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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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頼りにしている

翌朝、ノア兄さんに呼び出された。

昨晩のことを見られていたのは気づいていたが、まさかそのことについてなのだろうか。



ノア兄さんの用件を想像しながら、僕は国王の執務室の扉を軽く叩く。


「陛下、アイン・マレフィック・アストロロジーです。入室の許可をお願いします」

「いいよ。入って」

「失礼します」

僕は、扉を開けて一礼する。そして扉を閉じ、異能力で防音空間を作った。



「よく来たね、アイン君」

ノア兄さんが笑顔で僕を出迎える。中にはゼスト兄さんが二人掛けどふぁに座っている。

僕は、遠慮なくゼスト兄さんの反対側に座り、用件を聞いた。


「ノア兄さん、僕をここに呼び出した理由は?」

「まあまあ、それよりよくわかったね。ゼスト君なんか、最初迷子になっていたのに」

「それは、ここに蝙蝠を置いているからね。この城の構造は、知っているよ」

「ああ!そうだね」

ノア兄さんは、僕の蝙蝠について、忘れていたようだ。

確かに、あまり派手ではないし、戦場ではあまり使わない。


まだ、声操術の方がよく使う。

と言っても、声が出せない時期があったから、声操術もあまり戦場では日の目を見なかったが。



「それにしても、貴族たちには困ったね。まさか、婚約相手の家を裏切ってアイン君との婚約を望むなんて」

わざとらしく溜息を吐くノア兄さん。ゼスト兄さんは、ノア兄さんの言葉に静かに頷いていた。


「その件だったら、もう大丈夫じゃない?ザフィア伯よりも、ヴァルラリア候の手を取ったから」

あれで、ザフィア伯含む、一方的に相手を婚約破棄した令嬢たちと、それを許した彼女らの親は、一気に社会的信用を落とすこととなった。


代わりに、きっぱりと婚約を断った僕と、ヴァルラリア侯は評価が上がることとなった。


「それでも、だよ。ほら、自分の容姿に自信があるご令嬢が多いでしょ?」

「だとしても、恥をかくだけ。それに僕は、何が何でも女性と結婚しない」

僕はきっぱりとそう言い切る。



だって、相手の女性が色々と可哀想だし。


それに僕、まだ要との婚約も解消していないのに。

少なくとも、婚約者を作るなら、要との婚約を何とかしなくてはならない。


「え?アイン君は男色だったの?」

「いや、違うけど」

別に僕は男色ではない。たまたま好きになった人が男だっただけで。

でも、その人にはもう相手がいる。


「できればアイン君には、婚約者を作って欲しいんだけどね」

「無理だね。それに、僕だけの話じゃないでしょ」

僕が適当な誰かと婚約したとして、結果こういう騒動が収まるか、といえば否な気がする。


「確かに、九星には婚約者がいる人、誰もいないんだよね。だから、ゼスト君にも同じことが言えるんだけどさ」

「俺も結婚はいい。仕事と結婚する」

いかにも相手がいなさそうな九星の中では、僕の次に年少なゼスト兄さんが言った。


明らかに、名誉貴族になりたい僕よりも、優良物件のように感じる。

この国の宰相だし。

娘と離れ離れになりたくない親なら、一番いい選択ではなかろうか。



「まあ、それはいいよ。無理して決めるものでもないし。ミリアちゃんとエリック君を除いて、皆平民出身だからね。いきなり政略結婚しろ、とか言っても、ピンとこないだろうし」

