王子の風格
Side Kaname
俺は、ギルドに報告書を提出し、報酬をもらってそのまま宿に戻った。
フィンレーが緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「たいしたことなかったな。ゴブリンが住み着いていただけだった。あと、九星の鬼人ともあった」
「九星の鬼人……ラースという名前か?」
「そうだが……知っているのか?」
「知ってるも何も、俺が知っている鬼人はラースだけだ。何故か学園の教師に少しだけ来たらしくてな。俺が来る前にいなくなったそうだから、不思議だ、と言ってたな」
フィンレーは、かなり不思議そうだった。
多分それ、権力が絡んでいそうだな、と思いつつ、理由が分かる訳もないので、フィンレーに同調した。
「じゃあこれで、ステラでの用事はすべて終わりか?」
「そうだな。――すぐにイーストフールへ行くか」
「はあ、緊張するな……」
フィンレーは情けない声を上げる。
「しっかりしろよ?全てはお前にかかっている」
「そもそも、退学しなくてよかったのか……?これ、一年以内で済ませるのも無理だろ」
「――イーストフール王家の求心力が落ちているなら、案外簡単にいくんじゃないか?ほら、オケディア革命なんかは、王家の求心力の低下がなかったのにもかかわらず、早めに革命成功しただろ」
数日で終わった。一月で全て整えていた。
元々の準備もあるだろうが、あれは感心した。
その例を出すと、フィンレーは苦い顔をした。
「そうだけども……。それは、特例だろ」
「そんな言い訳したら、早く終わるものも終わらないだろ」
「ああ……。それもそうだな」
フィンレーの瞳に、強い光が灯った。
正直、この男には何としてでもロースタスの王になってもらわなければならない。
そして、その経歴に傷もつけて欲しくない。
だからこそ、学園を退学させる訳にもいかないし、このタイミングでイーストフールを統一してもらう。
俺たちは荷物をまとめ、ステラを発つ。
今度は、馬車を捕まえてイーストフールに向かう。割高ではあるが、その分月影からもらっているし、駅馬車は疲れる。
「また馬車旅か……」
「いいだろ。俺は月影ほど魔法も上手くないし、天使ほど翼は重さを持ち上げられないからな。そもそも俺は飛べないが」
「いいか?馬車に乗るのも体力がいるんだ」
「そう言うなら、馬を操るのは技術が必要なんだが?体力に加え、頭を使う」
「……」
フィンレーはついに黙ってしまった。
「もっと体力をつけておくんだったな」
「アインはそんなこと、言ってなかった」
「言うか。月影は始祖だぞ?寝てても馬車に乗れるだけの体力はある」
「……」
また黙った。これが国王でいいものなのか。
魔族なら、あっという間に殺されそうだな。人間だからいいのか?
やはり、魔族と人間は違う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しばらく無言で馬車を走らせていた。
なんとなく後ろが気になって、振り返ってみると、フィンレーが寝ていることに気が付いた。
「呑気だな」
そんなに、誰かを信じていいのか?それも、会って間もない男魔族を。
男魔族は気性が荒い。そんなことも知らないのか?
周りにいた魔族が皆、穏やかだったとしても、どこかしらで気性の荒さが露呈する。
だからこそ、他種族は魔族を警戒する。そう思っていたのだが。
あと、魔族の使う言葉が魔物じみているのも理由かもしれないが。
だが、俺とフィンレーはそこまで仲がいい訳でもない。共通の話題なんか、初日で話し尽くしてしまった。だからこそ、話題がなくて気まずい、という事は決して起きない。
なら、起きるまでにできる限り進んでおこうか。
そう決めて、俺は馬に先を急かした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから一日。ロースタスの一つ、ゼスに到着した。
「ここが、ゼス……」
「さっさと行こう。ここに長居しても、よくない」
俺は、周囲を警戒しながら言う。
ゼスは、群を抜いて治安が悪い国だ。馬車なんか持っていると、すぐに襲われるので、ゼスに入る直前に売ってしまっていた。
だから徒歩で行くしかないが、俺もフィンレーも、貧民街に入ったことはない。
当然、そこで暮らしたこともない。
だからこそ、ここの空気管を纏う芸当なんか、できる訳がない。
だからこそ、目を付けられる。
「おい兄ちゃんたち……。ちょっと金を置いてってくれねえか?」
「ああ、痛い目見たくないだろう?」
「そのきれいな顔に、傷を付けたくなきゃ、さっさと言う事聞きな?」
「ほら、兄ちゃんたちイケメンなんだからさあ、きっと裸でもおかしくないって」
そう言って、五人くらいのガラの悪い男どもに囲われる。
俺は、溜息を吐いた。フィンレーは、かなり堂々としている。
「な、なんなんだよ!」
「お前ら、命が惜しけりゃ、そこをどけ。この私が一体誰なのか、分かっていての所業か?」
「おい……」
「答えろ!!」
流石王子。一喝で相手を怯ませた。
「どかないか?何が何でもどかないというなら――容赦はしないぞ?」
そう言って、俺に目を合わせるフィンレー。俺は、フィンレーの意を汲んで、手の平に炎を作る。
火属性魔法を操る俺に、破落戸はたじろいだ。
そして、小声で何かを言い争った後、すぐに逃げていった。
「ふう、こんなものか」
「おい……。お前がそうしなくとも、俺が魔法で一掃できたのに」
「馬鹿か。そんなことしたら、目立つだろ。それに、できれば人死には避けたい」
「そんな甘いこと言ってる場合か……?」
俺は、フィンレーに呆れたが、フィンレーは意志を変えようとはしなかった。
「それに、国際問題になったらどうする。全員、そんなことを見逃してくれるほど、甘くはないぞ」
「そうだろうな」
確かに、あれでも一応王だ。そんなこと、分かり切っている。
「なら、行動を慎んでほしい。今から、イアンは俺の部下として見られるのだから。本心はどうであれ、な」
「分かった。気を付けることとするよ」
確かに、フィンレーの言っていることは正しい。
魔族は基本的に、暴力で解決できるなら、すぐに暴力で解決しようとする。それは、人間にとっては野蛮に映るだろう。
――お手並み拝見かな?
物理的な強さなど、何も持たない王子。彼が一体、どうやってロースタスを統一するのか。いや、今回の目的はイーストフールの統一だったな。
そんなことを思いつつ、イーストフールへと急いだ。
いいね、評価、感想お願いします!




