間抜けな敗戦理由
僕は翌日、ルーヴァとハティートへと向かった。
同盟国のハティートとポガチョスは、国境が接しており、近いのだ。
そして、調査自体は蝙蝠を置いてくるだけでいい。
あとは蝙蝠が情報を収集してくれる。
その間、ポガチョスで滞在することになった。
本当は、ルーヴァやハティートへ、直接赴いて調査する予定が、サージェント兄さんが、患者を置いてこの国を出れない、と言ったからだ。
あと二日ほしいらしい。
そのころになると、ルーヴァやハティートの情報も出そろうだろうし、未だに警戒しているとはいえ、碧生兄上と栗花落姉上が近くにいないことは確認できている。
僕は、あまりにも兄上や姉上のことを知らなすぎる。
だからこそ、いつも久遠にいない印象を抱いていた二人が、こうして他国を回っていることを知らなかったし、何をしているのかもわからない。
多分、知っていて当然のことなのだろう。
僕は、自分が将来雪影兄上と御影姉上の補佐をする、ということしか聞かされていない。
それ以外は、何も教えて貰えなかった。
自分から知りに行くべきだったのだろうか。
今、こうして不便を味わっている。
ルーヴァとハティートの情報屋を頼らない理由は、ポガチョスのように、国民と国の信頼関係が悪い訳ではないからだ。
つまり、多分ガセを掴まれて、情報を売られる。
結局、自分をいいようにしてくれる権力に、誰だって靡かない訳がない。
ここがポガチョスだからできた芸当なのだ。
僕は、蝙蝠からの情報をこまめに受け取ることに集中する。
ヒュー兄さんは、新しい呪いの開発をするだとかで、寝室を独占した。
サージェント兄さんは、往診だ。もうすぐ帰ってくる筈。
「キーキーキー」
薄く開けていた窓から、蝙蝠が一匹帰ってくる。
優しく頭を撫で、握る。
僕は蝙蝠と同化し、記憶を情報として受け取る。そして、指先から新しい蝙蝠を作る。
僕は、先程蝙蝠が帰ってきた窓から、また蝙蝠を送り出す。
僕が生み出しているとは思えない色をした蝙蝠は、元気よく空へと飛び立っていった。
「相変わらず不思議だな、吸血鬼は」
「そうだね。僕もそう思うよ」
僕は、蝙蝠と同化する時から、ヒュー兄さんがいたことに気づいていた。
「どうしたの?」
「休憩。――お前、黒とか緑、もしくは赤なのにさ、なんであんな青の蝙蝠が出てくるんだ?――ああ、翼も青だったな」
ポガチョスへの道中、僕は翼を広げて飛んでいたため、それを覚えていたのだろう。僕は頷きながら、翼を出し、それを丁寧に撫でた。
「彼岸は、どこかしら半身の色が出てきたりするからね。吸血鬼の場合、というより僕の場合は、翼と蝙蝠だっただけ」
「半身の色……」
「どうしたの?」
「なんでもない」
小さく、ああ、確かに、と聞こえた気がするが。
気のせいだろう。
要も、同じタイプだった。飛ばないし、蝙蝠化もあまり使わないから、めったに見ないが、要の翼も蝙蝠も、紫だ。それは、スーさんの色と一緒だ。
「何か、分かったか?」
「少なくとも、ハティートはウィキッドとのつながりはないかな。戦争への参加は、ステラの領土が小さいから、御しやすいと考えていたかららしい」
「馬鹿だな……。ちょっと考えれば、そんな訳ないことくらい、分かんねーのか?」
呆れるヒュー兄さん。でも、そういう歴史、たくさんあるから。
「分からないのがあと二国あったから、三国で同盟組んで、ステラを蹂躙しようとしたんじゃない?」
「久遠からの全力の進攻だってステラは結構耐えるぞ?」
確かに、九星はかなり強い将軍クラスじゃないと、話にならないだろう。
「そのことだけど、全く勝算はない訳じゃなかったらしいよ。ただ、それは九星には効かなかったけれどね」
「そうなのか?」
「うん。ルーヴァを探ったときに出てきたんだけどね、獣人の聴覚に作用する魔法陣があったんだ」
「それは……無意味な……」
獣人にしか聞こえない不快な音を出して、精神攻撃をする魔法陣があった。
しかし九星の獣人は、強いて言うならば、サージェント兄さんしかいないので……、
「一応、魔族にも意味があるらしいけれど……」
「意味ねーな。どちらにせよ」
その魔族は、僕とラース兄さん、ヒュー兄さんだが、ヒュー兄さんは九星とは違うし、僕はその影響を“抹消”すればいいし、ラース兄さんはそれを状態異常とみなして“無効”にすればいい。
本当に、意味がない。
あちらは、ステラの強さの秘訣が、獣人のみで構成された軍だと思っていたようだが、そもそも、ステラにそんな軍は存在しない。
だから、醜態をさらす羽目になったのだ。
この分だと、終戦条約を結んで終わりになるかもしれない。
ただ、まだルーヴァがステラを諦めている様子がないため、終戦になるのもかなり先かもしれない。
ポガチョスは、王族の死亡により、国が瓦解するだろう。
戦争中なので、敵国からの暗殺者が来ないと、高をくくっていた方が悪いのだが、そうでなくとも国際法で決まっていた、エルフの奴隷の売買の件で、久遠から制裁されただろう。
そうなると、碧生兄上と栗花落姉上の仕事内容が、なんとなく推察できるが、あまりはっきりとは言わない方がいいだろう。思い込みを避けるためにも。
「ただいま」
サージェント兄さんが帰ってきた。
「サージ、どうだったか?」
「みんな、結構よくなっていたよ!明日で最後だという事も伝えたし、それに、医者希望の子たちに色々と教えたしね。もう、大丈夫じゃないかな」
「そうか。それはよかったな」
ヒュー兄さんは、優しくそう言った。
「僕の方も、指令はあともう少しで終わるよ。そうしたら、セオドアに帰ろう」
僕はそう言って、また窓から帰ってきた蝙蝠から、情報を受け取ることにした。
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