りんご飴と串肉
「行ってらっしゃいやせ~」
トゥルクに見送られ、僕たちは祭りへと向かう。
「……ちなみに場所はどこだ?」
「……」
ヒュー兄さんの言葉に、その場の全員が固まった。
「ヒュー兄さん……?」
「ほら、祭り!楽しみだから!」
赤面したヒュー兄さんが、必死に言い訳していた。僕は思わず笑ってしまった。
いつの間にか、祭りへの抵抗感はなくなっていた。
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Side Sergent
僕たちは、平民街へと降り立っていた。周囲の人間は、僕たちの方を注目しているが、獣人たちはそうでもない。
やはり、羊獣人の僕と、うさぎ獣人の変装をしているヒューが、物珍しいのだろう。
アインは、全く認識されていない。
そんなアインは、あたりを物珍しそうにきょろきょろしていた。
「あれ、なんだろう?時々子供が食べているのを見ていて……」
そう言って、アインが指さす先にあるのは、りんご飴だった。
下手すれば、アインはリンゴ丸々一個を見たことないのかもしれない。
いや、それはないか。アップルパイ作ったことあるって言ってたし。
「買うか?」
「じゃあ……」
ヒューがいたずらっぽく笑う。
アインが頷くと、ヒューはりんご飴を買いに行った
やっぱり、子供はこうでなきゃね。辛い選択なんか、させたくない。
「でもこれ、一体何の祭りなんだろう……」
「ああ、確かに。ちょっと聞いてみる?」
「なら獣人に聞いてみた方がいいよ。人間はちょっと……」
アインはそう言い、僕たちを見る人間を目で示していた。
ちょっとばかし、視線に憎悪が混ざっている。そんな気がした。
「分かった。聞いてみるよ」
そう言って、僕はキリン獣人の女性に話しかけてみた。
「すみません」
「はい、どうしましたか?私今とってもいい気分なのよ?ちょっと話聞いてくださる?」
「はい、どうしました?」
「私たち獣人は、国王に重税とかを強いられていたじゃない?その国王をどなたか殺してくださのよ!まずはこれで重税から脱することができるわ」
そう言って、キリン獣人の女性は笑っていた。
……国王殺されたの、昨日の夜だった気がするけど。そしてそれ発見されたの、今朝だった気がする。
そうなると、この祭りに参加してよかったものか、と考えてしまった。
「だって、近所のアリスさん家は子だくさんなのよ?税金が重くて大変って!それに肉食系と草食系は仲が悪いのに、それも考えてくれないの!」
「それは大変ですね……」
同情しつつ、アインの方を見ると、りんご飴を三個持ったヒューと合流していた。
僕もすぐに合流したいが、まだこの女性は話している。
「それにロイナさんのとこは旦那さんが亡くなって、大変なのはわかるんだけど、それでも盗むのは駄目じゃない?可哀想なのはそうなんだけどね」
「そうですね。あの、そろそろ……」
「それとね、ジェーンさんとこは――」
僕が話を終わらせようとしても、まだ話が続く。
僕が本気で困っていると、救いの手が現れた。
「サージ!ほらさっさと行くぞ!」
ヒューの声が聞こえる。
僕はキリン獣人の女性に礼を言って、連れが待っていることを告げ、その場を去った。
「ごめんね。ちょっと捕まっちゃって」
そう言って、僕はヒューからりんご飴を受け取った。
アインは、りんご飴を舐めている。結構大変そうだが、りんご飴とは本来、そういうものだ。
「俺肉食いたい」
ヒューがりんご飴を舐めながらそう言う。
「さすがに合わないでしょ」
「そういうのはな、野暮って言うんじゃねーのか?俺の金で買うんだしいいだろ」
アインの言葉に、ヒューがそう返す。一緒に列に並んで、串肉を人数分確保する。
「ほら、熱いうちに食え」
「う、うん」
立ち食いなんかしなかっただろうに、アインは丁寧な動作で串肉を食べる。
僕も同じく食べる。うん、美味しい!
僕たちは鉄串をヒューに渡し、ヒューはそれを店員に渡していた。
それをアインは興味深そうに見ていた。
「あれ、使い捨てじゃないからな。鉄串を店員に渡せば、お金がもらえるんだ」
そう言って、店員から渡された銅貨を見せる。
全てが新鮮そうなアインを見るのが、楽しい。
「ところでサージは何してたんだ?」
「ああ、この祭り、なんか急に始まったでしょ?なんでかなって」
「ああ、そうだったな。なんか狂喜乱舞してたな、屋台の店主とか、客とか」
確かに、この祭りはかなり盛り上がっている。
「ほら、トゥルクが国王暗殺の号外を持ってきたでしょ?あれだって」
「なかなかぶっ飛んでんな。自分の国の王が死んで、そこまで嬉しがるとか。そしてそれを止めない貴族も貴族だな」
「そうだね」
「この国、貴族いないよ?」
「「え?」」
アインの言葉に、僕とヒューは目が点になった。
「この国、そこまで人間は多くないからね。ただ、富豪が他国で言う貴族みたいな立ち位置にはなりそうだね。この国には貴族はいない」
「……そうなんだ」
「そう。それに人間は、獣人に逆らえないんじゃないかな。多分国王を殺したのは獣人だ、と思っていそうだし」
アインは、りんご飴を食べながらそう言った。
どうやらりんごが出てきたらしく、困惑している。
「それは普通にかじるんだ」
「うん……」
アインは素直に頷いて、りんごをかじった。
「なんか、微妙だな……」
僕は、素直にそう感じた。人が死んで嬉しい、なんて思わない性格だからかもしれない。
ヒューもしょっちゅう、呪ってやろうか?と言うが、アインの目の前では絶対言わないし、命は大事にする方だし。
なんだか、ポガチョスの国としての在り方に、狂気を感じた。
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