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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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閑話:スーと月影 2

Side Sue


「まずはお風呂に入れましょう!」

私の言葉に、要はハッとした。


要は火属性と水属性の融合魔法でお湯を浴槽に出した。

こんな、貴族の屋敷にしかない設備があるのは、要が欲しがったからである。


私はなくてもよかったのだが、要は元々貴族の中でも、かなり裕福な暮らしをしていたため、一定以上の生活水準を落とすことを嫌ったのだ。


ただ、それを容認できるほど稼いでいるし、何より私も踊り子でいた時よりもいい暮らしができている。


服を脱がし、湯船につける。それは全て要がやってくれたのだが、今も婚約者という間柄だ。心配が勝る。


要が私を裏切ることはしない。けれど、魔族は一夫多妻が当たり前。だからこそ、要にしてみれば、皇様と結婚するのは、私への裏切りにはならない、という考え方を持っているのかもしれない。


化粧を落とした皇様は、顔色が悪かったものの、とても美しかった。

今まで、女性ですらあれほど美しい人は見たことがない。



皇様をお風呂に入れ終わった要は、とても沈痛な面持ちをしていた。



少し大きいが、要の服を着せて、ベッドに寝かせる。青ざめた顔が、その時にはマシになっていた。



そのままずっと夜まで意識が戻らなかった。



そこで問題になったのは、どこで寝るか、だ。

家には、ダブルのベッド一つしかない。つまり、一人はソファで寝るしかないが、病人をソファで寝かせるのは気が進まない。

そして、ソファは二人が寝られるほど、広くはない。



何度も言うが、要と皇様は婚約者。つまり、皇様が要を好きだという可能性がある。

一緒に寝かせる訳にはいかない。


そして要は、私をいくら婚約者という間柄とはいえ、私にとっては知らない相手。

一緒に寝かせるのはいかがなものか、と主張した。


だが結局、皇様は知らない人が寝床にいるのは怖がるらしく、そして女性である私を、ソファで寝かせることも気が進まないという要によって、三人で一緒に寝ることになった。


物凄く狭いが、これが最適解なのだろう。


そう思いつつ、私は要に抱きつくようにして眠った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌日、誰かがベッドから転がり落ちる音で、目が覚めた。

不思議に思って、目をこすりながら音がした方を向くと、皇様がそこにはいた。要はもう既に起きていたようで、この場にはいない。


「な……な……!」

皇様は、目を見開いて、私をみつめている。


そのまま、私が困惑していると、要が部屋に来た。


「お、起きたか。スー、朝飯を作ってくれ」

要は、私が起きていることを確認するなりそう言った。


「分かったわ」

私は、皇様を心配した。けれど、要に料理を作らせる訳にはいかない。


要は、味覚が死んでいるのだ。とんでもなくまずいものでも、普通に食べるし、作る料理はこの世に存在してはいけない味がした。



一人多いので、その分多く作る。

私は、トーストを魔道具で焼きながら、フライパンに卵を落とす。

水を入れて、ふたを閉じる。

ソーセージをゆで、トマトを切る。


それを皿に盛り付ける。トーストも焼けたため、皿に乗せ、いつの間にかダイニングに移動していた要と皇様の前に皿を置く。

私は、要の隣に座った。



「それで、協力の件だが、俺が不可能じゃない範囲でなら協力する」

「ありがとう」

溜息を吐きつつ、要が言った言葉に、皇様は初めて、笑顔を見せた。


「はあ、新婚なんだよ……。だから家をあまり開けたくないんだが……」

「それはその時じゃないとわからない。ただ、今は手が足りてるから、協力はしばらく後になる」

「それがずっと続けばいいが」

「少なくとも、5年は平和だよ」

「短っ!」

私は、結婚生活10年は新婚じゃないと思うし、5年はまあまあ長いと思うが。

相変わらず、魔族の感覚はよくわからない。



正直、会話をする二人は、とてもお似合いに見えた。

私がいなければ、二人は順当に結婚して、子供も作って、という風に、明るい未来を歩んでいたのだろうか。


なんだか、そんな風に見えた。



「スー?どうした?」

食べる手が止まってしまった私を、要が心配そうに見る。


「だ、大丈夫。気にしないで」

「そういう訳にはいかない。――何か心配事でも?」

「そ、そんなのはないわ!」

「ならいいんだが。――おい、月影。きちんと食え。俺の半身の飯が食えないのかよ」

要は、皇様の方を見て、拗ねたような声を出す。私がその声に釣られて皇様の手元を見ると、確かに一切手を付けていないようだった。


「あの、もしかしてお嫌いでしたか……?」

「……昔、薬盛られた」

「安心しろ。スーは俺の妻だ。お前に薬を盛るメリットは何もない」

「それでも、怖い」

皇様の声は、消え入りそうだった。

要は、皇様の目の前に置かれた皿を取って、全て一口ずつ食べた。


「これでいいだろ」

「え、うん……」

皇様は、おずおずと食べ始めた。

私は、配慮が足りなかったかな、と反省した。


皇様は、明らかに人に虐げられていた。目の前で、調理過程くらいは見せればよかったかもしれない。



そんなことを考えつつ、朝食を終えると、要は仕事に出る。


「いいか、お前は今日一日中家にいろ」

「え……。それはちょっと……」

「スー、悪い。こいつを頼む」

「分かったわ。――その、気を付けた方がいいこととか……」

「月影、スーは俺の半身だ。信用できる。スーは気にすることはないぞ。じゃ、行ってくる」

そう言って、要は家を出てしまった。


家に、夫の婚約者と二人きり。



――気まずい……。



私は、そう思わずにはいられなかった。

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