「うん、そうだね」

ノア兄さんは、僕に目を向けながらそう言った。

僕は、その意図を図りかねて、曖昧に返事をするだけにとどめた。


ノア兄さんのニッコリ笑顔に、何か知られてはいけないことを、知られているのかもしれない、という錯覚に陥る。

そんなことはない。ノア兄さんには、知る術はない筈なのだから。



「それが用件?」

僕は、脱線した話を元に戻した。そろそろ、痛い腹でも探られそうだったからだ。


「まあ、関係しているよ。――あの件で、婚約破棄された令息たちがいるでしょ?」

「いるね」

例えばヴァルラリア侯爵令息とか。


「再び同じ人と婚約を結び直させる訳にもいかないでしょ?」

「僕なら絶対に嫌だね」

まず信用ならない。今後、一方的に約束事を反故される可能性が付きまとう。

相手がよっぽど魅力的なら、我慢するほかないが、他にいい相手がいるなら、そっちと婚約したい。


「実はね、ミリアちゃんとリズちゃんでも同じことが起きていて」

「この国大丈夫?」

「皆事前に降爵処分を下していたから大丈夫」

「それはそれでどうなの……」

「一応きちんとした理由はあったよ?不敬とか、脱税とか。いくらなんでも、相手が若造だと思ってやりすぎたね」

楽しそうに笑うノア兄さんを見て、理解はできる、と思った。



ノア兄さんは、なんとなく御しやすそう。顔に威厳がないのだ。

声も、優しそうだし。


だから、舐めたら痛い目を見ることを、証明する他ない。


今は、ほとんど舐められていないんじゃないかな。いつの間にか不正がばれているし。

それもこれも、(皇月影)が残した資料とノア兄さんの異能力によるものが大きいだろうが、それ以上にノア兄さんは為政者に向いている。



「なら、重要なポストからも退いてもらっていたの?」

「信用できない人に任せる気はないよ。その結果が今だし」

確かに、かなり顕著に表れている。それに気づいた人物はどれくらいいるのだろうか。


「だから、そんな彼ら彼女らにお相手を見繕ってもらいたくて」

「……僕が?」

「そう!できれば、恩を売っておきたい人物に対して、いい縁を結んで恩を売っておきたいしね」

「でもそれぞれ勝手に婚約相手を探すんじゃない?下手に王家が絡むことはないよ」

歳が問題だろうが、令嬢側にも同じことをされた人物がいるなら、問題ない。

きっと大丈夫。


「そういう人は除いてだよ。ほら、ポニー男爵は優秀だけど、親が残した借金の所為で、令嬢をフェット伯爵令息の下に嫁がせなきゃいけない。ミリアちゃんに鼻の下伸ばしてたのにね」

確かに、それは可哀そう。


ポニー男爵令嬢は、気立てのいい、非の打ちどころも少ないお嬢さんだ。

対してフェット伯爵令息は、だらしない体形の、癇癪(かんしゃく)持ちで横暴な人物だ。


ゼスト兄さんの話によると、一方的に婚約破棄を突きつけたのに、ミリア姉さんにバッサリ振られてしまったため、八つ当たりした挙句に婚約の継続を強要した。



「……なら、あとでリストを作るよ。だけど、王家の介入は最低限にして。こういうのは、貴族同士で解決するのが筋だよ」

「そういうもの?」

「王家は力が強すぎるから、変に問題が複雑になる。何も言わなかったら、王家から許されたとかで終わるから。基本的に後ろで大きく構えていればいいの」

「ああ、だからか……」

ノア兄さんの不穏な呟きに、僕は少し身構える。


「もう何かやらかした?」

「いや。ただ、なんか未来が(かんば)しくなくて……」

「王家の介入ほど、貴族にとって面倒なものはないから。ただ、この男爵令嬢は救ってもいいんじゃない?ただあくまで、相手の令息の家への打診程度にとどめること」

ノア兄さんはお人好しだから、命令を下したがる筈。

僕は、さっさと釘を刺した。


「何で?」

「フェット伯爵から恨みを買うでしょ。一応、婚約破棄の件は、彼らの間では解決しているんだから」

「そうか……」

「逆に、ポニー男爵令嬢が悪くなる可能性すらある。だからこればっかりは、ポニー男爵の手腕にかかっているね」

貴族社会は、全く単純じゃない。こういう問題は、王になって二年のノア兄さんより、貴族たちに任せた方がいい。


伊達に貴族として生きている訳ではない。



「色々とありがとう」

「いいよ。もし、気になることがあったら、いつでも聞いて」

「分かった。そうするよ」

「でも一番は信用できる貴族に聞いて」

「分かりました」

ノア兄さんは、うなだれた。


「悪かったな、急に呼び出して」

ゼスト兄さんが、そう言って、僕の頭を撫でる。


「いいよ。僕、革命のとき何もできなかったから」

「まだ言うか。――今日は本当に助かった」

ゼスト兄さんは、そう言って笑った。


僕はそれを見て、むず(がゆ)い感覚に襲われた。



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