余計なことは言わぬが花
僕は、ポガチョス、ルーヴァ、ハティートの調査報告書をまとめた。
ルーヴァとハティートに放った蝙蝠はすべて回収し、情報も受け取った。
その後、特に新鮮な情報もなく。
かなり呆気なく、これが、ノア兄さんが知りたかったことか?と思いつつ、僕は詳しく調べたことを書きだした。
ルーヴァとハティートは、まだ再起可能だが、獣人の力を借りれなくなったうえ、魔法陣も意味なかった。
だからこそ、すぐにステラにちょっかいを出すことはないだろう。
だが、ウィキッドと接触してしまったら、そうもいかなくなる。
一応、異能力を使って、罠を張っておいたが、かかるかどうか。
それはもう、運命に任せる他ないだろう。
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僕たちは、トゥルクに惜しまれつつ、ポガチョスを発った。
オルファは、また会えるといいねぇ、と縦に長い瞳孔をした瞳を楽しそうに細めながら、煙管の煙を吐いた。
他にも、いくつか僕たちを見る視線が合ったが、出てくる気はないのだろう。
ノアスも同じようで、一向に姿を見せなかった。
行きと同じく、飛行魔法で移動をしていた。
「このままステラに行くのか?」
ヒュー兄さんの言葉に、僕は首を横に振る。
「僕はセオドアによるつもりだけど」
「別にノアには俺たちが生きてるのは知られているし、一緒でもいいと思うよ?」
サージェント兄さんがそう言うが、そういうことではない。
「それなら、テン兄さんとサティ姉さんも一緒の方がいいでしょ。それに、ステラでの用事は、叙爵だけだから、すぐにセオドアに戻るつもりだし」
「なら、ここで別れた方がいいんじゃないか?近いだろ」
「どうせ変わらないよ。飛んでいくし」
「あ、そうか……」
僕の言葉に、二人は納得した。
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二日かけて、セオドアに帰ってきた。
僕は、テン兄さんとサージェント兄さんとヒュー兄さんに、九星のテレパシーに追加した。
不思議そうな表情をしていたが、すぐにこの魔法の有用性を感じたようだ。
僕は、そのまま三人と別れた。
調査が予想外に早く終わったが、その分ステラで色々と引き留められるだろう。
叙爵するだけ、と言ったものの、その他もろもろの手続きと、パーティーが開催される筈だ。
その日程も決まっている。
あと一週間後なため、時間には余裕がある。数日セオドアで過ごしてもいいかもしれない。
そう思い、僕は学園に戻った。
「アイン……?」
背後から、マティ様の声が聞こえた。そばには、カーティス様とハロルド様がいた。
「久しぶりだね~」
「今、九星の任務でいないんじゃ……?」
「予想外に、早く終わったんですよ。――ただ、ステラでの用事はすませていないので、数日セオドアにいるつもりですが」
「そ、そうか!――明後日はいいか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか」
マティ様は、とても嬉しそうだった。
僕も、なんとなく嬉しくなる。
「甘酸っぱいね~」
「そうか?そんな味はしないが」
「ハロルド、君はサティから勧められた恋愛小説を読んでるんじゃなかったの?」
カーティス様とハロルド様が少し離れたところで、そんな会話をしているのを聞いていた。
そうしていると、また背後に気配がした。
「あら?アインじゃない!」
「ミリア姉さん」
「もう戻ったの?」
「予想外に早く終わって……」
先程マティ様に説明したことと、同じ文言を繰り返す。
「わあ、熱烈だね~」
「チッ!」
なんだか、不穏な空気が漂っているような……。
「そうなの。――ところで、一つ気になることがあるんだけど、いい?」
「う、うん……どうしたの?」
ミリア姉さんが、かなり真剣そうな表情で迫る。がっしりと肩を掴まれ、僕はその迫力に腰が引ける。
「恋愛小説を読むの?」
「はい?」
ちょっと、聞き間違えたかなと思った。
「恋愛小説よ!まさか、読んでるの?!」
「え、ええ……。サティ姉さんに熱烈に進められたから……。ミリア姉さんは、恋愛小説苦手?」
「いや、別にそんなんじゃないんだけど……」
ミリア姉さんは言いよどむ。確かに、僕の印象には合わないだろうし、あまり分からないところもあるけれど、それが面白かったりする。
「ねえ!そうでしょ!」
サティ姉さんが飛んできた。元気だな、とぼんやり考えていると、さっと横から、マティ様が僕をさらった。
「え?」
「いい加減にしろ。近い」
「マティ様の方が近いと思うのですが……」
「なにか言ったか?」
「いえ……」
僕の訴えは、マティ様に黙殺された。
そんな僕たちを見て、ミリア姉さんは一言こう言った。
「貴方……本当に相変わらずね」
「相変わらず……?」
「ちょ、ミリアちゃん!誤解されるって!」
マティ様の声が不機嫌そうに低い。先ほどまで、かなりご機嫌そうだったのに。
サティ姉さんが、ミリア姉さんの言ったことについて慌てた。
「ほ、ほら!口が軽い人と秘密ごとをしたり、幼い頃から人殺しを強要させられたり、周囲の男に暴力を振るわれたりされたんでしょ!?」
「秘密……?人殺しを強要……?暴力……?――殺す」
サティ姉さんの言葉に、マティ様の瞳が剣呑な光を帯びる。
「サティ、これ完全に火に油注いじゃったね」
「マ、マティ様!おおお、落ち着いてください!」
僕を掴む腕に力が入る。それが、不思議と痛くないのは、加減してくれているからだろうか。
「教えろ、誰だ?」
「落ち着きましょう!?そ、それに今はそんな人いませんから!」
確かに、口が軽いラース兄さんと秘密ごとをしているが、ラース兄さんは人ではないため、大丈夫だ。
そんな言い訳をしながら、僕たちは殺気を溢れさせるマティ様を、落ち着かせようとしていた。
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