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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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とんでもない証拠

深夜。演劇を見た後、ジーク様は馬車に乗り、城へ帰った。


学園の寮まで、僕はマティ様とジェシカ様を見送った後、すぐに学園から出た。


目指すは、城の地下牢。

警邏に連行された襲撃者二人が、そこにいる。


マティ様の専属護衛として、目的を知っておきたい。

そして、最初に捕まった男はともかく、偽店員は、同業者の臭いがした。もしかしたら、拷問では目的を吐かないかもしれない。


ジャスパー様にもこのことを共有し、警戒しておかなければならない。



そんな考えで、僕は近衛騎士の一人に、声をかけた。



「ちょっといいですか?」

「もちろんです!」

「襲撃者の下に、案内してください」

「は!承知しました!」

僕たちのそんなやり取りに、騎士は胡乱な目を向ける。



当然だ。近衛騎士団がおかしいのだ。異例の抜擢を受けた平民に、鬱陶しいと思わない訳がないのだ。


「あいつ、失礼ですね。アイン殿よりも格段に弱いのに」

「僕に対して、そういう態度を取るのは、近衛だけですよ」

気にしないでください、と憤る彼をなだめる。不承不承ながらも矛を収めた彼に、僕は地下牢へと案内される。


するとそこには、エドガーさんと数人の近衛騎士、二人の椅子に縛られた罪人、更にジャスパー様もいた。


「ジャスパー様もいらっしゃったんですね」

この後、報告しようと思っていただけに、なんだか拍子抜けしてしまう。


「ジャスパーはジークハルト様の専属護衛騎士ですから。全く、妻も困ったものですよ。ジャスパーには、護衛の経験を積ませたいのに」

そう愚痴るように言い、溜息を吐くエドガーさん。


そう言えば、ジャスパー様とエドガーさんは、親子だった。


わざわざ僕が出向かなくとも、エドガーさんから話は伝わる。

ジャスパー様はシモンズ夫人似なために、時々忘れるのだ。


性格も、近衛騎士団全体が、エドガーさんに似ているため、あまり重要視していなかった。



「すまない、アイン。そしてありがとう。ジーク様を守ってくれて」

「いえ、仕事ですから」

ジャスパー様が差し出した手を、僕は握った。


しかし、そんなジャスパー様に、エドガーさんは少し顔をしかめていた。


「お前……アインさんにそんな態度を取っているのか?」

「ち、父上!それは、その――!」

「ふふ、僕は構いませんよ」

冷や汗をかきながら、言い訳をしようとするジャスパー様が新鮮で、僕は思わず吹き出す。

そもそも、平民に対する対応は、ジャスパー様の方が正しいのだ。


「それに、ジャスパー()?お前など、呼び捨てで十分だろ。そして、アイン様と呼べ!」

「父上、そういうの、アインはあまり望まないよ……」

ジャスパー様は、鬼気迫る様子のエドガーさんに、心底呆れた様子だったが、周りにいるのは、近衛騎士。エドガーさんの言葉の方がこの場では正しい。


「お前はいつ、自分より強い相手より強くなったんだ?それにな――」

「ひとまず、彼らの話を聞きましょう。話はその後でもできますよ」

僕は、長くなりそうだったエドガーさんの言葉を切り、そして意識を罪人二人に向けさせる。


「お前らに、何も言う事はない……!」

そういう偽店員は、血で濡れており、拷問官に拷問をされた後だという事が見て取れた。


一方は、全くの無傷だ。こちらは、身のこなしからも一般人らしいし、偽店員が拷問されているところを見せたら、簡単に情報を吐くだろう。


だが、そんなに情報を持っていないというのが、一つの懸念点ではあるが。



「目的はジェシカ嬢の殺害だそうです」

「ジェシカ様の殺害……」

成程、そっちか。恐らく、マティ様の婚約者の座を狙ったのだろう。

問題は誰が、という事だが。


「それはこの男に話してもらいますか」

僕は、偽店員の方を見て言った。


「しかし、一通りの拷問を耐えきってしまったので……」

