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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第一章 初めの第一歩
27/186

ジャスパー・フォン・シモンズ

ちょっとおかしい所があったので修正します!



修正前

全ての属性の適性を持っている存在がもしいるとすれば、それは神だけだ。


修正後

全ての属性の適性を持っている存在がもしいるとすれば、それは神か始祖だけだ。

無事王城に帰還して早数日。反マティアス様の中のタカ派を一掃し終えた後、僕はマティアス様の専属護衛に任命された。異例の人事だが、これもノア兄さんが手を回したのだろう。


そもそもステラはセオドアよりも新しい国とはいえ、国際的な立場がある。絶対不変の立場。それが、今回のような横暴を許しているのだろう。後は単純に九星である僕が欲しかっただけか。



九星は強い。能力的な面でも、政治的な面でも。

ノア兄さんの噂がちらほら聞こえてくる。反対勢力を一網打尽にしたとか、落ちかけていたオケディアの権威を回復しているとか。


オケディアは、少し前までは巨大な武力を盾に周囲の国家を侵略してきた。あの悪名高いチーズルと組んでからは、更に酷くなった。世界平和のために作った九星を侵略の道具にしたとき、オケディアの権威は地に落ちた。


それでも、オケディアに国際的立場があるのは、オケディアが世界平和にとても重要な国だからだ。


話を戻すが、そのオケディアの膿を出した中心人物がノア兄さんだ。九星でもある彼と良好な関係を築きたい国は多い。

それに、チーズルがやっていたように、上手くいけば、甘い汁を啜ることもできる、と考える者もいるだろう。それを良しとしたくなかったから、今のステラがあるのだが。



ただ、当事者とはいえマティアス様や、もちろん僕には関係のない領域だ。

だが、この裏話を知らない者も一定数いる訳で……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おい、貴様。どんな手を使った?」

「どんな、とは?」

「貴様のような平民が、公爵家出身であるこの私を差し置いて王太子殿下の護衛にまわれる筈がない!何か、不正を行っただろう」

「僕は知りませんよ、そんなものは」


今会話しているのは、僕が見上げるくらいの背の少年だ。騎士のような体格をしており、同年代に比べ、隙が少ない。強いのだろう、そう僕は思った。



「では手合わせ致しましょうか。それで、僕がなぜ選ばれたのか、分る筈ですよ」

しかし相手が悪い。九星は、最強だ。権力以上の価値がある。


「それはつまり自分が強い、と?」

「そう捉えて貰っても構いません。それ以外にも、理由はありますし」


これは、ステラとセオドアの和平の証拠でもある。僕に王太子であるマティアス様の護衛を任せることによって、完全にセオドアはステラに信用を置いてますよ、というアピールなのだ。ステラも、わざわざ九星を護衛に送ることで、それだけステラはセオドアを重要視しているともとれる。



「手合わせしたら分かると言っていたな。今すぐしようではないか」

「少し待ってください。マティアス様に報告をせねばなりません」

「このことをチクると?」

「?無許可で手合わせしたら僕が怒られるからなのですが?」

彼は何とも言えない表情をして、僕を送り出した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「という訳なのですが」

「俺も行く」

「了解致しました」

マティアス様に許可を頂いた。

その上その手合わせを見たいというのだから、僕を測りたいのだろう。


目的は分からないが、僕は勝つだけだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



Side Jasper


「まさか本気でそう思っているのか!?」

最初におかしいと思ったのはそう、彼が王太子殿下に手合わせの許可を得ようとしていた時だ。

次にそう思った時は――彼が王太子殿下を引き連れて戻って来た時だった。



「?どうしたのですか?」

「貴様がアインに手合わせを望んだ者か?」

「はい、私は――」

「いい。俺は手合わせを見に来ただけだ。それともなんだ?俺を邪魔だとは思っていないよな?」

「いえ、滅相もありません!」



――過保護な親かな?



まずはそう思った。普通、護衛にそんなに過保護にならない。まあ、確かに彼のしたことは何ら不思議ではない。俺も別に違和感こそあったものの、常識の範囲内ではあった。しかし次に彼が来た時、俺の顔を睨む王太子殿下がついて来られるとは思わないだろ!

