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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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王子の風格

Side Kaname


俺は、ギルドに報告書を提出し、報酬をもらってそのまま宿に戻った。


フィンレーが緊張した面持ちでこちらを見ていた。


「たいしたことなかったな。ゴブリンが住み着いていただけだった。あと、九星の鬼人ともあった」

「九星の鬼人……ラースという名前か?」

「そうだが……知っているのか?」

「知ってるも何も、俺が知っている鬼人はラースだけだ。何故か学園の教師に少しだけ来たらしくてな。俺が来る前にいなくなったそうだから、不思議だ、と言ってたな」

フィンレーは、かなり不思議そうだった。


多分それ、権力が絡んでいそうだな、と思いつつ、理由が分かる訳もないので、フィンレーに同調した。



「じゃあこれで、ステラでの用事はすべて終わりか?」

「そうだな。――すぐにイーストフールへ行くか」

「はあ、緊張するな……」

フィンレーは情けない声を上げる。


「しっかりしろよ?全てはお前にかかっている」

「そもそも、退学しなくてよかったのか……?これ、一年以内で済ませるのも無理だろ」

「――イーストフール王家の求心力が落ちているなら、案外簡単にいくんじゃないか?ほら、オケディア革命なんかは、王家の求心力の低下がなかったのにもかかわらず、早めに革命成功しただろ」

数日で終わった。一月で全て整えていた。

元々の準備もあるだろうが、あれは感心した。


その例を出すと、フィンレーは苦い顔をした。



「そうだけども……。それは、特例だろ」

「そんな言い訳したら、早く終わるものも終わらないだろ」

「ああ……。それもそうだな」

フィンレーの瞳に、強い光が灯った。


正直、この男には何としてでもロースタスの王になってもらわなければならない。

そして、その経歴に傷もつけて欲しくない。


だからこそ、学園を退学させる訳にもいかないし、このタイミングでイーストフールを統一してもらう。



俺たちは荷物をまとめ、ステラを発つ。

今度は、馬車を捕まえてイーストフールに向かう。割高ではあるが、その分月影からもらっているし、駅馬車は疲れる。


「また馬車旅か……」

「いいだろ。俺は月影ほど魔法も上手くないし、天使ほど翼は重さを持ち上げられないからな。そもそも俺は飛べないが」

「いいか?馬車に乗るのも体力がいるんだ」

「そう言うなら、馬を操るのは技術が必要なんだが?体力に加え、頭を使う」

「……」

フィンレーはついに黙ってしまった。


「もっと体力をつけておくんだったな」

「アインはそんなこと、言ってなかった」

「言うか。月影は始祖だぞ?寝てても馬車に乗れるだけの体力はある」

「……」

また黙った。これが国王でいいものなのか。

魔族なら、あっという間に殺されそうだな。人間だからいいのか?


やはり、魔族と人間は違う。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しばらく無言で馬車を走らせていた。

なんとなく後ろが気になって、振り返ってみると、フィンレーが寝ていることに気が付いた。



「呑気だな」

そんなに、誰かを信じていいのか?それも、会って間もない男魔族を。


男魔族は気性が荒い。そんなことも知らないのか?


周りにいた魔族が皆、穏やかだったとしても、どこかしらで気性の荒さが露呈する。

だからこそ、他種族は魔族を警戒する。そう思っていたのだが。



あと、魔族の使う言葉が魔物じみているのも理由かもしれないが。


だが、俺とフィンレーはそこまで仲がいい訳でもない。共通の話題なんか、初日で話し尽くしてしまった。だからこそ、話題がなくて気まずい、という事は決して起きない。



なら、起きるまでにできる限り進んでおこうか。


そう決めて、俺は馬に先を急かした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから一日。ロースタスの一つ、ゼスに到着した。


「ここが、ゼス……」

「さっさと行こう。ここに長居しても、よくない」

俺は、周囲を警戒しながら言う。


ゼスは、群を抜いて治安が悪い国だ。馬車なんか持っていると、すぐに襲われるので、ゼスに入る直前に売ってしまっていた。


だから徒歩で行くしかないが、俺もフィンレーも、貧民街に入ったことはない。

当然、そこで暮らしたこともない。


だからこそ、ここの空気管を纏う芸当なんか、できる訳がない。



だからこそ、目を付けられる。



「おい兄ちゃんたち……。ちょっと金を置いてってくれねえか?」

「ああ、痛い目見たくないだろう?」

「そのきれいな顔に、傷を付けたくなきゃ、さっさと言う事聞きな?」

「ほら、兄ちゃんたちイケメンなんだからさあ、きっと裸でもおかしくないって」

そう言って、五人くらいのガラの悪い男どもに囲われる。


俺は、溜息を吐いた。フィンレーは、かなり堂々としている。



「な、なんなんだよ!」

「お前ら、命が惜しけりゃ、そこをどけ。この私が一体誰なのか、分かっていての所業か?」

「おい……」

「答えろ!!」

流石王子。一喝で相手を怯ませた。


「どかないか?何が何でもどかないというなら――容赦はしないぞ?」

そう言って、俺に目を合わせるフィンレー。俺は、フィンレーの意を汲んで、手の平に炎を作る。


火属性魔法を操る俺に、破落戸(ごろつき)はたじろいだ。


そして、小声で何かを言い争った後、すぐに逃げていった。



「ふう、こんなものか」

「おい……。お前がそうしなくとも、俺が魔法で一掃できたのに」

「馬鹿か。そんなことしたら、目立つだろ。それに、できれば人死には避けたい」

「そんな甘いこと言ってる場合か……?」

俺は、フィンレーに呆れたが、フィンレーは意志を変えようとはしなかった。


「それに、国際問題になったらどうする。全員、そんなことを見逃してくれるほど、甘くはないぞ」

「そうだろうな」

確かに、あれでも一応王だ。そんなこと、分かり切っている。



「なら、行動を慎んでほしい。今から、イアンは俺の部下として見られるのだから。本心はどうであれ、な」

「分かった。気を付けることとするよ」

確かに、フィンレーの言っていることは正しい。


魔族は基本的に、暴力で解決できるなら、すぐに暴力で解決しようとする。それは、人間にとっては野蛮に映るだろう。



――お手並み拝見かな?



物理的な強さなど、何も持たない王子。彼が一体、どうやってロースタスを統一するのか。いや、今回の目的はイーストフールの統一だったな。


そんなことを思いつつ、イーストフールへと急いだ。

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