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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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閑話:スーと月影

Side Sue


「寂しくなったな……」

私は、私以外誰もいないこの広い屋敷で、ポツンと呟いた。


要と二人暮らし。使用人なんか、誰もいない。

いつか子供ができたらいいな、と思いつつ、ずっと子宝に恵まれないままだ。


そんな夫の要は、皇君の依頼で、他国に行っている。



ここに来たのは10年前。ずっと各地を転々としていた。



なぜなら、要と私は歳を取らないから。と言っても外見だけの話だけれども。


彼岸の魔族というのは、半身相手にのみ使える、魔法があるらしい。

それは、寿命を共有する魔法。


相手が、愛し合っている半身にしか使えない、とてもロマンチックな魔法。

だから私は、40歳ではあるものの、未だに20歳のような若い外見をしている。



当時は止めた。だって、要の寿命が半分になってしまうから。それでも、要は、ずっと私と一緒にいたい、と言ってくれた。


だから、婚約者もいたのに、私と一緒に外国まで駆け落ちしたのだ。



ずっと、その婚約者に悪いことをした、と思っている。それに、私は要に釣り合っているのか、とも考えるようにもなった。


その考えが加速したのは、今から10年前。ここに、皇君が来たことがきっかけだった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――10年前。



私は、その時が来るまで、本当に普通に過ごしていた。

新居にも慣れ、冒険者として、日々日銭を稼ぐ要を支えるため、私は炊事洗濯掃除をしていた。


その日も、いつものように洗濯していた時だった。

玄関の方で、ノックの音が響く。私は、すぐに作業を中断し、来客を出迎える。

ドアを開けたら、そこにはとても綺麗な青年が立っていた。


私は、つい呆けてしまった。いつも、とても格好いい要を眺めているが、目の前の青年は、そんな要ですら簡単に負けてしまうくらいの、美しい青年だった。


「佐倉要の自宅はここ?」

「え?」

私は青年の言葉に驚く。だって、要は家以外ではずっと、イアン・ネルソンと名乗っている。

だから、その名前を知っているという事は、久遠での関係者という事になる。


「えっと、どなたかは存じ上げませんが、勘違いなさっているのでは?」

「勘違いじゃない。今ではイアン・ネルソンと名乗っている。大声で彼の素性をばらされたくなければ、家に上げて貰おうか」

青年は、かなり高圧的な物言いで、私は逆らえることができなかった。


私は、椅子をすすめ、紅茶を進めたが、断られてしまった。

身なりや立ち振る舞いから見て、かなり高貴な方なのだろうことは、想像に難くない。


平民が出す粗茶には、興味がないのだろう。



「あの、その、要に何か御用ですか……?」

「要が帰ってきたら話す」

青年は、つっけんどんにそれだけ言うと、黙ってしまった。

この沈黙が、とても重苦しく感じる。しかし、この状況を打開する策はどこにもない。



目を閉ざし、じっと何かを考えこむようにしている。それが、彼をより近寄りがたいものにしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しばらくすると、青年が突然目を開ける。

時間にして、一時間経ったか経ってないかくらいだろうか。


私は、その動作だけでかなり驚いてしまい、肩をびくつかせたが、青年はそれを意に介していないようだった。


するとすぐに、足音が聞こえた。急いでいる、焦燥感が溢れ出る音。私は、その音が聞こえて、なぜか安心してしまった。


「大丈夫か、スー!」

要が、家に飛び込んできた。


「ああ、よかった……!貴族の男がここに来たと聞いて……!」

そう言って、要は私を強く抱きしめた。



「久しぶり、要」

そんな中、青年は声を上げた。要はハッとして、後ろを振り返ると、目が驚愕に見開いて言った。


「――月影」

「半身に出会ったんだ、よかったね」

「……ああ」

要は、かなり気まずそうだった。


「要。その……彼は?」

「皇月影。俺の――元婚約者だ」

「元を付けないでもらえる?どっかの誰かが、正式な手続きを踏まないまま失踪したから、僕と要の婚約状態は続いているよ」

青年は、特に感情をこめずに言った。私は、要と彼――皇様の言葉を聞き、彼が要の婚約者だという事を知った。


魔族は、男でも妊娠することができる。だからこそ、要と皇様が婚約しているのは、なにもおかしくない。


正直、私なんかよりもお似合いだった。美しい外見に、高貴な血筋。私が半身でなければ、要が手放さなくてよかったものを、彼は持っていた。



「……一応、俺はスーとしか結婚するつもりはない」

要のその言葉に、私は少なからず安心する。だって、皇様はとても美しい。要が惚れちゃっても、おかしくはない。


「だから、呼び戻しに来るんだったら――」

「別にそのことはいいよ。ただ、協力をしてほしい」

私は、皇様の言葉に、ほっと胸をなでおろす。この人が、要を狙ったら、きっと要はこの人のことを好きになっちゃう気がするから。

そんなこと、普段の要を見ていたらあり得ないことでも、なんだか納得してしまうほど美しい。


だからこそ、どこか刺々しいのが気になった。



「……何の?」

要は慎重に問う。一体、何が彼の逆鱗に触れるか、分かったものじゃなかったからかもしれない。


「邪神討伐の」

「……断る。俺は、邪神を討伐出来ない。わかってるだろ」

「別にその役割をこなすものは、別にいる。ただ、邪神討伐には、それなりの材料だったり、知識だったり。そして、皇に見つからない環境が必要になる」

「――は、む、無理だ。悪いが、別を」

「何か、口答えでもできる立場だとでも?」

青年は、そう言った。

そして、感情のままに立ち上がる。しかし、彼はふらついて倒れた。


「おい!月影!?」

要は、皇様に駆けつけた。私も、心配になって、皇様の様子をうかがう。


しかし倒れるほど顔色が悪いとは感じなかった。


だが、要が来るまで目を閉じていたのは?

会話をすぐに打ち切ったのは?

紅茶を飲むことを拒否したのは?


全て、かなり体調が悪かったからかもしれない。



私は、思い切って皇様の顔を触ってみた。すると、手に化粧が付いた。


そのことを要に言おうとすると、要は茫然としていたことに気づいた。


「要……?どうしたの?」

「悪い、月影……」

そう言って、要は泣き出した。私は、要の視線の先を見て、気づいてしまった。

そこには、手首を傷つけた跡があった。



私は、思い切って要に言った。


「まずはお風呂に入れましょう!」

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