俺は少し冷や汗をかきながら、口を閉ざす。余計なことをすれば命がなくなりそうだ、と内心で軽口をたたく。



「マティアス様、手合わせを以外にも何か、見に来たのではないのですか?」

「俺がここに来るのに、手合わせを見る以外の理由があるのか?」



――あるに決まってるし、それはただの口実だろ!



王太子殿下の目的など、知らなそうな純粋な顔で、彼は聞いた。正直、言いたいことはあったが、ぐっとこらえた。

王太子殿下のお気に入りに変な勘違いをさせて、王太子殿下の般若の顔を拝むくらいなら、目の前の少年を見捨てた方がいい。少し心が痛むが、必要な犠牲だ。



「そうですか……」



――目に見えてしょんぼりしない。君は何を期待したんだ。



心なしか痛んできた頭を抑えつつ、俺は木刀を二本用意した。そのうち一本を投げ渡す。


「これを使え」

「真剣じゃ、駄目なんですか?」

「駄目だな。お前は何をしたいんだ?」

「それ、折れますよ?」

「そんな細腕でこの木刀が折れる訳がないだろう」

華奢な体格のどこに、強いと言わしめる要素があるのか、皆目見当がつかなかった。



「長いので、これ折っていいですか?」

「構わないが……」

声もなく折った。小枝を折るかの如く、木刀を折り、更に持ち手側の方も捨てた。


「これで、よし」



――いいのか、それで。



短くなった分、持ちづらくなった筈だし、折ったもう一本も捨てた。戦いが不利になったようにしか思えないが、わざわざ指摘することもない。


「準備は出来ましたそれでは――」

「アイン。ある程度セーブしろ。分かったな?」

「了解致しました」

「舐めていらっしゃるのですか?」

「始まったら分かることだ。貴様は、これが終わった後俺に感謝することだろうな?」

こちらを嘲るように王太子殿下は俺を見られた。見下しているようでその実、確かな彼――アインへの信頼があるように見えた。



「始めます」

すると空気が変わった。互いに向かい合ったまま動かない。いつが開始なのか。それは目の前の蝶が教えてくれるだろう。



ひらりひらりと蝶が舞う。二人の間にいる蝶。そいつが空高く舞い上がる。その瞬間、俺たちは飛び出していた。



「なッ!?」

正しく言うと、飛び出そうとしていた、だ。

俺が飛び出そうとする頃にはもう彼は飛び出していた。彼は正確無比に短くなった木刀を突き出す。音は辛うじてある。しかし、次の瞬間には自分がそれに貫かれる、そう思わずにいられなかった。


