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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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叙爵式

「アイン、大丈夫か?」

「大丈夫」

僕は、心配そうなノア兄さんに、笑顔を作って返す。


ノア兄さんはそれでも心配そうだったが、ララ姉さんに回収された。

ゼスト兄さんは、かなり心配性なノア兄さんに呆れていた。



今日は、叙爵式だ。九星最後の叙爵。ここまで遅くなったのは、単純に逃げ続けていただけなのだが、ゼスト兄さんはそれを美談に仕立て上げた。


そうじゃないと、国としてまずいからというだけなのだが。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



大勢の参列者。招待状を入り口で提示し、順番に入場する。彼らは、この時を祝福していた。

空の玉座の左右には、ラース兄さんとミリア姉さんが立っている。

その表情はとても優しかった。


ノア兄さんとララ姉さんが、ゼスト兄さんの紹介と共に入場し、玉座に着席した。


「これより、叙爵の儀を執り行う。陛下の命により、候補者アインを召し出す」

ゼスト兄さんの、普段とは違う、厳かな声が会場に響く。


その声と共に、会場の厳かな扉が開く。僕は宮廷音楽と共に、玉座の前まで歩く。

儀式用に仕立てられた、豪華な軍服。それに合わせてデザインされたマントは、観客の注目を一気にかっさらう。

一部で、感嘆のどよめきが起こる。


僕はあまり服飾に詳しくないため、全てをデザイナーに任せていたが、よかったらしい。心なしか、叙爵式が始まる前、ミリア姉さんとララ姉さん、リズ姉さんが自慢げだった。



玉座の前に着き、跪く。それと共に、音楽が鳴りやみ、この場が静まり返った。


ノア兄さんは、玉座から立ち上がり、口上を述べる。


「ここに、王国の栄光の下、平民アイン。汝の名に、新たなる家を授ける。以後、汝はアイン・マレフィック・アストロロジーと名乗ることを許し、王国は汝をマレフィック公爵と認める。この名と共に、王国を支える柱たれ」

ノア兄さんの、威厳のある声が、静かな会場中に響く。


そしてゼスト兄さんは、銀のお盆を持ち、ララ姉さんにその上のもの――指輪を差し出した。


ララ姉さんは、ゼスト兄さんから指輪を受け取り、跪く僕の左手を取る。


「マレフィック公爵、この指輪は、マレフィック家の証。その指をはめる時より、汝は家を持つ者、血を継ぐ者となる」

そう言って、ララ姉さんは僕の左手親指に指輪をはめた。

すると、ガーネットがあしらわれた、シンプルな金の台座が光りだし、青い宝石のような紋様を描き出した。

まるでそれは、僕の翼の色とそっくりだった。


ララ姉さんは、一歩後ろに下がり、ノア兄さんと並ぶ。

僕は、ノア兄さんとララ姉さんに頭を垂れ、宣誓をする。


「陛下の恩命、身に余る光栄にございます。この名、この命を持って、陛下と王国に長く仕えますことを、ここに宣言いたします」

僕の言葉に、参列者は席を立って拍手する。


「マレフィック閣下、万歳!」

「王国に栄光あれ!」

貴族たちは、歓声を上げた。拍手が会場を満たす。

その中には、エリック兄さんやオットー兄さん、リズ姉さんがいた。


音楽もまた、この瞬間を飾り立てる。ノア兄さんとララ姉さんは、柔らかい表情を浮かべた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「どうだい、この指輪。アタシが作ったンだ」

