ゴブリンと鬼人
Side Kaname
翌日。俺は、ゴブリン村への調査に出かけた。
冒険者ギルドでゴブリン討伐の依頼を請け負う。
冒険者ギルドには、依頼を受けようと、ガタイのいい冒険者たちが集まっていた。
中には、朝から酒を胃に流し込んでいる者もいる。
「手続きを頼む」
依頼書が張り付けられたボードから、目的の依頼書を剝がし取り、受付にA級冒険者を示す、金の冒険者カードと共に、依頼書を提出した。
「え、A級……!?」
一瞬、大声を出してしまった受付嬢に、内心舌打ちをする。
周囲から、一気に視線を集めた。
冒険者のランクは、S級が最大だが、A級でもかなり一目を置かれる存在だ。
更に、今いるA・S級は、ほとんどが40代以上なのだ。見た目20台の俺が、A級冒険者なのが、信じられないのだろう。
「こ、この依頼は……」
受付嬢は、俺がこの依頼を受けることを渋った。
「この近くの森にある、ゴブリン村の調査の依頼を、指名依頼で受けている。――確認願おうか?」
「は、はい!ただいま!」
受付嬢が、慌てて奥に引っ込む。
受付嬢が渋ったのは、正当だ。
ランクが低い冒険者が、無理な依頼を受けないように、そして食い詰めないように決められた制度がある。
自分のランクと、その二つ下までの依頼しか受けることができない。
俺の場合、俺の冒険者ランクのA級、そしてB・C級の依頼を受けることができるが、ゴブリン討伐の依頼は、D級の依頼だ。
だから本来、俺はこの依頼を受けることができないのだが、例外が存在する。
そのうちの一つが、魔物の脅威度が上がった場合だ。
この森は、なぜかゴブリンの脅威度が、他のゴブリンよりも高い。
昔は、C級冒険者でさえも、ゴブリン討伐の依頼を、危険だから、という理由で断られたことがあったらしい。
「お待たせいたしました。依頼を受理します」
受付嬢が戻ってきて、すぐさま依頼を受理した。
月影が俺にした指名依頼のお陰だろう。
その指名依頼の内容は、凶暴なゴブリンが、村を形成しつつある可能性がある場所への調査、および討伐。
この依頼が、ギルドで出されたという事は、ギルドもそのゴブリンの脅威度が高いことを、認めたという事だ。
だから、俺は例外的にこの依頼を引き受けることができる。
「森にいるゴブリンの討伐を、他の冒険者に控えてもらうよう、呼びかけて欲しい。――今、どんな脅威があるか、分からないからな」
「承りました、イアン様」
俺は、あえて大声でそう言い、受付嬢も、そのことを了承した。
「おい!俺たちの仕事を奪うな!」
「そうだ!よそ者は帰れ!!」
俺たちの会話を聞き、怒った冒険者共が騒ぐが、俺は無視する。
変に時間を取られてはたまらないため、そいつらに殺気を飛ばし、そして森へと歩を進めることにした。
俺の殺気にあてられ、思わず野次を飛ばした連中が失禁したらしいが、それは知る由もない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
森を進んでいると、ゴブリンと出会った。
おんぼろの錆びた武器と、ボロボロの腰布。独特のくさい獣臭は、あまり冒険者から好かれていない理由の一つだ。
「ギャギャッ」
「ギャ、ギャギャッ」
「グガ?」
耳障りな声を持つ魔物に、俺は容赦なく攻撃を仕掛けた。
三対一。元々ゴブリンは強くないのと、奇襲したのもあり、二匹を一気に絶命させた。
「ギッ!ギャッ!」
ゴブリンは驚き、すぐに俺に背を向けて逃げる。
敵に対し、背を向ける行為は自殺効果だが、このゴブリンには、村に連れて行ってもらわないと困る。
二匹から、討伐証明部位を素早くはぎ取り、逃げた一匹を追った。
「ギャギャッ!ギャッ!!」
ゴブリンは、村に辿り着き、仲間に脅威の存在を知らせる。
「グギッ!」
もう用なしだ。
俺は、ここまで案内してくれたゴブリンを殺し、姿を現した。
「ギャギャギャ!!!」
侵入者を知らせるように、目の前のゴブリンが、大声を上げた。
俺は縦に一閃し、そいつの命を刈り取る。
声が聞こえたのか、俺の周りに、ゴブリンが集まってきた。
「さて、激しい運動をするか」
俺は、デーモンブレイズトカゲ以降で、最も戦いがいがありそうな予感がし、舌なめずりをした。
「ギッ!」
三匹のゴブリンが、俺に同時に飛び掛かる。
俺は、空中にいる奴らに、血操術で脳天を貫く。
驚いて固まった奴の首を、剣で飛ばし、そして俺に襲い掛かろうと近づいてきたやつを、返す剣で攻撃する。
ゴブリンを蹂躙し、二十匹くらい殺した頃だろうか、ついにホブゴブリンが現れた。
通常のホブゴブリンよりもずっと大きいが、その分動きが重鈍だ。
棍棒を持った腕を切り落とし、袈裟斬りをする。
絶命するホブゴブリンを無視し、他のホブゴブリンを相手取る。
そんなことをして、約四半刻。キングゴブリンも現れたが、そこまで苦戦はしなかった。
だが、俺の実力は恐らくS級クラス。
だから、普通のA級なら、苦戦は間違いないだろう。
ホブゴブリンはともかく、キングゴブリンはB級冒険者パーティーが必要な魔物だ。
更に、ここのゴブリンはみな、強化されている。
まさか、あそこまで魔法を巧みに使うとは思わなかったが、十分もかからず屠った。
「かなり多かったな……」
俺は血で濡れた剣から、血をふき取り、一息をついた。
「ここの調査か……」
俺は、建てられた小屋一軒一軒覗いて回るが、特に変わったところはない。
強いて言えば、女が一人もいないことだが……。それも、最近できたらしい村なので、納得できる。
ゴブリンは、他種族の雌の腹を借りて、繁殖する。
だから、女冒険者に藪蛇のごとく嫌われている。
「というか、なんでここはこんなにゴブリンが強化されるんだ……」
他の魔物は、強化されない。だからこそ、なおさら不思議だったのだ。
だが、俺はそれに関しての知識はない。その原因を突き止めるのは、月影の役割だ。
ざっと討伐部位を回収しながら見たが、特に気になるところは見当たらなかった。
そろそろ引き上げようか、と考えていると、足音が聞こえた。
ゴブリンか?と思ったが、裸足の足音とは違うことに、すぐに気づく。
なら、冒険者か?と思ったが、そうじゃないと気づいたのは、振り返り、相手を認識した時だった。
「……誰だ?」
「おお、すげェな、こんな数のゴブリンども殺すなんてなァ。一人か?」
独特な発音の男が、そこにいた。
「ああ。お前もか?」
「ああ!俺の名はラース!アンタは?」
「俺の名は、イアン・ネルソン。A級冒険者だ」
「へェ、A級冒険者にしては強ェな!」
「あ、ああ、ありがとう……」
なかなか見ない程の明るさだ。ここが、血で濡れた場所じゃなければ、微笑ましいが、この状況じゃ、ただのサイコパスのようにしか見えない。
――にしても、隙ないな、この男……というか、鬼人か?
多分、勝てない。
「――ここに、何しに来たんだ?」
俺は、ひとまずこの男――ラースの目的を探ることにした。
ラースは、意味ありげな笑みを、顔に浮かべた。
いいね、評価、感想お願いします!




