思い当たりと美人
Side Miria
「ねえサティ、レイモンドという人物に心当たりはないのかしら?」
「う、うん。名前も聞いたことないよ」
「はあ、どうしましょうか……」
私は、サティに九星のテレパシーに組み込んだ後、改めて聞くが、収穫はなかった。
「まあ、いいわ。まだまだ滞在時間はあるし。――ねえ、学園を見て回りたいんだけど……」
「いいと思うよ!行こう行こう!」
サティが、私の手を引く。
――相変わらず元気だな。
私は、そう思いながらサティについて行った。
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Side Raphael
俺は、いつもよりもずっと遅い時間に起きた。
休みなのだから、当然と言えよう。
もう昼過ぎだ。
俺は、顔を洗って制服に着替える。寝癖が酷い髪を整えて、食堂へと向かった。
この時間帯、人はまばらな筈だが、案外人がいた。
そのことに不思議に思ったが、理由が分かった。
どうやらサティが、美人を連れてきたらしい。
「なあなあ、あの人めっちゃ可愛くないか?」
「な!マジで可愛い。新しい教師?」
という会話も聞こえる。
見ると、確かにサティと青髪の美人が、楽しそうに談笑していた。
俺は気になったが、喧騒の中にはあまり行きたくない。
しかし、そんな願いも空しく、サティは大勢の中から、俺を見つけ出したようだ。
まあ、白髪は目立つだろう。
「ラファエルさん!」
「今更だが、ラファエルでいい。同じ平民だろ。――で、その方はどなた?」
青色の髪に、黄色と紫のオッドアイ。気が強そうな美人だ。
ちなみに胸は――お察しだ。
「初めまして。私は、ミリア・オーブ・アストロロジーよ。貴方は?」
「俺は、ラファエルです。……アストロロジー?」
なんだか聞き覚えがあるな。特に、アインの肩書きに。
「聞き覚えがあるの?」
「ミリアちゃん、私とアインとラファエルは同じ平民の生徒会役員だよ」
「あら、そうなのね」
ミリアがそう言って笑った。
「あの子、大丈夫かしら。繊細な子だから、色々と心配で……。それに、サティが恋愛小説を薦めた、なんて言うものだし……」
そう言って、ミリアは心配そうな表情をした。
俺は昼食を頼み、その質問に答えた。
「アインは、周りともうまく付き合っていますよ。恋愛小説については……一応事実ですね」
繊細さの欠片もなさそうな鬼畜教官の姿や、学園を揺るがす事件とかも伏せて伝えた。
というか繊細……?まあ、確かに思い当たるけれども……。
「でもアインは、訓練の時物凄く厳しいの!すっごくスパルタで!ねえ、ラファエル!」
「ああ。普通に殺される。痛みに慣れるため、ってなんだ?でも実際慣れてそうなんだよな……」
俺は、すぐさまサティの言葉に同意した。ミリアは、苦い顔をしている。
「え、殺されてるの?大丈夫?」
「ああ。俺は彼岸だから、死ににくいんだ」
「そうなんだ!」
サティよ、それでいいのか?
「アインと個人的に会っているのかしら?」
「そうですね、同じ彼岸なので、仲間意識もあったんでしょう」
俺は笑顔で答える。
ちなみにアインは、俺がペスケ・ビアンケの一員だから外でも会っているだけだ。
「そう、なら聞きたいことがあるのだけど……」
そう言って、ミリアが切り出した話はこうだ。
どうやら、レイモンドという人物を探しているらしい。
アインと同じ研究者で、受け取って欲しい薬があるのだとか。
なんだか聞いたことがある名前だな。
「知ってますよ」
「まあ、あと何日かあるし、知らなくても――え?知ってる?」
「はい。ただ、アインと一緒に会っていただけなので、俺からレイモンドに連絡を取れるかどうかわかりませんが」
でもあのアインのことだし、きっとレイモンドに話を通している気がするが。
「おそらく観光をしていたら、向こうから来るんじゃないですか?」
「それもそうね」
ミリアは、アインが事前に手を回さない訳がないと、思ったのだろう。
「ねえ、ラファエル。さっきミリアちゃんが、レイモンドさんの名前をマティアス様の前で出したら、物凄く怒っちゃって……。何か思い当たる?」
「さあ。物腰は丁寧だし、マティアス様は不敬にも寛容な方だろ?まあ、アインと一緒にいる、という事に嫉妬してそうだが、俺と一緒にいる時には何も言わないからな」
心当たりがない。何も言わないだけで、物凄く睨んでくるが、そんなに怒るほどでもない。
だって、アインの気持ちは明らかに、マティアスに向いているから。
だから、レイモンドがアインに何かやらかさない限り、マティアスがキレることはない筈だが……。
「……そう、人格的に破綻していなければいいわ」
「破綻はしてないんじゃないですか?拾った子供を可愛がっているらしいですし」
俺は、ウルガの様子を思い浮かべながら、そう答えた。
ウルガがよくなついていた。
だから、人格破綻者じゃない……と思う。
むしろ、終夜の方がやばいと思う。
「そうなんだ……」
「ただ、ちょっと視線が怪しい気がする」
「だめじゃん!」
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「――という事があった」
「は?青髪オッドアイ美人?ずる」
「お前だけ美人と話せるなんかずるいー!!」
「知るか」
わーわー騒いでいたが、お前ら昔ぼろくそに言っていたの忘れたのか?
「一応、その人の二つ名は“全色の魔術姫”だぞ?」
「マジで姫だったじゃん」
「胸は?デカくないと許さん」
「マジできもい。お前、そこまでイケメンじゃないのに言うな」
相変わらずだな、とのんきに眺めていたが、一気に奴らは俺に詰め寄ってきた。
「ここに一回連れてきてよ!」
「は?無理に決まってんだろ。それに、連れてきたところで、アインという超絶美形を見ているんだぞ?何がしたいかは特に聞かんが、無駄だと言っておく」
俺はそうきっぱり言うと、男どもは血涙を流していた。
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