「それでも、彼岸に対しての耐性はないですよ。人族と魔族は、ほとんど混ざり合わないので」

僕はそう言って、赤髪赤眼の吸血鬼の姿になる。


偽店員は、そんな僕の姿に情けない声を上げて怯えた。


「少し離れていてください。巻き込まない自信はありませんので」

そう言って、異能力“抹消”を使う。対象は、エドガーさん、ジャスパー様、そして近衛騎士たち。効果は、彼岸の力による影響の抹消だ。


僕は椅子を持ってきてそれに座り、二人に声をかけた。


「さて、素直に放してもらうよ。拒否権はない。いいね?」

僕は、偽店員に向かって声操術を使い、魅了をかける。わざわざ吸血鬼の姿になったのだ。きちんと効いてくれなきゃ困る。


「はい……」

ぽおっと、頬を赤く染める二人。僕はそれに満足げに微笑みつつ、質問をした。


「君たちは、どこの手の者?」

「分かりません……。その男に、妹を人質に取られて……」

最初に捕まった方は、どこか様子がおかしい。顔が赤くなっているが、僕はそれを意に介さない。


「嘘はいけないよ?」

「嘘ではありません!」

疑ってみたものの、本当らしい。調べてみればわかる真偽は分かるため、ここで審議を問いただす必要はないが、妹は手遅れだろう。


きっと、翌朝には用水路に死体が浮かんでいる。


「そう?僕、嘘は嫌いだからね?」

「もちろんです!」

男は、もう僕の言いなりだろう。

僕はそれに満足して頷き、ゆっくりと偽店員の方に顔を向けた。


「今度は、君とお話ししたいな。――この件について、何か知ってる?」

「もちろんでございます!俺はジャクソン公爵家お抱えの陰でございます!」

「へえ、ジャクソン公爵家の……。証拠は?」

「はい?」

僕が笑顔で聞いた内容が理解できなかったのか、偽店員はきょとんとしていた。


「僕、平民だから貴族に疑いを向けること、できないんだよね。それこそ、しっかりとした証拠が欲しいな。あるでしょ?」

「すみません、今持ち合わせていなくて……」

心底申し訳なさそうに言う偽店員。僕は、彼に冷たい視線を送る。


「そんなことないでしょ。ほら、ジャクソン公爵家の人間じゃないと、知らない情報。あるでしょ?」

「し、しかし、それをここで言うのは――」

僕に失望されそうになり、慌てている。だが、まだ理性はあるようだ。


「何で、ここで言う事がだめなの?そんなに不味い情報?」

僕は、興味なさげな態度を取る。彼岸の力で、僕以外が視界に入らないように、魅了を強める。

そんな偽店員は、そんな僕の興味を引きたいのか、慌てて情報を追加した。


「は、はい。ジャクソン公爵家の裏帳簿の話です」

「ふうん。それ、どこにあるの?」

「え?」

僕の態度が変わったからか、男は一瞬呆気にとられる。しかし、すぐに笑顔になった。


「探してきてあげる。そうすれば、君がジャクソン公爵家の手の者だっていう証拠、出るでしょ?」

「もちろんです!」

そう言って、偽店員は僕に情報を渡してくれた。まさか、ジャクソン公爵家の不正の証拠までくれるとは、予想外だ。



「じゃあ、おやすみ」

僕は二人を声操術で眠らせる。変に魅了を解くよりかは、こっちの方が騒がれない。

どうせ二人は国家反逆罪で絞り首だ。何をやっても問題はない。



「……とんでもないな」

エドガーさんが、ぽつりとつぶやいた。


「吸血鬼の本来の力の使い方です。――それより、相手はジャクソン公爵家ですか」

僕は、人間の姿に戻りながら、ジャクソン公爵家についての情報を頭に思い浮かべる。


ジャクソン公爵は財務卿だ。国庫の管理や税収報告、予算編成など、金回りの仕事を行っている。

恐らく、その公爵家の裏帳簿は、国庫から横領している記録なのだろう。


そんなものが公になればどうなるか……。当然、一族郎党で処刑だ。

財務卿の裏帳簿の存在は、まことしやかに囁かれていたが、本当にあるとは……。

その存在と在りかを知っている以上、彼はジャクソン公爵家の手の者であるのは確実だろう。


別に証明できなくとも、他の使用人に証明して貰えればいい、と思っていたのだが……。

少なくとも、この件は僕が公爵位を得た後の話になりそうだ。

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