何度も突きを繰り出される。それを俺は必死の思いでその猛攻を受けていた。


何とか相手を払いのけ、距離を取る。



「なかなかやりますね。これで殆どが脱落したのですが……。でも終わりです」

何が、と問う暇もなかった。彼からの突きを木刀で弾いた瞬間、俺の持つ木刀が弾けた。何の前触れもなく。



「決まったな」

その声で我に返る。王太子が傲岸不遜に歩み寄る。手加減してこれか。確かに、王太子殿下のおっしゃる通り、感謝したくなった。


常に同じ点に攻撃を受け止めさせる。そんなことを軽々とやってのけた。剣……といっても、長さ的に短剣かナイフだが、かなりの実力があるのだろう。


「で、気分はどうだ?」

「貴方様に感謝を申し上げたい気分です。木刀を破裂させてしまうとは……」

「アインは強いからな。魔法だと――ルーファスでも勝てないだろう」

「臣下の自慢話ですか?」

「事実だ。俺はありもしない事実を語るのは好きではないからな」

それにしてもべた褒めだが。ルーファス様はこの国一番の魔術師だ。その方にようやく11になったばかりの少年が勝てる訳がない。


かなりご自身のお気に入りを買いかぶっていらっしゃるようだが、そこまで盲目な方だったのだろうか?前に見たときは、聡明そうな印象を受けたのだが……。



「そうだろう?アイン?」

「僕と同じくらい魔法を扱える人間は一人しか知りません。それに、彼女は半分人間を止めています」

「と言うことは、5属性以上の適性を持っているのか?」

魔族は、人間よりも適正属性が多い。その中でも才能がある方だと、4、5属性は普通に持っているだろう。


人間は、魔法が使えるだけで一種の才能だ。大体10人に一人しか使えない中、2属性以上となると、それ以上に少なくなる。


人間で最も多い適性を持った人物は4属性持ちだったらしい。ちなみにルーファス様は3属性だ。



「全属性持ちな上に、魔力量は僕より多いです」

「それは……本当に人間か?」

魔族でさえも、全ての属性の適性を持った者はいない。全ての属性の適性を持っている存在がもしいるとすれば、それは神か始祖だけだ。


「それに、もしそんな人間が仮にいるとして、そんな奴と同等?」

一般的に、魔術師勝負は適正と魔力の多さで勝敗が決まる。後は策略で負けを勝ちにするしかないが、それも絶望的な差があると、通用しない。



「魔法勝負の勝敗を決めるのは、どれだけ高位の魔法を使ったか、それと、どれだけ多くの魔法を撃てるかです。確かに僕は魔力量では負けていますが、魔法を撃てる数は僕の方が多いんです」

意味が分からない。魔法は魔力を動力源としている。人によって、同じ魔法の筈なのに必要な魔力量が違うという事は無い。当然、違う魔法なら、必要な魔力量は変わるが。



「理屈を話しても、理解はできないでしょう。そもそも、魔術師相手に遠距離で戦う方が馬鹿げてますし」

それはそうだが。先ほどの技術さえあれば、そもそも魔術師と真っ向勝負を仕掛ける必要もないだろう。



「まあ、ともかく、先程はすまなかった。私は自分より強い同年代を知らなかったので、ついムキになってしまった」

あの態度は、いくら平民だったとしても失礼だった。俺は、素直に頭を下げた。


「構いません。公爵家ともあろう方が、平民相手に頭を下げないでください」

アインは慌てて俺の頭を上げさせようとしている。


「しかし……」

「迷惑がっているのが分からないのか?」

「わ、分かりました……」

アインは尊敬すべき人だ。誰よりも魔術への造詣が深く、誰よりも短剣の扱いが上手い。王太子殿下に対し、醜態を晒すばかりの俺と違い、彼は冷静沈着で落ち着いている。常に無表情だ。

そして、王太子殿下はアインをとても可愛がっているように見える。



「ええっと、貴方様は……」

「ジャスパーだ。私は、ジャスパー・フォン・シモンズ。シモンズ公爵家の次男だ」

「僕はアイン。訳あって、本名は名乗れません」

敬意を表したいが、敬語では逆に迷惑に思うだろう。俺はアインに手をさしだし、握手を交わした。



「おや、もう帰ってきたのかい?もう少しかかると思っていたけれど」

「!?」


後ろからいきなり声を掛けられ、驚いた。アインは、驚いていないようだ。

王弟殿下は俺の方を見てにっこりと笑いながら言った。


「シモンズ公爵家の次男か。相手が悪かったね」

と言った。貴方様は一体何を知っているんです?



「シリル――様?あの馬鹿の処理を頼まれただけで、そう時間はかかりませんよ?」

「君の言う、馬鹿の処理の事を言っているんだよ。

しかし、手合わせね……。そこまで実力差があったのかい?

――シリルでいいよ。距離を置かれた風なのはちょっとね」

「馬鹿ですから。策に嵌めれば一発です。――ありがとうございます」

王弟殿下と顔見知りの人脈は何だ。それに馬鹿と連呼されている人物も気になる。



「叔父上。少し話がある」

「いいよ。アインはどうするの?」

「二人で話したい。アイン、暫く俺から離れていろ」

「了解致しました」

こうして俺はアインとその場に残されることとなった。



「では僕はこれで」

そしてついに一人となった。俺はアインの背中を見送りながら、決意を新たに、一から鍛えなおそうと思った。

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