
「あ、そうそう。魔族は男性も子供を妊娠できるし、女性も妊娠させることもできるからね。人族はそういうことが出来ないから、同性愛には否定的だけど、魔族は政略結婚もしているから、あまりそういう差別意識は持たない事。ああ、当事者だから無意味かな?」
「叔父上!……教えてくれてありがとう」
マティは拗ねながら、歩き去ってった。僕はしばらく、素直でない甥の感謝の言葉に打ち震えていた。
もし、願いが叶うなら、マティの恋は成就して欲しいて思う。マティは婚約者がいるのに、なんでそんなことを思うのか。マティの婚約者である公爵令嬢の顔を思い浮かべて、少しだけ、申し訳なくなった。
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「さて、司書の仕事に戻るとしますか」
最近、とても貴重な本を手に入れた。その本の著者は、皇月影。精霊学研究の第一人者で、手に入れた本は今から7年前に発表された論文だ。今、その著者は5年前から行方不明になっているため、より希少になった。
著者は、この世界で最も力を持つ国、久遠の王族なのだ。勝手に複製などしたら、首が飛ぶだけじゃ済まされない。
新参国雖も王弟。その伝手とコネを最大限利用しても手に入らなかった本だ。司書は元々本好きが高じて得た仕事だ。未知の希書に心躍りながら、僕は本を整理し始めた。