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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第五章 Unidentified

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生まれ故郷

Side Kaname


「そンなに警戒すンなって!」

ラースは豪快に笑うが、普通に考えて、ここで人と会うことがあり得ないのだが。


「ここ、俺の生まれ故郷。またゴブリンどもが住み着いたらしくてな。――まあ、アンタが全部やってくれたみてェだけどな!」

「ああ。――故郷がゴブリンに占拠されたのか……」

「ン?ああ、違う違う。俺、ゴブリンの突然変異ってヤツなンだ」

「ああ、成程……」

俺は、ラースの言葉に納得した。



彼岸は、魔物から生まれる場合がある。

彼岸によって、どんな魔物から生まれるのか、違うのだが、鬼人はゴブリンから生まれることがある。



「へえ、深く聞かないンだな」

「俺は吸血鬼なもんでね。彼岸については、ある程度知っている」

最も、ラースも知っていそうな素振りだが。


にしても、魔物から生まれたのか。とんでもなく珍しいな。

久遠が、そういう魔族を減らすために、色々とやっているだろうに。


「なら、ここを潰すのは……」

「別に問題ねェぜ?俺、ここから出る時、ゴブリン集落のゴブリン、皆殺しにしたンだ」

けろっとしているラースの言葉に、嘘はないのだろう。


にしても見事に皆殺しだなァ、と周囲を観察するラース。

変に怒りを買わずに、俺はほっとしていた。


「アンタ、そう言えば吸血鬼だったンだな」

「あ、ああ。そうだが……」

「とんでもねェ怪力だな!俺の知り合いの吸血鬼は、鍛えすぎると飛べなくなる、と言って、筋肉あンまり鍛えねェんだよ」

確かに、俺のような吸血鬼は珍しいだろう。


吸血鬼の翼は、そんなに重いものを運べない。

だから、吸血鬼は細身の者が多い。当然、月影も戦っている割には細い。


「俺は人狼の血が入っているから、空を飛べる利点を手放しても、問題ないんだ」

「ああ、成程な!」

にっこり笑うラースに、すっかり俺は毒気が抜かれていた。


「結構残ってンなァ……。元々あった、廃墟化した家を使ったンだな」

「懐かしいか?」

「どうなンだろうな。もう、俺は九星の一員だからな。いくら、ここで過ごした時間が長くとも、俺はここから出ることを選んだしな」

「そうか……」

俺は、表面で何でもないように取り繕っていたが、思わぬところで、思わぬ名前を聞き、動揺していた。



九星は、月影が作った天才の部隊。

つまり、ラースは“終焉の狂戦士(バーサーカー)”だろう。鬼人の彼岸の力的にも。



それは、確かに俺は足元にも及ばないだろう。だが、まさか九星の一人が、ゴブリン村出身とは、流石に予想もつかなかった。


俺は、月影がやっていた研究や、月影がしばらくオケディアに滞在していたこと、月影がアインという名で、九星の一員であることしか知らない。


月影は、最も力を持つ組織を、自分のために使わない訳がない。

だからこそ、月影の自殺防止策の中に、九星を組み込まなかった。



果たして、目の前の男は情に厚いのだろうか……。



まあ、少なくとも、こんな血生臭い空気の中で、笑っていられる図太さを持つ理由は分かったのだが……。



「あんたは、どうしてここに来たンだ?」

「――指名依頼で、ここの調査を依頼されたんだ。ゴブリンがいるなら、討伐しろ、という追加オプションも付けて」

一瞬、言っていいものか逡巡(しゅんじゅん)を巡らした。

しかし、問題ないだろう、と考え、結局言うことにした。


「――アンタ、佐倉要か?」

「は……?」

一瞬で本名を突き止められ、何の反応も返すことができなかった。


しかし、それが認めているも同然だという事に考え付き、俺は何か反応を返さなければ、と思うが、焦りが先行して、結局何も言えない。


「悪ィ、俺、アインの正体を知ってる」

「……そんな訳ないだろ」

「いーや、知ってる。なンとなく、ピンときたンだ」

ラースの言った内容に、俺はなんだか納得してしまった。


野生児の野生の勘は、時々、かなり鋭いからだ。

恐らく月影も、突然そんなことを言われて、面食らったんだろうな、と思った。


いかにも馬鹿そうなのに、侮ることができない程の聡明さがある。

本当に、油断できないな。



「そもそも、ここ知ってンの、かなり限られてンのに、更にここの調査なんて、アイツ以外誰もしようとも考えねェだろうな」

「ここ、そんなに特別な土地なのか?」

俺は、ラースに気になったことを訊ねた。


「別に?」

「はあ?」

短く返答された言葉に、俺は思わず呆気に取られている。


「ただ、俺の出身地なだけ。ただ、アインにとって、別の価値があるのかもな」

「はあ、こんなんで指名依頼達成でいいものなのか……」

「いいンじゃねェか?」

「そんな楽観的な……」

軽いラースに、俺は頭を抱えた。

そんな俺を見かねたのか、ラースがとあることを提案してきた。


「なンなら聞くか?」

「は?聞く?」

「おう!九星は、テレパシーが使えるンだ!」

それ、言っていいやつか……?


俺は、口に出さずとも、そんなことを考えた。



ラースは、俺の返答を待たず、どうやらテレパシーで月影に聞いている。

笑ったり、しょげたり、くるくる変わる表情を見て、月影と会話しているラースを待った。



「怒られた」

「だろうな」

思い切りしょげてたしな。



「あと、いいって。そのままギルドに報告してくれ、って言ってたぜ!」

「ありがとう」

「これくらいなら、お安い御用だぜ!」

ニッ、と笑うラースは、いい人物なのだろう。


ただ、秘密を守るのは苦手そうだ。


俺はそんなことを考えつつ、ラースと共に帰路につくことにした。

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