「かなりすごいね。なんだか、魔力に反応したような感じだったけど」

リズ姉さんは、かなりご機嫌だ。

それも納得なくらい、この指輪はすごかった。



「あら、それマティアス王太子の瞳の色じゃない」

ミリア姉さんが横から割って入る。

ちなみに、ララ姉さんは妊婦なため、パーティーには参加しなかった。


「あ……」

僕の翼の色は、マティ様の瞳の色と一緒だ。別に僕の意思でこの色に染まった訳ではないが、なんだか気恥ずかしくなった。


「そう言うミリア姉さんの色は、黄色と紫ですか」

「そう。綺麗よね」

そう言って、ミリア姉さんは右手の中指に収まっている、爵位を示す指輪を見せた。


「普段はつけないんだけどね」

「そうだよ、全く。ミリアはいつも指輪をペンダントにしているのさ。勿体ないと思わないかい?」

「ふふ……。僕はつけるよ。この指輪」

「アインは本当にいい子だねェ!」

僕の言葉がよほどうれしかったのか、リズ姉さんは、綺麗にセットした僕の髪をぐちゃぐちゃにする。


ちなみにそう言うリズ姉さんは、左手の小指に指輪を付けていた。

リズ姉さんの性格は豪快だが、つけている指輪はとても繊細だ。

木の葉をあしらったデザインで、その部分がほんのり緑に染まっていた。


「あ、ちょっと!」

「いいじゃないか。さて、アタシはこれから飲んでくるよ」

「でも、主役のアインがそもそも酒にめっぽう弱いんだから、そもそもないんじゃ……」

「一応、異能力を使えば、影響はないよ」

「ああ、異能力か……」

ミリア姉さんは、納得したように頷いていた。



「そろそろ解放しなきゃかしら。嫉妬、されないようにね」

「嫉妬……?」

ミリア姉さんは、ただ笑うのみである。ミリア姉さんの示す先には、僕のことをじっと見つめている令嬢たちが……。


「さ、流石にここのことなんて、マティ様にはわからないよ」

「さあ?あまり舐めない方がいいわよ」

ミリア姉さんは、そんな不穏なことを言って、立ち去っていった。


「マレフィック様、今宵は私と共に踊りませんか?」

「いえ、私とはどうです?ダンス、とても得意ですの」

「マレフィック閣下、ぜひうちの娘と共に」

僕は、一気に囲まれてしまった。

流石に、僕は主役だ。何度かは踊らないといけないだろう。


僕は、その中で最も位が高そうな令嬢を選び、ダンスの誘いを受けた。

これが一番衝突を避ける。流石に、主役が一度も踊らないのはまずいし、更に何度か別の令嬢と踊らないと、今度はあらぬ噂がささやかれる。


九星の女性陣とも踊りつつ、僕はできる限り、令嬢のダンスの誘いを受けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いいですかな、マレフィック閣下」

「ええ、構いませんよ、ザフィア卿」

休憩スペースに逃げ込んだ僕に、話しかけてきたのは、恰幅のいい男性だった。隣には、先程一緒に踊った令嬢がいた。


「どうですかな、うちの娘は」

「ご令嬢には、楽しいひと時を過ごさせていただき、とても光栄でした」

「そうですか!私、閣下とは、いい関係を築きたいと思っております」

笑顔を浮かべるザフィア卿に、頬を赤く染める令嬢。歳は、同じくらい。


だが、そもそも僕は人族の女性とは絶対に結婚しない。

相手も可哀想だろう。こんな見た目だけの男に嫁いだところで。


それに、近い未来、僕は死んでいる。だから丁重に断らせていただこう。


「大変魅力的な方と感じておりますが、まだ身に余るご縁を頂く身ではございませんので……。光栄なお言葉だけ、ありがたく頂戴いたします」

僕は、努めて無難に返す。


「いえいえ、閣下との縁を誰が欲しないとおっしゃるのでしょうか。うちの娘は気立てがいいのです。ぜひ、貰ってやってください」

笑顔のザフィア卿と、頬をより赤で染める令嬢。

僕は、ぶどう水を一口飲む。ゴクリという、つばを飲み込む音が、聞こえた。


「過分なお言葉、恐れ入ります。ご令嬢のご評判は、私も耳にしております。しかし、今はまだ職務に専念すべき時期ゆえ……。このような栄誉は、時を改めて考えさせていただければと存じます」

僕の言葉に、ザフィア卿は一瞬考えを巡らした。


「はは、真面目なお方ですな。――考えが変わることを、期待しておりますぞ」

ザフィア卿は、どうやら僕と自分の娘の縁談を結びたかったようだが、諦めたらしい。


令嬢は、ずっと僕の方を見つめていたが、ザフィア卿に連れられ、この場を後にした。


僕はホッと一息を吐く。


これが、社交界にいるたびに続く。体よく断れる事情(セオドアでの任務)があってよかったと、僕は心底思った。

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