再会、からのドン引き
Side Miria
アインからの要請で、セオドアに行くことになった。
正直、久しぶりに会えると思ったのに、そうはいかないようだ。
それに、九星である私が、何故セオドアに行かなきゃいけないのか、よくわからない。
セオドアにも、私たちほどではないにしろ、優秀な騎士がいる筈だ。
アインがいないときは、彼らに任せたらいいのに。
私は、そんな風に思っていた。だって、セオドアまで行くのに、時間かかるし。
それに、早く異能力を覚醒させなきゃいけないし、それ以外にも、魔法の研究は欠かせないし。
なのに、何が楽しくて、世間知らずな王子様の護衛をしなきゃいけないのか。
アインは、悪い人間ホイホイな所があるから、どうせアインが懐いている、ってだけで信用できない。
まあ、初めて行く国だし、観光と割り切ればいいでしょ。
それに、アインから別に、頼まれたことがあるし。
私は、道すがらそんなことを考えていた。
とあるピンク頭の少女を見るまでは。
「久しぶりだね、03!いや、ミリアちゃん!!」
「え?は?ええ?」
そのピンク頭に抱きつかれ、そんな言葉を投げかけられる。
驚きと同様のあまり、意味もなさない音が私の口からこぼれる。
ただ、反射で受け止めた腕の中の少女をよく見てみると、なんとなく記憶にあるような……?
「いや、どちら様?」
「私よ、私!13よ!」
そういう彼女は、確かに13と同じく、桃色の髪に白髪が混ざった色をしていた。
この、元気の良さも、あの13そのものだが……。
「私の知る13は、4歳の時に死んだ筈よ。確かに、13と同じ髪色だけど、死者はララ姉の力を借りても、蘇らないの」
「それでも私は13!ほら、こんな特徴的な髪を忘れたの!?」
正直、納得してしまった。
「なにをしている、サティ。――みっともないから離れろ」
「そうよ。感動の再会は、こんなところじゃなくて、寮室でやってちょうだいな。みんな見ているわよ」
「はい!」
マティアス王子やジェシカ嬢が、私に抱きつくサティに注意した。
元気な返事と共に、私から素早く離れた少女、もといサティ。
私たちは、学園のアトリウムに移動した。生徒会室は、学園の機密情報を取り扱っているらしいし、そもそも私物化していい空間ではない。
寮は、男女でそもそも建物が違う。
私は、ソファに座るや否や、すぐさまサティに対し、話を切り出す。
「もし、貴女が13だとしたら、アインやラースが気づかない訳ないでしょ?」
「昔、アイン特製のパンケーキで記憶が混濁した経験があります!」
「……その時のメンバーは?」
「私とミリアちゃん、ラース、ゼストさんだよね?」
「……合ってるわ」
「ホントにアインってメシマズだったの~?」
紫髪のチャラ男が、信じられな~い、と言うので、私は神妙に頷く。
「私、最近記憶を思い出したの。ラースが来たときは、まだ記憶喪失中だったから、何も言わなかったらしいの」
「確かに、私も同じことするかもね。覚えていても、不幸しかないだろうし」
「……私は、ミリアちゃんのこと、思い出せてよかったよ」
私が顔を伏せて言ったことに、サティは私の手を握って、真剣な顔でそう言った。
サティは、昔と変わってない。いつも、マイナス思考に陥りそうになる私を、こうやって元気づけてくれる。
10年くらい会っていないのに、懐かしかった筈のこのやり取りが、まるで昨日のように感じる。
「それで、貴様のことなんだが」
「マティアス様~、もうちょっと空気読みましょ~?」
「おいカーティス!不敬だろう!いい加減な話し方をするな!」
「――俺の護衛はしなくていい。名目上、それでしか九星を動かせないからな。そこのサティと、貴様を会わせたいがために、アインが画策したことだ。
この国で観光しながら、旧交を温めるといい」
それが、この人の優しさだと思った。
――あら、案外いい男じゃない。
心の中で、そんな失礼なことを考えるほど、予想外の出来事だった。
「なら、私から一つ聞かせてもらいますね」
私は、まっすぐとマティアス王子の目を見ながら、こう言った。
「レイモンドと言う人をご存じですか?アインがその人と共同開発した薬を、貰わなきゃいけないんです」
「レイ……モンド?」
ぴしり、と動きが固まる。
「ん?誰だろー?」
「殿下、ご存じなのですか?」
「アインが、まだその男と会っている……?」
「その方、アインとは畑違いの研究をしている研究者らしいんですけど、とても優秀な研究者らしいんです。――アインがいつまでも作れなかった薬を、その人のアイディアで、完成させることができたらしいんですよ」
私は、そんなことをマティアス王子に言うが、彼は顔が完全にひきつっていた。
「密室で二人きりか……?あの男と……?」
マティアス王子は、わなわなと震えている。
私は、少し嫌な予感がした。
「警告してやったのに……。密室で二人きり?」
ぞっとするほど感情がない。嵐の静けさを纏っている。
――これ、地雷を踏んだかしら?
私は、冷や汗を流した。
「……潰す」
「やっばぁ。一体その人に、過去何をされたんですか」
「た、た、多分、ふふ、ふ、二人きりで、けけ研究なんか、してなかったと、お、思うなあ!!」
チャラ男がドン引きした表情でそう言った。
サティが、物凄く動揺して、言葉がどもっていた。
――あんた、一体どんな男をひっかけてんのよ!!!
私はアインに対し、心の中でそう叫ぶしかなかった……。




