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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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すれ違う想い

「連れて来やした!」

「急ににゃんだよ。よく(にぇ)てたってのに……」

トゥルクが、元気よく僕たちの部屋へと入ってきた。


トゥルクに引きずられるように入ってきた青年は、紫の猫耳尻尾が覗く、背の高い猫獣人だった。ハロルド様に似た雰囲気を持つ彼は、トゥルクに文句を言っていた。


その猫獣人は、僕たちを見て、物凄く驚いた。



「トゥルク!何故早く言わない!」

急に口調が変わった彼に、トゥルクは笑っていた。


「あっしは、さっきの口調の方が好きでっせ」

「知るか!きゃ、客に醜態を……」

「まあまあ落ち着きなせぇって」

顔を真っ赤にして憤慨する猫獣人に、トゥルクはやんわりと抑え込んでいた。


「それで、トゥルク。彼が例の調査員かい?」

「そうでっせ!ほらノアス、しっかりするんでさぁ」

「うう……。それで、一体どうしたのですか?」

猫獣人――ノアスは無理矢理に調子を戻し、僕に用件を聞いた。


「トゥルクから聞いたけれど、王族と密会していた青髪の男と茶髪の女。その二人は――()()()()()()()()()?」

僕は、久遠語で話しかける。


魔族は、魔物と近い所がある。だからこそ、久遠語は魔物じみたところがある。



「よくわかりましたね。ええ、そうです、そんな感じでした」

ノアスは、僕の口から出た言葉に、驚いていたが、そのあと何度も頷いていた。


「月影様、もしや密会相手のこと、何か思い当たりがあるので?」

「どうだろうね。彼らじゃなければいいけど。――まあ、早くこの国を出なきゃね」

「そうなんですかい?それは寂しくなりやすなぁ」

のんびりしているトゥルクに、ノアスは肘でつんつんとトゥルクをつついた。


「相変わらずトゥルクは馬鹿だな。密会相手、皇家の誰かなんでしょう」

「え!?そうなんで!?」

「髪色的に、皇碧生第六魔王子殿下と皇栗花落(つゆり)第五魔王女殿下だろうな」

「当たってる。碧生兄上と栗花落姉上は、僕が家出する前から世界中を旅していたから」

トゥルクは、僕の正体を突き止めても、なんてことない反応をしていたのに。


「姐さんの方針で、客は売りません。でも、守り切れるとも限らないから、すぐにこの国からでは方がいいですね。――そこの馬鹿チーターとは違って、ある程度分かっているつもりですから」

ノアスはそう言った。流石情報屋だ。僕の事情を、ある程度知っているのだろう。



あの二人に見つかれば、確実に久遠に連れ戻され、すぐに死ぬことになるだろう。

流石に、そこまでは見当はついてない筈だが、僕が彼らから逃げ回っていることを察してくれていた。



「まあ、どうなるかわからないし、僕から調べると、逆にこっちに辿り着かれる。碧生兄上と栗花落姉上は、僕を守ることはしない。そして、僕が見つかれば、いくら時雨兄上でも、僕を守ることはできないだろうね」

「闇深い……」

サージェント兄さんがドン引きしていた。ヒュー兄さんも、皇家の内情なんか知らないため、驚いた表情で固まっていた。


「権力者の家なんか、そんなものでしょ。僕がいない方が上手く回るし」

「ここで、大国の問題を持ち込まないでいただきたいのだが……」

「問題起こすなら素直に久遠に帰るよ」

僕はあっけらかんと答えた。そもそも、この命は惜しくない。ただ、邪神討伐の戦力が少なくなるのが嫌なだけだ。


昔の嫌な記憶が蘇り、内心苦しくなるのを、僕は無視する。


「そ、そうですか……」

「ノアス、変なこと言うんじゃねぇ。――すいやせん、その久遠の二人について、もうちょっと詳しく探ってきやす。分かったことはすぐ持ってくるでさぁ」

「あまり無理しないでね」

僕はそう言って、トゥルクとノアスを見送った。



「おい、アイン!」

「ちょっと、ヒュー!」

2人の姿がすっかり見えなくなった後、ヒュー兄さんが、僕の胸ぐらをつかむ。僕はされるがままで、冷たい視線をヒュー兄さんに向けた。


「お前、今自分がどんな状況なのかわかってねーようだな?」

「どうでもいいよ。ともかく、まだ久遠に行くつもりはないから」

「……はあ、そうかよ」

僕を乱雑に突き飛ばすヒュー兄さん。そんな僕に慌てて駆け寄るサージェント兄さん。


「なら今すぐ久遠へ行け。俺の力は万能じゃない」

「呪いのこと?どうしたって、僕が死ぬことには変わらない。――まさか、今更怖気づいたの?」

「そんな訳ねーだろ」

ヒュー兄さんは、怒りで拳が震えていた。


僕は、視界に入った黒髪が、更に黒くなっていたのが見えた。それで、ヒュー兄さんが怒った理由を察した。


「やるならステラか、セオドアか、久遠でにしろ」

ヒュー兄さんはそう言い捨て、頭冷やしてくる、と言って外に出ていった。


「あのさ、もうちょっと――」

サージェント兄さんは何かを言いかけて、やめた。


「僕は、指令をつづけるよ。異能力を使えば、そもそも誰にもバレずに、忍び込むことはできるし」

「……」

サージェント兄さんは、ずっと黙ったままだった。



ヒュー兄さんが怒ったのは、僕が悪いことくらいは分かっている。僕にかかっている呪いは、一気に降り積もりすぎると暴走状態になる。


欠片でも理性がある衝動とは違い、呪いによる暴走は、本能むき出しの状態になる。

だからこそ、手当たり次第に八つ当たりする。


昔は、僕が事前に作っていた符や、オットー兄さんの異能力に頼っていた。

そうでもしない限り、国くらいは簡単に破壊してしまうからだ。



だからこそ、面倒ごとが嫌いなヒュー兄さんは怒った。


僕は、そう結論付けると、異能力を自分にかけ、王城へと侵入した。

暗殺をするために。

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