ステラへの小旅行
めっちゃ時系列おかしかったので、直します!
Side Finlay
俺は、要と共に、アインの頼みごとをこなすべく、ステラへ向かっていた。
ステラは、異能力者が唯一生まれる国。
領土は、超古代国家の中でも最小ではあるが、なめてかかると痛い目に合う。
そんな国のはずれの森を住みかとしていた、ゴブリンの村。
そこの調査だ。
どうやら、ゴブリンが集まりつつあるらしいのだが、真偽は不明だ。
「そうだ、これから俺のことはイアンと呼んでくれ」
「イアン?」
「そ、イアン・ネルソン。俺がセオドアで暮らしている時の名だ。ほら、佐倉家は久遠でもかなり力を持つ家だし、要だと、セオドアじゃあいかにも外国人、という感じで馴染めないだろ?」
そう言いながら、要は苦笑している。俺は、要の言葉に納得した。
「確かに、佐倉要のまま過ごすのはまずいか……」
「曲がりも何も、俺は佐倉家の跡継ぎだからな。流石にその名前を出したら、実家にとっ捕まる」
「は……?」
俺は、要の予想外の言葉に思わず声が漏れる。
「あ、あ、あ、跡継ぎ!!??」
「そう。当主に子供がいないのと、当主夫妻がかなり此岸に近いからな。だから、分家の中から、かなり力が強かった俺に、白羽の矢が立った、という訳だ。俺、ちょっと先祖返りしてて、そこそこ力が強い方の純血だからな」
「……本家ではないのか」
「そこなのか?――と言っても、吸血鬼の始祖、月影との婚約の実績があるからな。俺が思っている以上に、俺の力は強いかもしれないが、それも相まって、当主夫妻の間に子ができても、俺が跡を継ぐことは決まっているな」
要はそう言っているが、それって今の状況、佐倉家にとっては、かなりまずいのでは……?
「そもそも、月影とも結婚しない、俺はスーと結婚する、他はいらない、と言っているのに、無理に政略結婚を迫るからな」
「まさかそれが嫌で……?」
そんなの、どう考えてもお前が悪い。最悪スーさん消されるぞ。
「彼岸の扱いなんか、彼岸がよく知っている筈なのに、当主も両親もほぼ此岸だからな。だから、俺が月影の美貌に骨抜きになるとでも思っていたらしい」
いや、普通はそうなんだよ。相手がどんな人なのかは知らないが、月影の美貌に、コロッといかない人物がいるのか。
普段のあれでも、ちょっと危ないところあるのに。
彼岸ってなんかすごいな……。
「ま、胸糞悪い実家のことは置いといて。月影は周りに誰もいないところで俺を要と呼ぶからな。だが、今はそういう状況を常に用意できる訳もないし、言い間違いも避けたい」
「分かった。気を付ける」
俺は、要の言葉に頷いた。
駅馬車に乗る。
俺は王子だから、駅馬車というものに乗ったことがなかった。
更に、荷物はほとんど要が亜空間収納魔法でしまってくれたため、かなり楽だった。
クッションを座席に敷き、その上に座る。
長時間馬車に揺られるのだから、クッションは必須だ。
「寝るか。ここから乗り換えの駅まで、まだ時間がかかるし、朝早かったしな」
要はそう言うと、すぐに寝る体勢になった。
俺も、要に倣って眠ることにした。
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体が揺すられる感覚に、俺の意識が浮上する。
「降りるぞ」
要の言葉に、俺は頷いて、手荷物と共に下車した。
駅馬車を何度か乗り換えし、すっかり移動だけでくたくたになってしまった。
二日かけてステラの、ゴブリン村近くの街に到着した。
異能力者だらけの国だが、特に変わったところはなかった。
普通の辺境にある街、そんな印象だった。
宿を取り、俺はだらしなくベッドに寝転がった。
「体力ないな」
「これが普通だ」
要の軽口に、俺は言い返す。
要はケロッとしているが、そもそも魔族と人間では、体力が違いすぎる。
更に、要は普通の魔族よりも体力が多いだろう。
そんな要と、碌に武芸をたしなんでいない俺を比べるな。
「明日は調査だ。まあ、ゴブリンがいる可能性がある以上、フィンレーは行かなくていい」
「なら、俺は行かない。行ったところで、足手纏いにしかならないからな」
「ああ。それはよかった」
要は上着を脱いで、ハンガーにかける。
俺はそれをぼんやりと眺めていた。
「なあ、お前と月影は婚約者同士なんだよな……?」
「そうだな。まだ正式に婚約解消してないから、そうなるな」
「それって……」
「浮気って?魔族には浮気や不倫の概念はないぞ。それに、この婚約は皇家にも、利益があったから例外的に結んだ婚約だしな」
要は、後ろを向いていて、どんな表情をしているのか、分からなかったが。少なくとも淡々とした声に、感情がなかったように感じた。
「お前が、佐倉家の跡取りについては……?」
「それ聞くか?――まあ、俺以上に適任がいなかったからな。逃げたのは、俺とスーの関係が、実家にばれたからだ」
人間だったら、要が百悪い。絶対悪い。
「浮気の概念はないんだろ?」
「月影とさっさと結婚して、スーを妾に囲えって言われた。それが此岸だったら、家が言っていることは正しいんだが、俺は生憎彼岸だからな。半身が近くにいないと、衝動が溜まって、最悪魔物同然になり下がる」
あんなに強い月影が、魔物化する。……一つの災害だろ。
「なんか彼岸って怖いな……」
「だから、鬼人に鬼って言うなよ?鬼人が、衝動がたまって魔物化したのが鬼だから」
「そうなのか……」
カースティスから無理矢理に聞かされたを思い出す。ずっと、鬼と間違えた生徒に対し、あたりが強かったと聞いた。
「それだけで済んでたのが奇跡なくらいだ。他の鬼人なら、すぐさま相手を血祭りにする」
「……」
俺は知らず知らずのうちに恨みを買うかもしれないという事に、恐怖を抱いた。
「彼岸って、それなりの地位にいる此岸でもなければ、会わないからな。それに、彼岸、という単語で表されるくらい、ぶっ飛んでいるし」
「ああ。なんだか、人間とは根本的に違う生物だという事が分かった」
「はは、だが、精神的には一緒だから、化け物扱いするなよ?」
「今更月影を、化け物だとも思えん」
「そうか」
俺の言葉に、要はそう無基質に返したが、どことなく喜色がにじみ出ていた。
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